ジクパー 何の変哲もない現パロっぽいもの1(続きそう)

日常と非日常をすり替えてくれる夢のような薬が開発され、被験者を募集しているらしい。
と、目の前で味付けを失敗した薄味のナポリタンをフォークでからめとっては口に運んでいる男──ジークフリートは目線も上げずに明かした。
三人掛けのカウチの真ん中を陣取って、パスタを腹に収めてうるさい虫を黙らせにかかっている最中のはずが、どうしてまた唐突に。
またこいつに守秘義務の何たるかを説教せねばならないのか、とうんざりしなくもないが、小言係をジークフリートの勤め先の社長直々に任命されている以上は根気よく教え込ませばなるまい。パーシヴァルが、やれやれ、と肩をすくめてみせるとようやく自分のしでかしに気が付いたのか。
ローテーブルの上の大皿を持ちパスタの残りを一気に口の中へと押し込み、ろくに咀嚼もせず飲み込んで、珍しく逸る気持ちを抑えきれないといった様子でジークフリートはまくしたてようとした。
「当分の間は機密情報ではあるんだが、効果と安全性が確認されれば娯楽の歴史が──」
「それを俺に話してどうするつもりだジークフリート」
話が思いのほか長かった時に備えて、ひとまず食べ終えた大皿とフォークを水を張った洗いおけに浸しておく。パーシヴァルがキッチンに向かうくらいの間は待てるようで、ジークフリートは尻の据わりをやや悪そうにしながらも、隣にパーシヴァルが掛けやすいようにやや右に寄って座り直した。
戻ってきたパーシヴァルがジークフリートのすぐ左に腰を下ろし、ペーパーナプキンでジークフリートの口の端を拭おうとするも、とことん自身に無頓着な男は伸ばされた手を取り肉付きの薄い手のひらを舌先で一舐め。その行為の意味を知っているのかいないのか、そこまではまだパーシヴァルは突き止めていないが即刻止めさせなければ話の続きはピロートークまで持ち越しになりそうだ。それでは話の内容などぼんやりした頭の事だから八割は素通りさせてしまうに違いない。あわてて手を引っ込めナポリタンの名残のことは諦めると、きょとんとしたジークフリートが、そういえば話の途中だった、ととことんマイペースに続きを口にし始めた。
「パーシヴァルは、いつも仕事と家のことで一日の大半の時間を使ってしまっているだろう?」
この同居人は家事ができないわけでもないし自分以外の存在におしつける気でいるでもないのに、なかなか自発的に家の雑事をやろうとはしない。家の中が少々乱雑になっても塵埃が気になり始めても死ぬわけでなし、と気に留めるラインが妙に高いのだが、整理整頓も清掃も行き届いた家庭で長年過ごしたパーシヴァルにしてみれば先に気になった側が気が済む程度に家事をやるのが効果的、という頭があるためつい何かにつけ雑事を担当してしまい時間と手間を費やしてしまうことがとても多かった。
「確かにそうだが、自覚があるならもう少し早めに掃除だけでもだな」
「そこはその、今後善処する」
後頭部をがりがりと掻きながら申し訳なさそうにジークフリートは眉尻を下げ、背を丸めてパーシヴァルの表情を上目遣いでうかがう。
それがなんとも苦笑したくなる哀愁をただよわせていて、ついパーシヴァルは本題を忘れてジークフリートの腿に手を這わせてしまった。
「なら──」
質の良い筋肉に覆われている引き締まった腿の内側へと手を滑らせ、意図的にゆったりとつくられている股座の布地をつつくパーシヴァル。布越しに反応を返すジークフリートの性器と指先で対話していると、デニムのファスナーが引き下ろされ下着の内側が解禁された。中へと導くジークフリートの指がパーシヴァルのいたずらを許容し、中央で芯を持っているものを爪の先で掠めさせる。裏筋にそって人差し指の腹をあてさせ、腰をゆすれば一気に性の薫りが二人の鼻腔に満ちた。
パーシヴァルの肩を抱き寄せ、噛みつくような口づけを与えながら分厚い舌で唇の隙を狙っても、止める声はあがらない。すっかりその気になっている体の事情を差し置いてするほどの話でもあるまい、と口頭での説明は事の後に回すと決めたジークフリートは、細身の黒のチノパンを勝手に寛げて下着越しにパーシヴァルの雄を誘惑した。下着の生地越しにラインをうっすら感じ取れる裏筋をひと撫でし、興奮のせいなのかふっくりとして質量を主張する袋をやわやわと揉みしだく。チノパンと同じ黒の下着が先走りでじっとりと濡れ色を濃くしているのを、朴念仁のふりをして見過ごして。
それが余程たまらなかったのか、パーシヴァルの手がジークフリートの股座から抜かれ、下着をずらして陰茎を露出させる。とろとろと溢れ出ている先走りの色は、やや白く濁り気味だ。指で輪を作り扱きあげようとするパーシヴァルの手を、ジークフリートは制止して今夜もまた彼の性感帯をじっくり拓いていく。前を弄ると後ろに欲しくなるようにパーシヴァルを仕込んだ張本人は、口づけをねだるパーシヴァルの肩から手を外して口元へ二本の指を向けた。
向けられた意味も、その行為の意図も勿論パーシヴァルは知っている。知っているからこそ、丹念に舌を這わせて唾液を絡めさせる。そろそろカウチでは手狭になってきたが、ベッドのある寝室まで移動する間も惜しくなってきた二人は、かろうじてカウチから降りてサイドチェストからローションと別々のサイズのコンドームを取り出した。もうこのままここでなだれ込んでしまえ、と諦めもついたらしい。フローリングなのだから後始末は易しい部類のはずだが、パーシヴァルが以前脱ぎ散らかした服を汚す粗相レベルの吐精をしてしまって以来、ベッドとバスルーム以外での行為の際には必ず『何かしらのもので覆う』ように厳命されている。
その一点を守れば肌を許してくれるのだから甘いといえば甘い。だがパーシヴァルはそのままでいいし、その美点が厄介ごとを招き入れたとしても隣には自分がいるのだから構わないと、ジークフリートは断言できた。
ナポリタンの支度をする前に、あちらの支度も済ませていたのか。パーシヴァルをうつ伏せにさせ、尻を浮かせる格好にさせてから下着ごとチノパンを一気に引き下ろせば、ぬめり気のある液体が細く糸を引く。またあの薬──抗プロスタグランジン剤配合、濃縮タイプのローションカプセル──を支度の最後に局部に含ませ、しとどに濡れる夜を待っていたらしい。夜の行為自体は歓迎するが、薬を使っていることが窺い知れてしまうと別の贅沢な悩みも生じる。中に出しても痛がる姿を見ずに済むのかとわかれば、つい何の障壁もなくパーシヴァルとつながってしこたま中に放出したくなる、ジークフリートにとってごく自然な欲求だった。年甲斐もなく腹につきそうなほどに角度を上げた陰茎を何度離しても期待は高まるばかりで、自分で取り出したゴムの封を切る前に軽くパーシヴァルの孔を慣らしつつ確認を取ってみた。
「そういえば」
「……っ、ん? 何だ、ジークフリート」
浅いところを様子見程度に穿っただけなら、まだ割と理性的に話ができるパーシヴァル。それを徐々に崩していくのも一興だが、その手の我慢はできることならあまりしたくない。時折プレイの一環として焦らす程度でいいし、焦らせば焦らすほどにパーシヴァルの消耗も比例していくのだから。
「『これ』は俺も、つけるべきものか」
今日は体内の奥深いところで果てたい気分で、かつパーシヴァルの側も薬で下準備は出来ている。後始末は不要で、翌朝起き上がって歩き出す時にとろりと情事の名残が溢れ出すのを眺められる権利まで手に入る。ジークフリートは、真剣そのものだった。
「そ、それは、その……」
途端に赤面し、パーシヴァルの受け答えがしどろもどろになっていく。単に潤滑剤の役割を果たすものを仕込んでおく意図のみならば、恋人を煽るために麝香を含むものから苺の風味のするものまで数多く取り揃えられている家なのだ。それをあえて、翌日への影響が最小限で済む性行為が可能になる薬を選んでいるわけだから、意図がないと言われても説得力に欠ける。振り返り、ジークフリートを見上げるパーシヴァルの顔には、そんなことまで言わせるな察してくれ、と書いてある。
だからジークフリートは、己の心のまま自由に振る舞うことにした。
我慢が過ぎて滴を浮かべ垂らしかけているモノの根元を掴んで、まだ浅くしか慣らしていないパーシヴァルの一番あたたかな場所へ先端をあてがい。
一息には入り込まないよう細心の注意を払いながら、長さを誇示するかのように、ズ、ズッ、と収めつつ痛がっていないかも確認していく。幸い、そこまで速いわけではなかったからパーシヴァルは十分対応できていて、一番反応したのは横着をしてパーシヴァルに埋め込んだままデニムと下着を脱ごうとしてずるりと一気にモノが抜け落ちてしまった時だった。
あっ、とパーシヴァルの艶っぽい声がした時には遅く。
一気に抜かれた衝撃で軽い絶頂を迎えた時にナカだけでなく前も反応したのか、ポタポタと滴がフローリングの床に滴り落ちる音がした。
「…………ジーク、フリート」
今からでいいから、つけてくれ。
まだ思うように声が出せないパーシヴァルの目は、それだけを語り。
パーシヴァル用のゴムの封を切って破かないよう慎重に装着してから、ジークフリートは再び陰茎をぬくみの中へと没入させた。

ずにゅう、と入り方が変化し、パーシヴァルの背が反る。
呼吸も浅く速くなり、一気に奥まで入り込んできた衝撃に順応するためとはいえ、余裕のなさが露呈して。
体の奥にもう一か所ある関門を容赦なく抜かれた時には、快楽からくる涙で目元をぐちゃぐちゃにしながらも、なんとか声を抑え込もうと両手で口元を覆い揺すられるままになっていた。
「──っ、ん、ぅ────」
フローリングの床で擦れた肌が赤身を帯びていようが二人ともおかまいなしで、ジークフリートの張り出したカリの部分が執拗に門扉の開閉を繰り返し。たまらなくなったパーシヴァルが音を上げ、匍匐前進で逃げようとするがすぐに腰を掴まれ引き戻されて、もう逃がさないとばかりに体重をかけて改めてジークフリートの陰茎がより奥まで侵入してくる。
絶えずきゅうきゅうと締めるだけだった体内もやわらかくほどけて絡みつき、震えながら順応していた粘膜も淫靡に潤い。ジークフリートからも分泌される滑りですっかり潤いが飽和した体内から、ぷちゅぷちゅと音が漏れ出た。
「あ、っ──ジーク、出、る……だめだ、それ以上は──!」
直訳するとやめてくれ、だが。
このパーシヴァルの言葉を直訳すると、翌朝の機嫌がよろしくないのは経験で知っている。
もっとしてくれ、気持ちよくイかせてくれ、と解釈するのがここは正しいのだ。
他の一切を黙殺し、中を穿ってパーシヴァルを一時的に雌に塗り替えるのが、言外に彼が望んでいることなので。
ジークフリートは傅く臣下のように望みをかなえるだけ。
浅く速いピッチでの挿入を九度。
九度と九度の合間に根元までの挿入を挟み、しっかりと前立腺を擦っていくのも欠かさなければ、ジークフリートのみが耳にできるパーシヴァルの無修正のはしたない音と声が愉悦をもたらすのだ。
今回も例に漏れず、口を覆っていたはずの手は体を支えるのに使われ、水音と嬌声が効き放題になっている。会陰を軽く指先でひっかき意識を一瞬逸らさせてから奥深くまで突いた時、パーシヴァルの限界が訪れた。
「……ん…………っ…………!」
目を閉じて雌雄両方の快楽を追っているパーシヴァルのゴムの先端には、いつの間にか溜め込んでいた精液がたっぷりと溜まっていて。
弄り倒している間に何度か極めたのかと思われるくらいの量だった。
精液を放つリズムと同調して締まるパーシヴァルの体内を堪能しつくし、少しずつ力の抜けていくタイミングを見計らい、ジークフリート自身の追い込みも大詰めを迎える。
自身の快楽のことだけを考えた速さで腰を振りたて、パーシヴァルの腰を両手でしっかりと掴んで引き寄せ、一番奥のその先を目がけて思いの丈を解き放った。
放ちながらもゆるいストロークでパーシヴァルの体内を汚し、扱いて最後の一滴を零すまで先端を体内に含ませたまま、長く射精は続いた。
くったりと床に這っているパーシヴァルを仰向けにしてゴムを外してやり、先に出してしまった精液を軽く拭いている間、空気清浄機が稼働音も静かに動き始めた。


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