【ユスイル】事を成すにあたっての十分な距離

騎空団が請ける依頼は当然千差万別で、中には腕っぷしのみでは拉致のあかないものも当然存在している。『組織』と連携を取っているとまではいかずとも利害の一致で協力しあっている、とある騎空団を指名しての依頼もその類のものだった。とある島とその近隣から要人が集まり開かれる会合と、会合の後に開催される夜会の警備。会場となる建物の敷地内の警邏だけであれば騎空団内の人員で事足りたのであろうが、同じ会場内でも建物内部の警邏──夜会の出席者に混じりつつ自然な形で警戒に当たることが出来る、礼儀と作法をそれなりに弁えている者が二名必要になった以上は、盛装しても問題なく動ける人員を何とかして送り込まねばならなかった。
その騎空団の団長もあてがなかったわけではないのだが、頼みにしていた者が出席者側として場に向かうことになっている点までは考えが及ばなかったようである。自身の団内では完結しないと悟ってすぐに『組織』に話を持ち掛けた結果、白羽の矢が立ったのはユーステスとイルザの両名。情報収集の任務を兼ねることも可能である点が決定打となり、時々しか披露する機会のない盛装に袖を通す上で十分すぎる理由がそこにはあった。

ホルターネックのバックレスドレスに身を包んだイルザは、長さのある髪を編み込んで結わえ、黒を帯びた赤いドレスと色を揃えてある小物をいくつか机上に出した。髪留めの金に差し色として混じる赤、指先を彩る赤、首筋の印象を引き締めるペンダントトップの赤、花の意匠が刻まれた耳飾りの縁取りの赤。いずれもトーンは抑えてあるが、ひとりの女性としてのイルザをよく引き立てる色合いをしており、一式仕立てる時に色の統一感にこだわった甲斐もあるもの、といったところだ。
今日の目的や条件に適う服装を整えるという事項のみであればイルザ個人としてはそう難しいことではないのだが、薄手のイブニングドレス一枚しか着用できない場に赴くということは、ニバスどころか携行用の小型銃すら自身の身に忍ばせる事さえ不可能だった。
体の線を端から端まで拾い上げ曲線を演出するドレスは、護身程度であってもイルザの武装を許さなかった。仕方なしにグローブごと銃をユーステスに預け、場に数咲く花の一輪として振舞うよう、イルザは己を律し割り切ることにした。
これは仕事。これは任務。馴染みのある騎空団に借りを返すだけではない、組織に取っても益のあるおろそかにしてはならない依頼のひとつ。繰り返し自分に言い聞かせるイルザだったが、仕事ではあっても新兵の訓練とは違う、日頃は表に出すのを控えている女性としての振舞いを封じる必要がないというのは気も晴れやかになる。だからだろうか。ふと思い立ったイルザはチェストの中から小瓶を取り出し、瓶の蓋を外して中の液体を腰に一吹きしていた。
先日のオフ、ショッピングに出向いた街で偶然出会った香水の小瓶。街の女性がこぞって買い求めている人気の香水専門店が、期間限定で販売しているという触れ込みの新作の入荷日だとは知らなかったイルザだが、調香師の自信作だというそれが気になっていつの間にか財布を開いていたのだ。春の庭園の中に立っているかのように香る花々の香りに、わずかに混じるバニラ。購入前に試した時よりも少々香りの印象が強めに出ていたが、時間で和らぐものだからとそのままにしたイルザは最後に部屋履きから靴を履き替える。
膝まである白のブーツよりずっと華奢なハイヒールは、光沢を敢えて控えめに留めた淡い金。久しぶりの靴を足に馴染ませるために部屋の中でぐるぐると歩き回っていると、今宵のパートナーを務めるユーステスがノックの後に部屋の扉を開けた。
「時間だ。準備は出来ているか」
白と黒、そして浅黒い肌のコントラストがよく映えている。着るものを着れば人々から称賛を浴びることも出来る美丈夫ではあるが、どうしても色事には縁遠くなる上に本人にその気がない。ユーステスはそういう男であるからこそ組織に籍を置きながらも今まで生き延びてきたのかもしれないが、平穏を地で行く世界であれば彼の容姿はもてはやされるに足るものだった。
が、それはそれとして片づけられてしまうのが今の空の世界。堅苦しい儀礼も残っていれば、肌の露出に賛否両論騒がれたりもする。余計な諍いを避けるために礼服ではしっかりと着込み背中も生地で覆わせているユーステスは、若干着心地の悪さを滲ませたがこればかりはどうにもならない。シャツ、ウェストコート、ジャケットと、大いに重ね着している以上は背に感じる違和感も当然なのだが、白タイの煩わしさがそれに拍車をかけていた。よくこのような礼服を身に着け社交に興じることのできるものだ、と袖を通すたびにユーステスはひとり顔もさほど知らぬ社交界の貴人に対して勝手に感心しているのだが、イルザなら失礼のないようにと相手の顔や地位を記憶し適宜話に織り交ぜて自尊心をくすぐるくらいの真似をやってのけるのだろうと結論付けたあたりで、防寒用のラビットファーで両肩を覆ったイルザがじっと顔を覗き込んでいることに気が付き表情を取り繕った。

それにしても。
出費イコール経費である組織の会計担当者が目にすれば眉間に皺を寄せるに違いない、華美な装飾が夜会の会場の内外を飾っている。日中の会合は何の問題もなく行われ、より警備の難度が上がる日没後に夜会が始まってすぐに、ユーステスとイルザはそれとなく会場の出入口を確認するために一度別行動を取った。ボディチェックこそないが会場内に入る際には各出入口に配備された守衛の目の前を通過する必要があり、少人数での侵入は試みるだけ無駄と言えよう。自分たちと同じように列席者のふりをして警戒を続けている者も含めると、警備体制には目立った穴はなさそうだった。
また、パートナー同伴でなければ門前払いを受けるだけのことはあり、会場内をイルザが単身歩いていると不思議そうに視線を向けてくる人間が片手では足りぬほどで、特定のパートナーの隣でほぼ全員が歓談に興じている。亜人を含めた誰かと対になっている彼らが性や種族の差異をどの程度まで含んでいるのかは確認できていないが、民間人の中でもいざという時に厚い保護が必要となりやすい女性ないしそれに準ずる存在が約半数となると、有事の際には困難が付きまとう厄介なケースのひとつだという結論も出た。合流場所とした一際華やかな装飾の施された太い柱を目印に人波の中を歩くと、反対側から歩いてくるユーステスの姿がイルザの視界に入ってきた。
「──やはり夜会の警備だけあって、出入口に割かれている人員は少なくはないが」
腕組みをしたユーステスが、会場内部の人の動きを眺めながら隣に立つイルザに語りかける。
「頭数があろうと陽動でひとところに集められれば手薄になった箇所を抜かれる、とでも言いたげだな」
事実その通りなのだが、仕事一筋のユーステスをなぜかこの時のイルザは少々不服に感じ始めていた。
難しい顔をして独り言をつぶやいている、彼の性分に対して思うところでもあったのか。それともこのような場でいつまでもそんな顔をしていると不審がられるから誤解を未然に防ぎたかっただけなのか。どちらでもなかったのか、両方であったのか。ユーステスの側へと一歩分横にずれたイルザは、彼の意識を違う対象へと逸らそうと考えたようで、所在なさげに体の横でだらりとしているユーステスの腕を掴み自身の腰へと手を回させたのだ。
イルザの所業に、ユーステスは狼狽こそしなかったがやはり驚きを隠せない様子でいた。同僚として目にしているだけの姿であれば、少々の露出は一般の範疇であり自身には特に関係のないもので、関心を示すほどでもなかったのだが。今のイルザは、いつもよりも少しばかり、露出している肌の面積が広い。それだけでなく武装どころの服装でもないし、人目を気にして動かねばならない。理性的に動く必要が常よりもあるにも関わらず……ユーステスはなぜか、鉄の理性を要求される事態に直面していた。
手袋越しとはいえ、直接触れ伝わってくるやわらかな肌の感触は自制心にひびを入れるようなものだ。イルザの奇行に人知れず目を見開いたユーステスは、言ってしまえば好ましい弾力とほどよい温もりに一瞬流されすぐに立ち戻り──それなりには戸惑った。それなりによく知る教官としての彼女の印象と、今この瞬間も手のひらから伝わってくるあたたかな熱がちぐはぐにしかかみ合わずに、あらゆる行動を中断させる方向にばかり働く。彼女は組織の一員で、装備さえあれば自身の身を守ることなど容易い人間で、本来ユーステスが有事の際に保護する対象からは外れているはずなのだ。
けれど今の彼女は、自分とは違い丸腰だ。白兵戦に、ましてや組手に適した格好をしているわけでもない。得物がなければ何かと不利な立場に立たされ、いつ保護対象の一人に転じても不思議のない存在だった。
……そう。仕事を抜きにした彼女は、とても女性的なひとなのだから。
「──任務、続行──」
再び元通りの難しさを帯びてしまった顔が見えたのか、ユーステスが呟いたのがちょうど聞こえたのか。いつもと様子の違うイルザは、その声を合図にしたくらいのタイミングで今度は彼の手首に両手を添えた。
理性を揺らすものを極力減らすと同時に、イルザの読めない真意をわずかでも読もうとして素肌から手を離し違う話を振ろうとしたユーステスの目論見は崩れていく。
「…………仕方のない奴だな。不服だというのなら、やむを得ないか」
イルザはいつになく妖艶に、甘い声でユーステスに語りかける。ユーステスの手首に添えた両手をやや前側に移し、自身の下腹部へとユーステスの掌を導こうとしていた。人目を引かないようにと考え対処が遅れたユーステスの掌は本人の意向とはまるで違う動きを取らされて、イルザの女性特有のふくらみを包み込むようにしっかりと触れさせられていて。
平生の彼女との落差が大きすぎ、これはいくら何でもおかしいと意識でも肉体でも認識出来た時には、イルザの横顔と細い首筋に視線が絡めとられていた。
ユーステスは咄嗟にイルザの『誘惑』の手を振りほどき、彼女を検視するために一歩半距離を置いた。しかし彼女はけろりとしているし、訝しむユーステスの目を真っ直ぐに見てやや温和だがいつもの調子でユーステスに至極当然の提案をした。
「あまりに周囲を警戒しすぎては逆に怪しまれる。飲み物を口にするくらいは、周囲に合わせた方が場に溶け込めるのではないか?」
何食わぬ顔での提案は、確かに真っ当な内容であった。ならば今しがたの奇行の理由は何だったのかと問い詰めようかとも思ったユーステスだったが、イルザにも彼女なりの意図があるのか、あるいは場を移して打ち明けるのが相応しい内容であるのか、この場で話の続きを要求するには不似合いであると思い直し取りやめることにした。不審は不審のままではあったが、まだこの時は大して深刻ではなかっただけだとは気づかずに。

給仕の一人から飲み物を渡されたが、アルコールが入っているものは今は口に出来ないからと二人とも固辞し、代わりに受け取ったのは甘い味付けがされているソーダ水。よく冷やされているそれは数種類のベリーを使った味付けがされているようで、淡い赤のソーダ水を注いだグラスの底には果肉の細かな粒もいくつか加えられている。これならば問題あるまいと判断し、イルザの分も受け取ったユーステスが彼女のもとへと戻ると。
「……何のつもりだ」
また彼女の様子は不可思議な方向へと傾いてしまっていた。イルザに渡すために二つのグラスを持ってきたユーステスの、両手が塞がっているところに目を付けたのか、からかっていると断じられても当然の振舞いを彼女はしてみせた。ユーステスの正面から身を寄せて、抱きついてきたのだ。
「何って……私の口から言わせるつもりなのか」
酔っているわけなどないのに、酔いでも回っているかのような蕩けた目をして、イルザはユーステスを見つめている。仲睦まじい恋人たちという間柄でもないのに、そんな仲だったと仮定しても人前ではまずやらないようなことであろうに、イルザはなぜか今までにないユーステスへの執着を露わにしていた。
恋人たちの愛情表現としてであっても、夜会という場では看過しきれない今のイルザの所業。手の塞がっているユーステスを気にかけ歩み寄って来た先の給仕に両手のグラスを返し、しっかりと体重を預けてくるイルザを支えながら彼女の耳にそれとなく吹き込んだ。
「──場に馴染むためだとしても、これはやりすぎではないか」
囁き声ではあったが、彼女の耳にはしっかりと届いたはず。
「…………ん? んん…………」
しかしイルザは生返事しか返さずに、ぴったりと身を寄せたまま離れようとしない。
妙だ。これは何かあるに違いない。ようやく確信の持てたユーステスは、グラスを片づけに場を去ろうとしていた給仕の後姿に声をかけた。
「彼女を少し休ませたい。空いている部屋があれば、急で申し訳ないが借りられるだろうか」

急遽案内された部屋は広くも狭くもないが、天井の高い片付いた一室だった。予備の客間としての用途が主であるのか、中央にベッドが置かれている以外には収納用の家具などは特に置かれていない。人目をはばかる必要のないエリアへ足を踏み入れるや否や、ユーステスはイルザを横抱きにして先を行く案内の後を足早に追いかけて今の部屋に至っている。
部屋に不審な点のないことを確認してからイルザをベッドに横たわらせ、張り詰めていた気を僅かばかり緩めようとしたユーステスだったが、イルザの変調と任務を天秤にかけるとやはりすぐに表情は曇った。
当のイルザが浮かされた頭でなかなかに極端で刺激的な事項について思いを巡らせているなど、ユーステスが知る由もない。彼はひとまず今の今まで、イルザを同僚の一人という枠組みの外へ置こうとはしていなかったのだから無理もないのだが、イルザがまるで見当違いなことを考えているのかと言われれば安直に肯定できるわけでもなかった。種族のみを見つめ直せば、ユーステスとイルザは同じ種族に生まれついている異性同士。事を済ませれば子を成すことさえ可能である二人。組織の中で日々を送っていたせいで、そういった当たり前の事実を認識する時間がなかっただけなのかもしれないが、世間一般の感覚としては現在イルザが考えているようなことを多少なりとも常に意識するのが多数派であろう。社会的にも肉体的にも、適齢期とされる時期に差し掛かってそれなりの歳月を過ごしている二人には、ふと日常に立ち返った時に寄り添える伴侶をあてがおうとするお節介な存在がまだいなかったことも影響していたのかもしれなかった。
イルザはそんな環境を無意識レベルで感じ取り、数ある香水の中から件の香水を選んだのかもしれない。ユーステスは勿論、購入した本人であるイルザも知らなかったことなのだが、夜会に向かう直前に腰に一吹きした香水には、実はエルーンの女性に対して特別な作用があると先日学会で発表され、現在形で規制の進んでいる薬液が含まれていた。
──性的興奮を催すのみならず、同時に幻覚を見せる作用。
つまり。香水の作用で一時的に、イルザはユーステスを適齢期の魅力も極まりない異性としてしか認識できなくなっていたということ。仕事に支障を出せない以上イルザの身を案じるしかなかっただけの可能性もあったユーステスの態度を曲解して、日頃ユーステスが自分のことを意識しており二人きりになったこの機会を好機とみて距離を詰めてきたのかもしれない、と思ったのかもしれないということ。
無防備にベッドに横たわったままの今のイルザは、峻厳な教官としての雰囲気を完全に失ってしまっている。凛とした雰囲気は崩れ去り、緩んだ目元に上気した頬、しどけない姿を取り繕う余力もなく。傍らに立つユーステスを見上げて微笑む表情は、オフの時に垣間見せるやわらかな彼女の本質そのもの。
だというのに、性的な欲求をちらりと見せつつユーステスにアプローチしてくるひとりの女性になってしまっているのが、今のユーステスの目に映っているイルザだ。何かを期待する目をして、仰向けに寝かせた体勢を変えユーステスの方へ向き直り。花の甘い香りをふわふわとまとって。
──香り。常の彼女とは決定的に違う点。
花の香りに混じって何か別の匂いがしないかと注意してみれば、定期的にエルーンの女性から感じ取れる『とある時期』特有の香りが混じっていることに、ようやくユーステスも気が付いた。動物で言うところの発情期にも似たその期間、エルーンの女性は異性の気を惹くために特殊なホルモンが分泌され好ましい香りがするのだが、その際に感じ取った香りと今のイルザから漂っている香りが酷似している。異性との性的接触もその時期は一気に増えるものの、任務に支障が出るからとイルザは服薬で症状を軽減させ平時とほぼ同様に過ごしていたと記憶していた。そのための対症療法の薬があれば早速飲ませていただろうが、生憎ユーステスが準備し持ち込んでいる物資の中にはそのようなものは当然だが含まれていない。
かといって薬を使わずにイルザの症状を任務が遂行可能なレベルまで確実に緩和するためには──そこまで考え、手っ取り早い手段である反面今後のリスクが大きすぎるため考えるのを中止した。彼女の同意なしで性行為に及ぶなど論外だからだ。
ただ、今は大人しくしていても、手綱を握っておかなければ彼女はふらふらどこかへ行き、手近なエルーンの男を誘った挙句当人がかけらほども望んでいない関係を築いてくるかもしれない。素面の彼女が一部始終を知ったが最後、相手の男含めて何をどうするか予測もつかない以上はこの場で当座の解決まで辿り着く必要があった。
イルザの体に起きている異変が、あの時期特有のものであるとすれば。異性の体液に含まれる成分が状況の改善に一役買う可能性は、それなりに見込めるのではないか。
すぐに実践可能な手段としては事実上もう『一つ』しか残っていないのではないか。
「──やむを得ないか」
覚悟を決めたユーステスは、うつらうつらし始めたイルザを仰向けにして、その上に覆いかぶさった。彼女に体重がかからないよう両腕をついて上体を支え、今もまだ浮かされたままの蕩けた双眸を確かめて、徐々に顔を近づけていく。
「許せ、とは言わん」
イルザの唇が閉じる前に顎を掴んで開かせ、歯列の隙間から舌を捩じ込み開かせて。逃げを打つ舌を追いかけ捕まえ、絡め取っては厚みを教え込み──上顎を舌先で刺激する合間に唾液を与え何度も嚥下させる。
イルザが揃えていた太腿をもじもじとさせ始めたタイミングで唇を離せば、飲み下しきれなかった唾液が二人の間に細い架け橋を作った。
「少しは落ち着いたか」
出来る限り平静を装って、ユーステスはイルザに確認を取る。
「…………ああ、多少はな」
イルザはまだ顔を紅潮させていたが、理知的な光は戻ってきていた。薬の影響下にあった時間の記憶が曖昧になっていても鏡の前で何度も仕上がりを確認したルージュがユーステスの唇に付着している以上、自分たちの間に何かがあってしまった現実を認識するのは容易いことで。
親指で唇のルージュを拭い、ユーステスはイルザに告げる。
「ここからは俺一人で会場に戻り任務を続行する。少しとは言えない程度に乱してしま──」
静寂を破る爆発音。外からだ。
規模は。負傷者は出ているのか。警備をかいくぐった不逞の輩が内部から呼応してはいないか。
さまざまな要因が二人の脳裏を巡り始める。イルザに射撃用のグローブと銃を渡したユーステスも、黙ってそれを身に着けるイルザも、即座に戦士としての顔へと変わっていた。
交わしかけた情の匂いはいとも簡単に、硝煙に消されていった。

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