【ルシフェル+サンダルフォン】安寧はお昼寝に勤しんでいるようです

十二枚の衣と引き換えに、手に入れたものは。
限りのある時間である上に、想う相手と出会える保証はない──そう告げられていたけれど。
怯み臆する暇も愁いを帯びた思案もなく、よく通る声が一組。
突きつけられた条件を呑み、時の狭間にそれぞれに姿をかき消させ。
ただの命として、天司と呼ばれた過去とは袂を分かち個として生きた時は、人間の暦で言う十八年。

背負っていた羽という目印を失おうとも、二人は互いを求め、捜し、やがて出会った。

対を見つけた二人が惹きあうまでには然程の時間を要せず、共寝の仲となり屋根を同じくしてからというもの、
地平のごく緩やかな曲線をなぞりいつまでも確かめるような穏やかな時が流れていた。
二人の中に息づく天司であった頃の優しい記憶の根幹、中庭でのひとときを、場と時を変え再現するかのように。
あたかも最初から、対で生きるいきものであったかのように。
互いが常に傍にいる時間を、ようやく生き始めた。

ルシフェルさま。
昼寝のまどろみから少しだけ早く抜け出したサンダルフォンは、すぐ隣ですぅすぅと眠っている背中に向けて囁いた。
起こすつもりはないけれど、目を覚ました瞬間に自分を最初に視界に入れてほしい。つつましやかな願望が彼を動かしていた。
勿論、ただの命として生を受けた彼らには、今生での両親から与えられた違う名がある。
血のつながりは時に行動を縛る枷にもなるが、語りつくせぬかつての縁を絆へと昇華させるための有用な手段でもあるらしい──そんなようなことを、ルシフェルとほとんど同じ顔をしている、年の七つ離れた彼の兄からサンダルフォンは何度か聞かされていた。
基礎となる造形は同じはずなのに、慣れてくると似ている点を探すようになるほどには違う、ルシフェルの二人の兄。かつての生で一筋縄ではいかない縁のあった二人を思い出すが、どう話を切り出したものかと考える間に話題を煙に巻かれて去られてしまうばかりだった。
だから、かつての生で培った記憶の続きを作り出せる相手は、今のところ目の前で眠る想い人ただ一人。
陶器のなめらかさが人のぬくもりを手に入れ、ほんのりと血潮の色を感じる白桜の淡さを帯びた肌に触れると、よく注意しても指先の感覚ではまず拾えないはずの産毛を感じてつい嬉しくなってしまった。
羽の付け根にあたる箇所だけ、少しだけ、本当に少しだけ、産毛が密に生えているような気がしたから。
サンダルフォンに特別に体毛を愛でる性癖があるわけではないが、必要な機能のみを集約して生み出された完全を体現した存在であった頃が懐かしくなるような、あってもなくても構わないような要素ひとつひとつに、自分の中で何かが兆し芽生えていくように思えていた。

ルシフェルさま。

もう一度、今度は小さいながらも声にのせて呼ぶ。
二人きりの時だけ、かつて用いられていた呼称で呼び合うようにと決めてからは、懐かしい響きを唇が作り出しても振り向いてくれる。
かつての自分に蓋をして生きていた時間をまるごと包み込まれて、人間と天司を半分ずつ生きているような曖昧な生を肯定してくれる存在のもとで、伸びやかに過ごせる幸せがいかに貴いのかを、毎日噛みしめながら──サンダルフォンはまた、かつて激情のすべてをぶつけた存在を前にして、どこまでも凪いだひとときを謳歌していた。



サンダルフォンのものいわぬ視線を感じているからこそ、何を案ずることもない眠りでルシフェルが満たされていたのだとはまだお互いには知らないのだが、時の流れでさえも足を止めてしまいそうなひとときがそこにあるというだけで、彼らにとっては十分なことだった。

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