グラシエ 団長とえっちなお兄さん

部屋にひとつしかないドアをノックする音がしたから、日誌を書く手を止めてドアの鍵を開けるとにこにこ笑ってるシエテが立ってて。
相変わらずなんか胡散臭いなあ、とは思ったけど。それを表情に出したところで引き下がるような性格をしていたらそれはシエテの偽物だし、想像するだけ損な上に気色悪い。
僕に用があるのは間違いなさそうだったから、とりあえず部屋に入るように促した。
「用がないのに来た、なんてことはないんだろうから……余計な詮索も物色もしないって約束できるなら、入ってもいいよ」
するするぅ、と上機嫌に答えたシエテの目は、八割くらいの割合でちゃんと笑ってる。
これなら大丈夫だろうと思ったから、彼を部屋の中に招き入れた。
癖毛をぴょこぴょこ跳ねさせながらなかなかに軽やかに歩くシエテ。
どんな用事があって、みんながもう寝静まるような時間を狙って僕のところに来たのかなんて、聞くだけ意味がないと思ったから追求する気になんてなれなかった。

さて、そんなシエテは早速僕の部屋でも自分のペースで振舞い始めて。
「団長ちゃん団長ちゃん、欲求不満で眠れないって聞いたんだけどほんと?」
開けっ放しだったドアを閉めたシエテが僕の方に向き直り、シエテ特製ブレンドの蜂蜜入りホットミルク──蜂蜜とシナモンの香りがたちのぼる、甘くてほっとする味わいってことしかまだ割り出せていない──をなみなみと注いだマグカップを僕に渡しながら、なんだか意味深なことを言う。
旅は順調で力を貸してくれる仲間と呼べる人もあちこちに増え、この先の航路にもこれといった不安材料もないのに。どうしてシエテは、僕を欲求不満だと断じているんだろう。
「……眠りはこのところ多少浅い自覚はあるよ。成長痛が気になっちゃってるせいだと思ってたんだけど、シエテは僕をそうは見てないってこと?」
シエテが来る前から書いていた日誌を閉じて、受け取ったマグカップに口を付ける。
飲みやすいのに温かさを十分に感じる、ほどよい温度のホットミルク。艇にいる仲間は色々と食べ物にも工夫を凝らす人が多いせいか、最初はホットミルクに少量の砂糖しか入れて持ってこなかったシエテも影響されて、いつの間にか秘密のレシピを考案して僕のところに押しかけてくるようにもなって。
元からそういう人なのかもしれないけど、僕はやっぱりシエテのことがよくわからないと思う場面が多い。
今だってそう。
表向きはホットミルクをこしらえて、夜更かししている僕を寝かしつけに来た面倒見のいい大人の一人としての行動を取っているわけだけど。僕の部屋に来た理由は、絶対に違うところにあると勘が叫ぶ。
「成長痛による睡眠欲の高まりなら、この時間まで一人で机仕事やるなんて考えにくいでしょ?」
椅子に腰を下ろしてる僕の顔を覗き込み、何かよくないイタズラを企んでいそうな声のトーンでシエテは続ける。
「団長ちゃん、変なところでマジメだからきっと気づいてないと思うんだよね〜」
真面目? 僕が?
言葉の奥にある意図を強引に読まされる、シエテとの知恵比べはいつもならとても充実した時間になるんだけど。
人体が欲する何らかの求めに対する報酬に飢えているらしき今の僕にとっては、やや癪に障るとも言えた。
けどそれをそうと口に出すと、シエテはのらりくらりとはぐらかして、年少者扱いした上で適当にあしらおうとするに違いない。
そうなるのを避けるために、僕は僕なりに知恵を絞ることにした。
「気づいてないって、大人のシエテにはわかるなら」
シエテが子ども扱いする僕に教えてよ、そうでなきゃわからないことだってきっとあるはずだから。
僕が存外真剣な目をして言葉をぶつけたせいか、あるいは予想外の反応が帰ってきたと思われたのか。
一瞬きょとんとしたシエテが目を輝かせたのち、口元で弧を描いた。
「あのね、団長ちゃんはね──」

お兄さんの見立てだと、えっちなことをしたいって体が悲鳴を上げてるんだと思うんだ。
団長ちゃんももう、そういうお年頃だからさ。
でも、他の人には打ち明けちゃだめだよ?
厄介なことに巻き込んだり巻き込まれたりするのは、団長ちゃんだって望んでないでしょ?

言われて、頬がかあっと熱くなった。
そういうことなら合点がいく。
そういった欲求なら、発散させた覚えがないから。
「シエテは、僕のことよく見てるね」
「そりゃあね、このところ精彩をほんの少しだけ欠いてるなって思って見てたからね」
発散の仕方はシエテお兄さん詳しいから、団長ちゃんに教えてあげられるし。
そんなことを言うシエテは、冷めかけてるホットミルクを飲み干すよう僕に促す。
言葉の通り飲み干すと、底の方の分が一気に甘くなり、同時にアルコールの風味が口の中に広がる。
「……何入れたのさ、いつもと味違うよ、シエテ」
「お祝いを何滴か垂らしたんだよ」
この風味は多分、お菓子作りにも使われるラム酒だと思う。
全く知らない風味じゃなかった。ほわほわするのはお酒なんだろうなって感じだけど。
「さて団長ちゃん」
お兄さんから提案がありまーす、と軽い調子で何やら言い出したげなシエテ。
「シエテお兄さんと運動しない? 夜しかできないやつね」
目元をやわらかく緩めたシエテが、前を寛げ下穿きを脱ぎ、僕の目の前で股のものをぶらぶらと揺らす。
目じりをほんのりと朱に染めながら。

団長ちゃんも脱いでほら。
裸になったシエテはもうやけくそなのか、色素の薄さが肌の薄桃色で感じられる裸体を惜しげもなく見せつけながら僕に迫ってくる。
パーカーに手をかけて勝手に脱がせようとしてきたから、丁重にお断りして自分で脱ぐとなんだか視線が思いっきり刺さる。視線を振り払うようにさっさと脱いでしまうと、やだ団長ちゃんったらカラダ思ってたより仕上がってる、なんてしょうもないセリフを吐いたりして。
僕の裸の上半身なんて何度見たのか数えても仕方ないはずなのに、なんだか空虚だ。
「──団長ちゃん、よそ見しないで」
ちゃんと全部教えてあげるから。責任もって。
いつになく真剣な目をしたからちょっとだけ気圧された隙に、下を一気に脱がされた。
「まだ石鹸の匂いがちょっと残ってるね」
自分にも同じものがついてるのに、そんなところ嗅いで楽しいのか全然わからない。
けど。
シエテが僕の陰茎の先端を口の中に含んだ時、想像したことない感覚が生まれて神経と思考を侵食していった。
ひとりでに腰が前後に揺れて、跪いているシエテの後頭部を押さえつけて。奥深くまで咥えさせるように、ぐっと押し込むと喉の奥の方の粘膜がぬるぬるして気持ちよくて。
(……シエテの口の中、きもちいい)
頭の中が、そればかりになる。
ぶるっと腰が震えたと思ったら、腹の奥で凝り固まっていた何かが少しだけ緩んで、鋭い快感と共にそれは吐き出されていった。
僕が出したものをシエテは口の中にため込み、軽く口をあけて舌の上で転がしている様子を見せてからゆっくりと飲み込んだ。そういうものだとは思えないんだけどな。
「団長ちゃんのココ、元気なままだね」
口を離したシエテは、屹立したままの僕の陰茎を指先で撫で硬さを確かめている。
ゆったりとした動きで勝手に僕のベッドの上で四つん這いになり、僕を手招きした。
「うーん、ちょっと違うかな、団長ちゃん」
なんでも、隣じゃなくて背後に、膝立ちになって『あてがえ』ってことらしい。
でも、どこに。
「俺、さ……準備もしてきちゃったんだよね」
広めに足を開いたシエテが、尻の肉を持ち上げ開いて穴を露出させる。
そこにあったのは尻の穴でしかないはずなのに、液で濡れてててらてら光ってて……両手の親指を使って左右に広げてみると、窄まりからたらりと垂れてきて。
「そうだ団長ちゃん、先にタオル敷いた方がいいかも」
大きめのやつがいいかな、とか言いながら、シエテは僕を顎でこき使う。けどもう慣れた。何かするつもりなのはわかるけど、この先何がどうなるのかははっきりとイメージできてるわけじゃないし。
一旦シエテから離れて収納棚から大きなタオルを一枚取り出し、厚みも出るように半分に折ってからシエテの股の間に広げる。
さっき垂れた分はシエテの太ももを半分ほど伝ったところで液だまりを作っていたから、それもついでにふき取って。
あらためてシエテの尻に向き合えば、振り返ってたシエテと視線が絡み合う。
「大体わかると思うけどさぁ」
背をそらし、左手一本で上体を支えているシエテが、反対の手で尻を割り開いて僕に見せつけてくる。煽るつもりでいるんだろうな。
「俺のココに、団長ちゃんのおちんちん入れて、じゅぽじゅぽしてみて?」
すっごく気持ちいいから。俺のココで、団長ちゃんは、男の子を卒業して一人前の男になるんだよ。
前半は囁くように。後半は獣欲を隠そうともせずに。聞いたこともない艶っぽい声で、僕を誘うシエテ。
何がどうなるのか知りたいって欲求と、まだ言葉にできない本能からきている欲望と。
好奇心とある種の知識欲が僕の背中と、腰を押した。
天を仰ぐような角度まで反り返っている陰茎を持ち、シエテの穴に密着させる。
少し粘り気のある潤滑液でしっかり濡れているそこは、あたたかくて、やわらかくて、いかにも秘密の場所って感じがして。
こんなことしちゃってもいいのかなって、ためらったのは一瞬だけ。
だって、陰茎の先端を触れさせただけなのに、そこの中に奥まで入れたらとても気持ちよさそうだなってことが僕でも簡単に推測できたから。
慎重に、腰を押し付けてシエテの中に入っていけば。
中がうねって締め付けてくる上に、いつも飄々としているシエテからは想像もつかないような、か細くて高いトーンの声が聞けた。
だから全部収めてしまう前に、シエテの声が聞こえた時に通過したと思われる場所を行き来してみたら。
「やっ、団長ちゃん、そこだめだってば……」
お兄さんまで気持ちよくなっちゃうからそこはダメ、我慢しないで団長ちゃんの好きなように動いて、なんて言うんだ。
ひとまず一度は言うことを聞かないと後が面倒なことになるから、奥まで入れてシエテの中の粘膜で先端をこする。
きもちいいな、シエテのなか。
そう感じたのが早かったのか、もう一度陰茎の先から粘液が放たれるのが早かったのか。
気づけば僕は腰をめいっぱいシエテに押し付けて射精していて、たっぷりとシエテの中を白く染めていた。
でも、全然足りない。
少しずつだけど、どうすれば気持ちよくなれるのかをわかってきた影響か、心の底から満足するほど気持ちよくなってしまいたいって思いがむくむくと頭をもたげる。
「……っ、団長ちゃん、いっぱい出たね……」
ナカ、とろとろになってるのわかるよ。
その言葉は正しかった。
ちょっと腰を前後に動かしただけでちゅぷちゅぷ音が立つし、さっきよりも滑りが良くなったのかぬるぬるしているシエテの中がきゅんきゅんと僕のモノを締め付けてくる。
シエテの体に好き勝手することへの遠慮もなくなってきた僕は、両手でシエテの腰を掴んで固定し、小刻みに腰を前後に振った。
「だ、団長ちゃぁん……だめ、お兄さん、そうされるの弱いから……」
僕の表情を観察する余裕は、いつの間にかシエテからなくなっていたみたい。
両肘までをシーツにつけて、四つん這いを何とか保ち体重を支える彼は、控えめながらも兆していて。股の間のモノも膨らみ、硬度と角度を持ちつつあるようだった。
そこに触れるのは簡単だけど、まだ触れるのは早い気がして、シエテの中を穿つのに専念することにして。
筒状の粘膜には細かな襞があって、襞の感触を味わいながら中を擦っていくと、周囲と少しばかり違う手ごたえのある場所を見つけた。
ふかふかやわらかなその場所を狙い、露骨に抉ってやると。シエテは顕著な反応を見せて高らかに喘いだ。
「や、そこ……っ、団長ちゃん、じょぉずぅ!」
シエテの弱いところはここだったのか。最初はやわらかかった内側の定点もすぐに硬くなっていき、しっかりと反発して僕の亀頭に快さをくれる。
じゅぽじゅぽ、ぐちゅぐちゅ。そんな音にシエテの吐息と声が伴って、聞き耳を立てられたら一発でわかるようないやらしい場に、僕の部屋が変わっていく。
もうそろそろかな。
シエテの股でゆらゆら揺れている陰茎を握りゆっくりと扱きながら、中に埋め込んだモノを大きめのストロークで抜き差しする。
引き抜く時に精液と潤滑液の混じりあったものがタオルに滴り落ちるけど、シーツがそもそもどうなっているかなんてもうどうでもよかった。
たらたらと我慢汁をあふれさせているシエテの陰茎の先端は、もうぬるぬるのべたべた。これじゃあどっちの欲求不満解消なのかわかんないくらい、シエテも気持ちよくなっちゃってるみたいだった。
あふれ出ている我慢汁が少しばかり濃くなった気がしたタイミングで、僕はシエテの先端の窪みを指先で繰り返し愛撫して。
あわせて睾丸も軽くもみ、中のクルミ大の器官をこすり合わせてやれば、とうとうシエテが音を上げた。
「団長ちゃん、団長ちゃん……! 俺、イっちゃう、イっちゃうって……!」
口の端から唾液を垂らし、ハァハァ喘ぐシエテはただの一人のヒューマン。十天衆なんていう大層な肩書きを背負っているようには見えない、快楽の奴隷の一人だ。
ちゅぷんと音を立てて根元まで挿入し直してから、僕はシエテに『お礼』するためにひたすらシエテの陰茎と睾丸に奉仕を続けた。
自分でするときも、両方弄った時の方が気持ちよかったから。
「ん、っあ、だめ、団長ちゃん、俺、もう、出……んん、あっ……」
ピュッ、ピュッ、と繰り返し先端から吐き出されるねっとり粘ついた精液。
なんだ、シエテも溜まってたんじゃないか。
盛大に中が締まり、緩急つけてうごめく粘膜は、もう僕の形を覚えたのかみっちりと包んで放してくれなくて。
本当は色々なことを考えなきゃいけないはずだったのに、そういうのは全部かなぐり捨てて、今はただシエテの中に全部出し切ってしまいたくてたまらなくて。
「っ、シエテ、中に……あ、出そう……う、ぁっ……!」
千切られそうなほどにきつく締まるシエテの中に、もう一度僕は精液を吐き出し。
根元から陰茎を丸ごと包まれる多幸感に酔いしれながら、汗ばんでいるシエテの背中に口づけを何度も贈った。
「……団長、ちゃん……一回抜いて、体勢変えるから」
長い射精を終えたシエテは、まだ出し切っていないのに僕の体を半ば無理やり引きはがして、ベッドに横たわり壁に背を向けた。
それから足を開き片足を抱え上げて、まだ口を開けたままの穴を指さしてもう一度入れるように僕を促して。
お互いの足を松葉に見立て、それが交差するようになる体勢は、一度挿入してしまえば簡単には抜けていかない分だけ大胆に腰を使えるなかなかに卑猥な体位だった。
上気した顔も、薄桃色に色づいた肌も、まだ精液で濡れている陰茎も。シエテの恥ずかしい姿が見放題だ。
乳首をくすぐれば背が反るし、下生えの剃り跡をあえて触れば面映ゆそうな表情が見られるし、この体勢はいいかもしれない。
何度か出しているうちに楽になってきたから、本当にそういう意味の欲求不満だったみたいだ。
引き締まったシエテの内腿に僕の睾丸があたる音がするのも、なんだか新鮮で。
シエテの下腹部を撫でた時に奇妙な反応をしたのを見落とすくらいには、僕はシエテとの行為に没入していたんだ。

お互いの精液がタオルだけでなくシーツまで汚している事実を知っても欲求不満の解消はとめられずに、結局シエテが僕の目の前でお漏らしするまで続けてしまったんだ。
ちょっと悪い事、したかもしれないな。

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