四騎士スワッピングねた 後編

口づけはしない。
不文律はあれど、他にはこれといった振る舞いを律せよという軛はなかった。
だからいつもの調子で──パーシヴァル相手の時と同じように、ジークフリートはランスロットを抱いた。
するとどうだ。
突然泣かれたではないか。
痛いです、と。
これには竜殺しも焦った。慌てた。多少動けば互いに快楽も得られ、事は済むかと思っていた浅はかな自分へ呪詛を吐いた。目の前の存在はパーシヴァルではない、別の存在だという現実と正しく向き合っていなかったと気付かされた。
目尻に浮かんでいた涙を、指の腹で拭う。繰り返し、繰り返し。泉のように湧いてくる雫が止まった頃には、頬を赤らめたランスロットがジークフリートを見上げていた。
隣の様子を気にする余裕は、ランスロットからとうに失われている。痛みで体はすくみ上り、股間のものも萎えている。パーシヴァルとは異なる形で、ランスロットもまた日頃とは違う相手に怯えていたのだ。
……当然の事かと、ジークフリートはひとり呟いた。自分の心が選んだ相手ではない、違う存在に身を明け渡す恐ろしさを、ジークフリートは経験していない。想う相手を隅々まで支配する悦びこそ知れど、まだまだ想像もつかぬ苦しみも悲しみも多いことが、心に影を落とさせた。
「……ランスロット」
だから極力、怖がらせぬように。恐れられぬように。これ以上傷つけない状態で、ヴェインのもとへと帰せるように──己の中にあった傲りにも似た何かを両断したジークフリートは、何よりもまずランスロットの『治療』に専念すると決めた。
片方の手で、パーシヴァルの心の安寧を保ちながら。
もう片方の手で、形ばかりながらもランスロットを愛する。
それくらいしか、出来ることがなかった。
ふかふかと柔らかなランスロットの中は、まだ男を知って日が浅いのか、或いは余程大切に体を拓かれたのか、それともその両方なのか──実に初々しい反応を返してくれる。気位の高いパーシヴァルとはまるで性格は似ていないが、初めて彼を手中に収めた時のことが蘇り、当時を思い出しながら試しに手順を準えてみることにした。
(確か、浅いところからじっくりと、責めるのだったか)
ゆっくりと腰を引き、大部分を抜いてから先端を使って孔の縁を擦る。じれったいほどの速さで揺らしてやれば、ランスロットの体内もひくひくと蠢き始める。意外なところでの共通点を見出したジークフリートにも、僅かな余裕が生まれていく。
「ランスロット、痛くはないか」
わかっていながら、あえて問いかけたのはちょっとした悪戯心に根差してのこと。くったりとしていたランスロットの性器も兆していると知りながら、助長するかのように扱いてやれば、耳にしたことのない高くか細い声が聞こえてきた。
「今度は、気持ちいい、です……ジークフリートさん」
やはり、か。
確証を得たジークフリートは、そのまま浅い位置での抜き差しを中心に、時折深くランスロットの内を穿った。あくまでもゆっくりと、ではあったが……今度はランスロットも痛がらなかった。吐息のトーンも変化している。先端からも液が滲み出しており、それを指先で掬って塗りこめてやれば、耐えていたであろう甘い声がとうとう吐き出され始めた。
「う、ぁっ……」
声とともに、中がきゅうっと締められる。内部に溜まっていた潤滑油でもあったのか、ジークフリートのものの先端にも新たな蜜が塗される。動きを僅かに速めてみても、甘い声は絶えない。体内を穿つ新たな動きに順応しつつある証だった。
「ん、んっ……んぅっ……!」
通算で三度目の蜜を吐き出したランスロットが、無意識に背を丸めてジークフリートにしがみつく。新たな迸りがランスロットの腹を汚し、先にヴェインによってつけられていた跡の上に点々と散っていく。吐精を促すようにじっくりとランスロットの雄を扱いていたジークフリートの手もいつしか動きを止めていて、勢いを失った頃に根元から一度慎重に扱き、とろりと溢れてくる最後の一滴を確認して。長く続いたランスロットの射精は終わった。
目を閉じて快楽の余韻に耽っているランスロットの片足を抱えたジークフリートは、多少手荒ではあったが自身の快楽のためにやや激しく腰を使い。ぐちゅぐちゅと激しい水音を立てながらの抜き差しで苦し気なランスロットの声が聞こえようとも動きを止めず、思うがままに初々しい花を蹂躙した。
「な、なにして、るんですか」
ちょっとした思いつきで、ランスロットが出したばかりの精液を指先で掬い舐めてみれば、よく知る味とほぼ同じものが口中に広がる。
「いや、出したものは総じて同じ味なのだろうかと確かめただけだ」
一から十まで説明する必要は、この場にはなかった。
察したランスロットがぷいと横を見れば、部屋に運ばれてきた時には気づかなかった姿見に、自分が映っているのが見えて。また正面を見れば、愛弟子を見つめる師の目がそこにあり。逆を見るのはあまりに衝撃が大きすぎて見るに見られず。
結局目を閉じる以外の、妥当な選択肢はなかった。
そんなランスロットをよそに、ジークフリートは『開拓』に余念がなかった。いずれヴェインとの間でも同じ域に達するだろうという心遣いがおかしな方向に暴走しての行為だったが、結果としてそれは吉と出た。
隣にいるヴェインがぎょっとしてランスロットの方を見るほどの、甘えた声がかの人の喉から生み出されたためだ。
「ん、ああっ!」
このあたりか、と目星をつけていた箇所──前立腺と名称がつけられ久しいその箇所を、容赦なくジークフリートは抉る。他にも開拓しておきたい場所はあったが、手っ取り早いのはこちらかと的を絞り、重点的に責めていく。
「や、ぁ、だめ、だめです、そこ、そこはぁ……!」
髪を振り乱して身をよじるランスロット。だがその動きさえも片手で封じ、容赦のないピストン運動でジークフリートはランスロットを追いつめていく。
もう無理です、とランスロットが白旗を揚げ、やむを得ずランスロットのものの根元を押さえた状態でしばらく抜き差しを繰り返してようやく、ジークフリートにも昏い快楽が訪れた。
既に違う男の精を受け止めている体を、自分の色へと染め変えていく──ある種の征服欲が満たされたのを、確かにジークフリートは感じ取っていた。
「っ、ジークフリート、さんの……つめ、たい……っ!」
体内に浴びせかけられている精液は体温よりもいくらか温度が低いだけなのだが、発熱したランスロットの体にはかなりの温度差として受け止められた。
それでも、ジークフリートの吐精が終わった頃には熱もすっかり引いていて。へどもどしながら、ランスロットは身動ぎを繰り返した。
「あの、その、ジークフリートさん……俺はもう落ち着いたので、ぬ、抜いて……下さい……」
「……本当にもう、大丈夫なのか?」
前のめりになったジークフリートが、ランスロットの額に掌を押し当てる。
「だから、本当に大丈夫なので……先に、抜いてください」
また変な気持ちに、なってきますから。
そこまで言われてようやく、まだランスロットの中に根元まで入れっぱなしであったとジークフリートは気が付いた。
栓をしていたものを引き抜けば、中に放たれた二人分の白濁がとろとろと溢れ出てきて、とても煽情的な眺めが広がっていて。思わず目を細めて見入るジークフリートだったが、すぐに視線は恋人──パーシヴァルのもとへと戻された。
そしてすぐに血相を変えた。まだ二人は何も始めていなかったから。
「──ヴェイン。お前は、パーシヴァルを抱けないか」
「そ、そういう訳じゃなくてですね、その……」
言いよどむヴェインと、わずかな棘を持った問を投げかけるジークフリート。
「やっぱり、ジークフリートさん以外の人が、パーさんとこういうことするのは、いけない事なんじゃないかって、考えてしまって──」
「…………そうか。では、ランスロットもほぼ元に戻ったようだし、話をするとしようか」
パーシヴァルの手を優しく包んだまま、ジークフリートはパーシヴァルから聞いた『仮説』についての説明を始めた。

パーシヴァルが発熱を患いながらも必死に書物を漁った末に得た情報は、魔物討伐の後遺症についての記述であった。
似た症例への根治対処として書かれていた医師のカルテを読み解いた結果、頭を抱えたくなる事項がいくつかあり。
実践して判明したものも含めて、ヴェイン、ランスロット両名に伝えられた情報は合わせて三つ。
一つ目。二人分の体液を体内で混ぜ合わせる必要があること。
二つ目。これはパーシヴァルが体を張って確認した事実であるが、二人分、の数え方は自分自身を除いての二人であること。
三つ目。唾液等では効果が薄く、遺伝情報を持つ体液が効果的であること。
「つまり……」
ヴェインに担がれてきた時の毛布に身を包んで、少し離れたところにある椅子に腰かけたランスロットが、青い顔をして話をまとめようとする。
「そういう事、か」
三つの情報を総合し、いきつく結論など多くはない。
設備の整った大きな医療施設からは遠いこの空域で、手っ取り早く出来ることと言えば。
気心の知れた四人で、スワッピングに至る以外には、なかったと言えるだろう。
「だとしたら……ヴェイン、手早く済ませろ」
拗ねた口ぶりでランスロットはヴェインに命令する。
「ランちゃん!?」
「パーシヴァルを治すにはお前しか適任はいないだろう。俺には無理だ。もう体力がない」
どこかの誰かが好き勝手してくれたせいでな、と毛布を捲って肌をチラチラと見せてくるランスロット。
思い当たる節しかないヴェインはため息をつき、仕方なしとはパーシヴァルに失礼だろう、とジークフリートに窘められていた。
(ヴェインが俺以外の誰かを抱くなんて考えたくなかったけど……状況が状況だし……つらいのは、俺だけじゃないもんな)
日頃から散々罵られている相手に欲情しろと命令されたヴェイン。
状況の全体像にいち早く辿り着き、可能性を模索した結果心を折られそうになっているパーシヴァル。
役割は果たしたものの、恋人が苦しむ様子を隣で見ている事しかできないジークフリート。
四者それぞれの苦しみが交差する中で、先延ばしにされていたパーシヴァルへの試練が、いよいよ降ってかかろうとしていた。

「……パーさん」
枕元に移動し身を乗り出して口づけてくるジークフリートにパーシヴァルは夢中で、ヴェインのことなどまるで気にかけていない。どれだけ強く突いても、揺すっても、パーシヴァルはジークフリートの方しか見ようとしていない。
まるで自分を見てくれないパーシヴァルに機嫌を損ねられたヴェインは、ちょっとした意趣返しのつもりでジークフリートの真似をしてみた。
「パーシィ、俺の方見て」
すると。
「い、嫌、です……たすけて、兄上」
なんとジークフリート以外の存在に助けを求めたではないか。
「こら」
穏やかな口調で、口づけを解いたジークフリートがヴェインの頭を小突く。
「まだパーシヴァルは、俺と『二人きり』だと認識出来ている時しか、愛称で呼んでも答えてくれない」
俺が相手でもそうだった。過去に何か嫌な経験でもあったのかもしれないな、と何やら不穏な事件を匂わせる発言をしたきり、ジークフリートは黙ってしまった。
「そう、ですか……じゃあ……ねえ、『パーさん』」
「いや、だ……早く、抜け……っ」
先ほどとはヴェインの扱いを変えるパーシヴァル。彼にとってはまだこちらの方が、ヴェイン個人を認識できるのだろう。『治療』そっちのけで何とか結合を解こうとしてもがくパーシヴァルに、再びジークフリートが口づける。
「大丈夫だ」
俺はここにいる。心配することは何もない、だから安心して身を委ねてほしい。
そんなような事を目で語るジークフリートに見つめられ、ようやくパーシヴァルも警戒をある程度解いた。
「う、わっ……」
緩められていたところを一気に締められ、もたらされた快楽をやり過ごすべく目を閉じるヴェイン。
「気をつけろ、パーシヴァルはランスロットとは違うぞ」
これはこれで、拷問のような性交になりそうだな、とヴェインは予測し。
その予測は、当たってしまった。
「ん、やっ……奥、おく、もっと……!」
「ちょ、緩めて、緩めてってばパーさん、突けないし動けないし出そうだし!」
すぐにも極めてしまいたくなるほどに、拓かれているパーシヴァルの体は佳かった。幼馴染との初々しい交合は夢や幻想のようで。生々しい快楽が次から次へと押し寄せてきて、ヴェインの先端からは後から後からカウパーが漏れ出て止まらなかった。
「出るなら出して、とっとと、ぬ、抜け……っ、この、駄犬が……っ!」
それでも少しは調子が出てきたのか、ヴェインのことを蔑称で呼んでくるではないか。パーシヴァルばかり余裕があるような印象を抱いたヴェインは、意地でもパーシヴァルに一泡吹かせなければ沽券に関わるとでも考えたらしい。
パーシヴァルの膝裏をそれぞれの手で持ち上げ、陰部が丸見えになる格好にしてから、ほぼ真上から突き下ろした。
「──っつ!」
端整なつくりのパーシヴァルの顔が歪む。肉と肉をぶつけ合う音を立てて突き下ろし続けてやれば、パーシヴァルの声からも先ほどあったような余裕が失われ、意味をなさない喘ぎ声へと変わっていく。
ぐちゃぐちゃになった体内は緩急をつけてヴェインを締めつけ、視界には火花が散って。知らず達していたヴェインの先端から精が溢れ、それでも律動を止めようとはしないヴェインにパーシヴァルが振り回され始めた時。
ぴゅるるるっ、と小気味よい音を立てて、パーシヴァルの顔目がけて放たれるものがあった。
「……やれやれ。俺相手ではなかなか吹いてくれないのに」
枕元の手巾を手にしたジークフリートが、潮を吹いてしまったパーシヴァルの顔を拭いていく。
きゅうきゅうと締めつけるパーシヴァルの体内によってありったけの精液を搾り取られたヴェインであったが、すぐに兆してもう一度放てる状態までに回復したのだが。
「……おい。俺の熱はもう下がった。とっとと出ていけ、駄犬風情に俺の体を明け渡す許可がそう簡単に下りると思うな」
その前に、パーシヴァルの方が復調したのであった。
が。
「……おい、早く抜けと言っている……! もう一度はないぞ、早く俺の中から出ていけ」
兆しているヴェインの事情など知った事ではないパーシヴァルは、なかなか出ていこうとしないヴェインを蹴ろうとしては失敗し、逆に深く受け入れる体勢になってしまっていて。
「っ、おい……! いい加減にしろと……ん、う……っ……」
普段のパーシヴァルと、褥でのパーシヴァルの姿の変わりように、傍で見ているランスロットですら呑み込まれようとしていた、まさにその時。
「ヴェイン、何も見なかったことにしてやるから早めに抜いてやってくれ」
ジークフリートの鶴の一声があった。
「パーさん、頼むから、そのまま動かないで……締め付けないで……」
腰を引き、勃起したままの陰茎をどうにか抜くことには成功したのだが……雁首を引き抜く時、無意識にパーシヴァルが締めつけてしまったものだから、抜けた拍子にもう一度、ヴェインは射精してしまい。
放物線を描いた精液は、拭いたばかりのパーシヴァルの顔に、ほぼ全てかかってしまっていた。

(……パーさんのナカ、すごかったなぁ……)
パーシヴァルの素質が卓抜しているのか、それともジークフリートの開拓が入念になされていたのか。吐精の余韻でぼんやりと、パーシヴァルの体内へと続く孔を見つめていたヴェインは、そもそも孔の形状が幼馴染のそれとは違っていることには気づかなかった。
とろとろと溢れて出てくる二人分の精液がシーツに染みこみそうな位垂れてきているのを、そっとジークフリートが拭っていく。
「……ヴェイン、『治療』は済んだのだからランスロットについていてやってくれないか?」
ここは俺の領分だ、と言わんばかりの冷たい目を向けられ。冷ややかさに背すじの凍る思いをしたヴェインは、すぐさまランスロットのもとへと駆け寄った。
「だ、大丈夫だった? ランちゃん」
こっちは大丈夫じゃないみたいだけど、と漏れ出た精液で汚れた毛布を指さし、ヴェインは問いかける。
「俺はもう大丈夫だ、心配かけたな」
「……毛布の洗濯の時、見つかったらどう言い訳しよう……」
「俺の部屋の掃除をしていた時に出てきた設定にすれば問題ないだろう」
自分の悪癖を逆手に取る気でいるランスロットは、確かにいつもの茶目っ気のあるランスロットで、ヴェインはほっと胸を撫でおろし。
「全く……あいつらは元気すぎるのが問題だな」
一番長く発熱に悩まされたせいで疲労困憊、口数の減っているパーシヴァルに。
「ともかく、パーシヴァルもランスロットも症状が落ち着いてよかったじゃないか」
どこか的外れなことを言い出し安堵する年長者、ジークフリート。
悪い夢のような災難に見舞われたにしては、四人ともそれなりに元気になっていた。

こんなことさえなければ。

「ちょ、ランちゃんはいいとして、なんでパーさんまで!」
「仕方がないだろう、お前だけあの時パーシヴァルのを舐めなかったんだから」
「俺はお前に突っ込むような趣味はないからな、口で勘弁してやると言っている、だから……早くしろ、猿轡は持参した」
「パーさんそんなに声激しいの!?」
数日後ヴェインが熱を出し、同じ症状ではないかと疑った他三人の会談によってヴェインの部屋に送り込まれた刺客は二人。
ランスロットと、パーシヴァル。
一体その後どうなったのかは、お察しください、といったところである。

[ 5/37 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -