ヴェパシ ワンドロお題:輪郭

ぷにゅ。
と、勝手に擬音をつけて頬をつついてみても。不必要な肉のそぎ落とされている顔の線を何度辿ったところで、描かれた曲線からおよそ想像のつく範囲にしかやわらかさは存在しないようだった。
依頼で出払っていたパーシヴァルが自室に戻ってきたのは明け方で、現在はベッドで仮眠を取っているのだが……頃合を見て起こすよう言いつけられているヴェインが入室しても、目を覚ます気配は全くなかった。
「パーさん、パーシヴァルさん、そろそろ時間だぜ?」
声をかけても多少身じろぎをしただけのパーシヴァルは、どうやらまだ夢の世界の住人として生きてしまっているらしく。
枕元に椅子を移して寝姿をしげしげと観察しているヴェインの視線には当然気付いていないし、つつかれても何の反応もなかった。
挙句。

あに、うえ……あのとき、ははうえは……

昔の夢を見ているのでは、と大抵の人間が見当のつく寝言を発するなど、無防備な一面をさらけ出していて。
何も見聞きしなかったことにして起こし、「おとな」としてしか振る舞えない世界に強引に連れ出せるほど、ヴェインはパーシヴァルを無下に扱えなかった。
両親が他界しているという共通点もあるが、時期も過程も異なっているのだという話をされたのはつい最近の閨でのことで。詳しく聞き出すのも本人の古傷を開くことに繋がるのではという危惧もあり、話しこまずに腕枕で寝かせたぬくもりを鮮明に思い出せる。
(もう少し、寝かせてあげたほうがいいのかなぁ)
夜にしかこなせない依頼もある以上、生活リズムをあえて崩さざるを得ない時があること位わかるが──舞い込む依頼に合わせて不規則な生活を送り続けるのも大変なんだよな、とヴェインは独り言をつぶやいていた。
もう少し規則的な生活を送れたのなら、パーシヴァルも程よく栄養を体に蓄えることも出来るのだろう。食べて活動した分がそのまま体に反映されてくる体質のヴェインとは違って、パーシヴァルはどちらかというとランスロットの体質に近いらしい。身を削った分はそのまま体に現れても、その逆は少々難渋するらしかった。太りにくい、人間の進化の過程からしてみると少々不利な体質を持つタイプに思われた。
その証拠に、首筋をそっと指先で押してみても、必要最低限のやわらかさののち弾力ある筋肉に辿り着く。無駄という名に置き換わる備蓄など不要、と言わんばかりの体の線をしているパーシヴァルの隅々まで、触れる機会はあるのだけれど……もう少しでいいから、鎧が浮かない程度の肉をつけてくれればいいのになと、ヴェインは折に触れて考える機会があった。
「……パーシヴァル……もうちょっとだけでも、太ってくれたらいいんだけど」
閨で裸の腰を掴んだ時など特に、皮下脂肪の少なさに不安になる。あれは、人間のいざという時の余力の指標でもあるのだから。
しなやかな筋肉に覆われている腰に多少の贅肉が乗ってくれれば、触れ心地が良くなるだけでなく病に伏した時でも抵抗力をある程度保つこともできるし、体温が逃げにくくなる分寒地での行動のしやすさも変わってくる。
「ここは、いつもやわらいんだけどな……」
整った顔立ちに彩りを添えている、あたたかみのある色をした唇にそっと指で触れる。
指の腹を当てて押しても、左右に滑らせても、しっとりしていて愛らしい手ごたえが厚くなった皮膚ごしに感じ取れた。
「そろそろ起きる時間だから起こしてもいいかな、パーシヴァル……聞きたい話がまだまだいっぱいあるから、次の依頼で出かけるまで、俺に話してほしいんだ」
くだらない話でも構わない。自分ひとりで背負いきれない重たい話なら、半分背負う覚悟だってある。
夢の中からなかなか帰ってこない恋人を連れ戻す役目を果たすために、ヴェインは指を顎に添えゆっくりと顔を近づけていった。

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