ジクパー どうしてこうなった。

「待て、どうしてそうなる、ジークフリート」
背凭れ付きの椅子に後ろ手に両手を拘束され腰かけているパーシヴァル。まるで身に覚えのない嫌疑をかけられ、あれよあれよという間に椅子に手足を固定されて、罪人のように尋問されてはや二時間が経過しようとしている。
「お前がいつまで経っても口を割ろうとしないからだ、パーシヴァル。身の潔白を示したければ、この自白剤を飲んでも尚今までと同じことを言えるかを俺に証明してもらおうか」
パーシヴァルの正面に仁王立ちし、薬の入った小瓶をちらつかせているこの男──ジークフリートは、知識の多少の偏りこそあれど頭はいい。はずなのだが色恋沙汰にはさっぱり疎い。それは彼の半生が人間らしさを傍らに置き去りにして送られていた事実と切り離して考えることはできないが、そんな事情を加味しても譲れない一線くらいはある。
何が悲しくて、実の兄との不貞──と呼べるのかどうかはこの際無視する──を疑われ尋問されねばならないのだろうか。
ただ自分は兄の言うとおりに、揃いの軍装を身に着けて身を寄せ合った姿と、軍装を多少乱して着用し素肌が透けて見えるか見えないかという厚さのストッキングのみを下半身に穿いた姿の二つを絵に描かせただけだというのに。
興の乗った兄とは違って、兵の士気がより上がると言われてもジークフリートに義理立てして素肌は晒さなかったというのに。
「身の潔白も何も、ジークフリート。必要な絵を、必要な姿になった上で描かせただけだ。兵の士気を保つ上で必要なものであったし、俺個人として最大限、お前に譲歩し配慮しての結果なのだが」
肌を人目に晒す行為が、時として己の武器になること位はパーシヴァルも熟知している。己が武器として振るうことは基本的にはないが、必要とあらば晒せ、そしていざという時に価値が出るために日頃は隠しておけ、兄から繰り返し聞かされた言葉を鵜呑みにはしていないが理解できるとは思っていた。……自らが肌を晒すことでどのような影響が各所に及ぶかの実感が今までは伴っていなかった、それだけのことと言われても仕方のない認識の浅さを指摘されている現在、まだ市井における様々な経験が足りないのだなと自省の念に駆られていると。
ハァ、と聞こえよがしにため息をついたジークフリートが、薬瓶の栓を開けて自身の口に含み、そのままパーシヴァルの下顎を掴んで強引に口づけてくる。薬液を勝手に口内に流し込まれ、飲み込んでなるものかと意地を張っていたパーシヴァルだったが、額を押され顎を持ち上げられた結果、気管にまで入り込みそうになったのを咳き込む過程で結局大方を飲み込んでしまう運びとなった。
「ッ、最初から素直に話してくれていれば、手荒なことはしなかったんだが」
唇を離し、口の端を伝っていく薬液を拭いながら、ジークフリートは言い放ち。
「洗いざらい吐いてもらうぞ、パーシヴァル」
スティック状の黒いシリコンの器具を右手に。
先ほどの薬瓶を投げ捨てた左手には、違う薬瓶を新たに握り。
拷問官さながらに器具と薬剤を見せつけたのち、もったいつけながら何を始めるのかと思えば、機材の消毒だった。

ジークフリートが消毒を始めた機材を、どこかで見たことがある。
パーシヴァルは記憶を急いで紐解き、到達してしまった『仮説と思い込みたい内容の結論』に愕然とした。
この男は尿道責めを始めるつもりだ。
用意周到に支度を整え、周囲にばれないような算段もつけて、辱めを与えるつもりだ。
あることないことを言質として取り、はしたない行為にもつれ込む可能性だってある。
相思い合う仲だというのに、悲しくなる。
パーシヴァルの瞳は勝手に潤み、ジークフリートが満足するような、本当はありもしなかったようなあれそれをでっち上げてでも場を丸く収めたい気さえしつつあった。
しかし、ジークフリートの手はどこまでも冷徹に動き、一切の澱みもない。この類の拷問も実際に手掛けたことがあるのか、迷いのない手つきがパーシヴァルの背すじを余計に凍らせる。
鍵がかけられているとはいえ照明で照らされている部屋の中、パーシヴァルはジークフリートの手によって陰茎を服の中から引っ張り出され、尿道口に軟膏のような薬を塗り込まれた。おそらく消毒薬の類だろう。その部分への刺激は本来快楽に繋がるというのに、この先に待ち受けているのはパーシヴァルが日頃ジークフリート相手に経験しているような色事ではない。あがこうがわめこうが逃れようのない、性的な拷問だ。特殊なプレイの一環とは異なる、苦しみを与えるための行為。それでもジークフリートの気が済むまでは、自分の身を捧げるしかない。
と思っていたのだが。
足を広げさせられ、座面に厚手のタオルを敷かれたあたりで、ジークフリートが何をしようとしているのか──全容がわからなくなった。いや、無意識下では見当がついていたのだが、そうと認めたくはなかった、が近いだろうか。
「…………ジークフリート?」
平静を保てなくなり、頬を引きつらせたままの顔で、パーシヴァルが問いかける。
当のジークフリートは一通りの準備を終え、あとは濡らさないようにと防水シートを床面に敷いて全裸になり、脱いだ服をベッドの上に放り投げたところだった。
そのヒントが、無意識下にあった懸念をパーシヴァルの意識の表層へと引きずり出した。
「おい、俺に粗相をさせるつもりか、ジークフリート!」
自白剤というのは半分嘘で半分本当、といったところだろう。知らない情報は吐かせられない。であれば、事実と異なっていようと都合の良い情報を引き出せる手段をとるのみ、といったところで。一服盛られた薬の正体は十中八九、利尿剤で間違いない。自白剤はあるにはあるが眉唾物から禁薬指定品まで、あまりに範囲が広すぎる。勿論入手の何度もばらつきが大きい。それを使用してまで、とはどうにも考えにくかった。国家機密を吐かせるわけでもあるまいに。
「なぁに、恋人殿の愛らしい姿がどうしても見たくなってなぁ」
実に白々しく、呑気に構えて見せるジークフリートは。消毒の終わった尿道ブジーの先端に痛み止め配合のねっとりしているローションを絡ませ、亀頭の窪みにあてて軽く押した。
てっきり痛みがくるとばかり思って身構えていたパーシヴァルだったが、何かが体の中に入ってくる感覚はあったものの、格別の違和感はなく。ただ、細長いブジーの見えている長さが少し短くなったな、くらいの認識から始まって、見えなくなった分の長さが陰茎の中に入ったのだな、のあたりで落ち着いて。
「いい子だ、パーシヴァル」
侵入してくるにつれて違和感は無視しきれなくなってはいたものの、宥めすかすようにジークフリートが陰茎を扱くものだから快楽で身をよじると排泄欲も少しの間どこかへ行ってくれるし、何より非日常そのものと言える背徳的なプレイを行っているだけと脳が勘違いしてしまい勝手に後ろがひくつきはじめる次第で。
服の中だから隠されているけれど、恥を知らない菊花はほころびはじめて花びらを散らされるのはいつなのかと待ち始めてしまっていた。
「…………ジーク、フリート」
八割ほど埋め込まれた時だろうか。ジークフリートの手元に残る長さは少なく、何らかの操作に用いる二回りほど太くなっている部分以外は大方体内にしまいこんだパーシヴァルだったが、陰茎を軽く握っているジークフリートが揺らした時にブジーの先端が何かの奥を叩いた気がして切なげに眉を寄せた。
「角度が、なぁ」
この先は試したことがないんだが、こんなものだろうか?
ジークフリートのそんな囁き声が、聞こえたような気がした瞬間。
ずぼっ、という今までとはまた違う違和感と痛み、強烈な排泄欲を感じて。
思わずパーシヴァルは喉を反らし、目を見開いて衝撃に身を震わせた。
膀胱の栓をこじ開けられた影響で、体は勝手に排泄できるものと認識しているのに。実際にはみっしりと尿道全体に嵌まり込んでいるものもあるし、肝心の亀頭の先端はブジーの根元がちょうど蓋の役割を果たしている。出すに出せない。けれど臍の下がふくらんで見えるほどに尿を溜めこんでいるのは事実だし、陰茎を軽くつつかれるだけであれだけ感じられたはずの快感よりも先に思考を支配していくのは放尿の欲求。
まずい。矜持も何もあったものではないが、座面が嫌な汗で湿っているのがわかった。足首をそれぞれ椅子の足にくくりつけられているため、足をぴったりと閉じて尿意に耐えるわけにもいかず、パーシヴァルは心底困った顔をしてジークフリートの目を見た。
「……ジークフリート、その……」
何を言えばいいのか。かの人の心を満たす最良の答えは何なのか。時間切れまではもうあまり猶予がない。みっともなく彼の前ですべてをぶちまけるよりは、少しだけでも己の尊厳を保ったままでいたかった。
余裕をなくしていくパーシヴァルを掌の上で転がしているジークフリートはようやく、いつもの穏やかな瞳に戻りはしたのだが……じわり、じわりと栓をしているはずの尿道口から溢れてきているものの存在を確認して、再び意地の悪い笑みを浮かべた。
「パーシヴァル、正直に言いなさい」
言外に。恋人であるジークフリートにとっては好ましくないことをしたと認め、きちんと反省し謝るだけの気持ちを持て、という含みもあった。
溢れ、ブジーを伝い垂れていった何かを拭いた真っ白いタオルが薄い黄色に色づく。
その光景を見ていられなくなったパーシヴァルは、募る放尿の欲求に突き動かされ、幼児返りしながらもジークフリートの心に寄り添った。
「ごめ……なさい」
ジークフリートの両の親指の腹が、尿道口を左右に押し広げる。
「ふしだらな絵、描かせて、ごめんなさい」
つつぅ、と垂れていく尿量が増し、ジークフリートの指をべたつかせる。
「もう、しません」
だから。
ゆるして。
精一杯の気持ちを込めて、ジークフリートに謝ったパーシヴァルだったが。
「────っ!」
ぐっ、と左右により強く押し広げられて、漏れ出ていたものがついに一筋の流れを伴って本格的にあふれ始めた。
「や、いやだ、ジークフリート……!」
嫌だと言われ、指で尿道口を無理矢理開かせるのはやめたジークフリートだったが。
そろそろと尿道ブジーを引き抜き始めて、ぽたりぽたりと雫がこぼれていく速度が増していき。このままではと感づいたパーシヴァルが、せめてジークフリートにはかからないように、と両腕の拘束だけでも外れやしないかとじたばた暴れはじめた。
「やめろ、やめてくれジークフリート、このままでは……っ!」
パーシヴァルの危惧などとうにお見通しのジークフリートは、ちゅぽん、と無慈悲な音とともにブジーをすっかり引き抜き終えて。
括約筋にありったけの力を込めているパーシヴァルの胸中など知った事ではなく、膨れたままの下腹部を押して半ば強制的に排尿を始めさせた。
パーシヴァルの真正面に膝立ちになり、羞恥で耳まで赤く染まった顔を覗き込みながら。
なんとしてでもジークフリートにかけたくなかったパーシヴァルの意思はあっけなく無下にされ、ぴゅるるるる、と勢いよく放出される尿がジークフリートの胸元を叩き、肩を、首筋を、顎を滴で汚していく。泣きそうなパーシヴァルだったが、ようやく訪れた放出の快感には勝てずに、ついには自らしっかりと足を開いてジークフリートの肌の上を伝っていく尿の軌跡を浮かされた目で見つめていた。

言質も取り、パーシヴァルの可愛らしい姿も目に焼き付けたところで、ジークフリートは椅子にくくりつけたパーシヴァルを自由にした。
「そういえば」
椅子の下に広がっている自身の尿に辟易していたパーシヴァルに、ジークフリートが声をかける。
「あの絵は俺も目にしていてな。黒とはいえ、あれだけ肌が透けていては者によっては素肌よりもより煽情的に見えるのではないか?」
俺は少なくとも、その類の人間だ。
パーシヴァルの『しでかし』を丹念に拭き取りながら、ジークフリートはあっさりと自身の性的嗜好を暴露しただけでなく、パーシヴァルに新たな不安を抱かせた。
あの黒いストッキングを着用した上での、何らかのプレイを要求するつもりなのではないか。
その不安は無事、的中する。

「い、いやだやめてくれジークフリート、いくらなんでもベッドの上で『する』つもりは俺には────っ!」
パーシヴァルに学習能力がないわけではないのだが、またしても手首と足首を拘束されベッドに転がされ、ジークフリートに一服盛られてはや三時間。
先日ジークフリートによって半強制的におもらしプレイに付き合わされ、警戒していた最中の出来事なだけに、自分はこの男にかなり甘いのだろうかとも思いたくなる。
だがもう遅い。尿意は一か所しかない出口をこじ開けるのに全力を発揮しているし、それを阻もうとする括約筋は疲労困憊といった様子だ。
神経を集中させているのに、人の気を知らないわけもないジークフリートはといえば。ぷっくりと膨れやわらかな色調の薔薇色へと色を変えた乳首を撫でさするのに熱心で、決壊の時を今か今かと目を爛欄と光らせ、件の黒ストッキングしか身につけていない局部の一点のみをじっと見つめている。
「……ぅ…………もう……だめ…………だ……」
言い終わるかどうかというタイミングで。
ジョワッ、とはしたない音がして。
ジャアアアアアア、と一気に放たれる音とともに、瞬く間に濃い黄色の水たまりがシーツの上に生まれ生地にしみこんでいく。
「……っ、う…………はぁ、っ…………」
また、やってしまった。
してはいけない場所での放尿は、ジークフリートの前ではこれで二度目。
このままではなしくずしに三度目、四度目、と続いてしまうかもしれない。
けれど。
「よくできたな、パーシヴァル」
におい立つ水たまりに何の抵抗もなく入ってくるジークフリートは、今の光景を見てすっかり臨戦態勢になっていて。
「脱ぎにくいだろう。脱がせてやるから、腰を浮かせてくれないか」
繊細な編み目をひっかけないようにゆっくりと脱がせるジークフリートの手指が、出したての尿で湿っていく。
避妊具も装着済みのジークフリートの陰茎が、彼の動作のたびにゆらゆら揺れるのをなんとなく見つめていたパーシヴァルが、気づかないうちに自分も兆していると指摘されてから真っ赤な顔をして足を開くまでに要した時間は十五分。
漏らした後始末をするより先に愛し合いたいと思ってしまったあたり、パーシヴァルにも素質があったのかもしれなかった。

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