ヴェパーランさんぴー

とあるどこかの騎空挺にて。
企画立案した者は誰だったのか、もう曖昧になっていたが、宴が催された。
日頃の労をねぎらい、明日への活力へと繋げるために。あるいは、もっと単純に、騎空団員同士の親睦を深めるために。
宴は大いに盛り上がり、めいめいが盃を傾け酔いつぶれる者も日頃の何倍かに膨れ上がって、三々五々各人の部屋に引き上げて宴はお開きになったのだが。

その宴の数日前に、暗躍していた二人組がいた。
ヴェインとランスロット。
悪戯心を瞳一杯に浮かべた二人は、ヴェインの部屋にて逢引──いや、密会だろうか──ともかく、顔を合わせていた。

野暮を承知で書き記すが、二人は恋仲である。
それ自体は団員の大多数が知っているし、公認の仲と形容しても何らおかしくはない、はずであった。
ごく一部の人間が暇を持て余した時以外は。

そのごく一部の困った暇人・パーシヴァルは、恋仲の二人を引っ掻き回して楽しみを覚える困った性分の持ち主であり、日頃からヴェインとランスロットの恋路に何かと顔を出し過剰ともいえる接近を繰り返すなど、二人の間に小さな鬱憤を積もり積もらせて遊んでいた。
そんな所業に業を煮やしたヴェインとランスロットは、何かと箍が外れやすい宴の夜を狙って、今回ばかりは逆にパーシヴァルで日頃の鬱憤を晴らしてやろうと画策中であったのだ。

「──で、実際のとこ、どうするよランちゃん。相手はあのパーさんだぜ?」
「そこなんだよなぁ……」
額を突き合わせて、これはと思われる案を互いに書き記していく二人。だが難航していた。
相手は腐ってもウェールズ家の教育を骨身に叩き込まれた男・パーシヴァル。一筋縄でいくわけがない事くらい、二人とも承知している。勿論、腕が立つことも織り込み済みである。
「二人がかりで抑え込んでも、後から何を言われるか正直読めない部分も大きい。それに、団長に知れれば間違いなく一層事態は厄介になる」
「だよなぁ……パーさんが乗り気だったら話は変わってく──」
「それだ、ヴェイン」
名案でも閃いたのか、ランスロットが目を輝かせる。
「乗り気にさせてしまえばいい」
俺たち二人がかりでになるから、お前が同意してくれればの話になるが、とランスロットは続ける。
「パーシヴァルは遊学中の身だろう? 様々なものを学び、いずれはウェールズに戻ることにはなるだろうが……『経験』させてやればいいんだ」
ヴェインを行為に誘う時と同じ目をしたランスロットが、ヴェインの耳元で囁く。
(男の、味を)
「…………へ?」
一瞬、恋人が何を言おうとしているのか、しようとしているのか、理解するには至らなかったヴェインが間抜けな声を上げる。
「なあ、ヴェイン。単刀直入に言う。お前はパーシヴァルを抱けるか」
俺はきっと問題ない、と唐突に話題を明後日の方向へとランスロットは投げ飛ばした。
「え、あ、ラン、ちゃん……?」
「あいつはきっと……女の経験は知らんが、男の経験はないか、あっても浅いに違いない。そこにつけ入る隙がある」
ぽかんとしているヴェインをよそに、ランスロットはもはやこれ以上の名案はあるまいとまくしたてる。
「俺はあいつに抱かせてやってもいいと思っている。そして、俺たちと同じ沼にはまって出られなくなってしまえば……今までの報いを受けたことになると思うんだが、お前はどうだ、ヴェイン」
あいつを抱けるか。ランスロットは再度、同じ問いかけをヴェインに投げかけた。
「そりゃあ、俺はランちゃん一筋だけど……ランちゃんがそこまで言うなら……」
パーさんのすまし顔をぐしゃぐしゃに乱してみたいって気も、しないでもないしなぁ……。
そうヴェインが呟いて。
「なら、決まりだな。幸いにも宴の予定も近い。酒が入ればあのパーシヴァルとて理性の箍も緩むはずだ。そこを、一気呵成に攻め立てるぞ、ヴェイン」
すっかり白竜騎士団長の顔をしているランスロットを見つめるヴェイン。それは、騎士団の副団長としての顔ではなく、恋人の悪だくみを微笑ましく見守る保護者に近い顔であった。

そして、宴の当日。
お目付け役になりかねないジークフリートを知恵を絞って早々に酔い潰し、パーシヴァルにも酒を勧めてほろ酔いにさせた二人は、出来る限り酒食を控えて計画の遂行にのみ注力していた。
酒が入ると眠気を催す体質でも持ち合わせていたのか、騎空挺の片隅で舟を漕いでいるパーシヴァルを視界の端で認めたランスロットは、してやったりと内心でほくそ笑んだ。
パーシヴァルの介抱をする、という絶好の口実を得たヴェインとランスロットは、片づけを始めている他の団員をよそにパーシヴァルを個人の部屋へと運び込んだ。
誰の部屋なのかは、言うまでもない。
すっかり『準備』の整っている、ヴェインの部屋である。

薄ぼんやりとしているパーシヴァルは、まだ自分が宴の会場にいるのか、それとも別の場所にいるのかさえ把握しきっていない状況のようで。
「パーさん相当酔ってねえ? ランちゃん」
「そのうち嫌でも酔いが醒めるさ。今のうちに脱がせてしまおうか、パーシヴァルは裸でそのへんをうろつくような男じゃないからな、足止めにはこの位で十分だろう」
鎧を着こまれていてはたまったものではなかったのだが、宴席にまで武装をしてくるような男ではなかったことが二人にとっての幸いだった。着脱のしやすい平服は二人の手によってあっという間にパーシヴァルの体からはぎ取られ、ヴェインの手によって丁寧に畳まれたのち机上に置かれた。
「で、俺たちも脱ぐのか? ランちゃん」
「勿論」
言葉を返した時には既に、ランスロットは自らの上半身をむき出しにしており。
パーシヴァルのものよりも数段色素の薄い、抱かれ慣れた証とも言える濃桃色の乳首も露わで。
そこが『そう』なっていると知っているヴェインでも、思わず生唾を呑み込む始末であった。

「うわ、ランちゃん……パーさんのここ、予想以上にきついみたいだ……ローション、取って」
「判った」
きちんと片づけられているサイドテーブルからローションの瓶をヴェインに渡して、ランスロットはパーシヴァルの性器を扱きながら様子を逐一窺っていた。
背後からのヴェインの責めに時折気持ちよさそうにぴくん、と眉根を寄せるのだが、眠りの世界の住人となってしまってしばらく時間が経過していた。
そろそろ目を覚ましてもおかしくはないのに、とベッドに横たわり考えながら、ランスロットはいつもヴェインにしてやっているように性器を弄くり倒している。
「あ、やっと指一本入った。パーさん処女だな、ランちゃんの初めての時と同じくらい、きっつい」
「……そうか。なら、極力丁寧に扱ってやってくれ。痛い思いをさせては、『こちら側』に堕ちるつもりにはならないだろうからな」
パーシヴァルの身を案じるようでいて、その実残酷なことを告げるランスロット。
ああこれは確かに復讐だったのだとヴェインは再認識し、二度と元の生活に戻れなくなるよう丁寧に、パーシヴァルの初花を散らし始めた。
「パーさん、こっちも思いの外飲み込み早いぜランちゃん……馴染んできた。二本目、入れてみる」
「ああ、そうしてくれ」
それと、ローション返してくれ。俺も慣らす。
パーシヴァルの陰茎を手淫で嬲りながら、ランスロットは自身の後ろを解し、淡々と準備を重ねていく。
一方のヴェインも、パーシヴァルの体温を直に感じる二本の指を揃えて中を拡充し、三本目の挿入の準備に取り掛かっていた。
「ランちゃん、もっかいローション取って。三本目、入れるから」
「案外順調だな……本当に初めてなのか? ……ほら」
もう一度ローションを手渡したランスロットは、覚醒しかけているパーシヴァルに気が付き、ヴェインを少し急かした。
「もうそろそろ起きても不思議はない……慣らし次第、入れてしまって問題なさそうだ」
「あいよ、ランちゃん」
三本目の指を難なく受け入れたパーシヴァルの後孔をひとしきり解し終えたヴェインは、指を引き抜いてパーシヴァルの尻を左右に押し広げた。
そこにいきり立っている自身のものをあてがい、狙いを定めてじっくりと腰を入れていった。
刹那。
ぁ、と弱弱しい声がパーシヴァルの喉奥から漏れ出て、紅の睫毛に縁取られた双眸がゆっくりと開いていく。
それでもまだぼんやりとしているのか、自分自身が置かれている境遇にまでは気付いていないらしい。下半身に広がる違和感と快感に身を委ね、侵入してくるヴェインのものを素直に受け入れながら、吐息に近い声を上げていた。
「ランちゃん、そっちは準備できた?」
「いつでもいい。もう少しパーシヴァルの腰を落とさせろ、微調整はこっちでやる」
自身の穴から三本の指を一息に引き抜いたランスロットは、パーシヴァルの陰茎から一旦手を放してシーツ上を移動していく。
しっかりと挿入可能なまでの硬度に仕上がったそれを再度掴んで、自身の穴にある程度の深さまで入り込むよう位置と角度を再調整し、ベッド上で腰を浮かせる。
にゅぷっ、とごく自然に入り込み、ヴェインのものとは違う形状を感じて思わず漏らした喘ぎ声で、今度こそパーシヴァルは目を覚ました。
「……なん、だ? ここは……」
「お……起きたか、パーさん」
ズッ、と最奥まで挿入しきったヴェインが、額に汗を浮かべながらパーシヴァルに声をかける。
「っ! ……何を、している! この、駄犬……!」
「仕返し、だよ。パーシヴァル」
パーシヴァルのものを受け止めながら腰を揺らすランスロットが、ヴェインの代わりに返事をする。
「散々、俺たちの邪魔ばかりしてたからな……今日はその、仕返しってところだ。諦めて『こちら側』に堕ちてこい」
きゅうっ、とランスロットが後孔を締め付ければ、呼応するかのようにヴェインがゆっくりとした律動を始める。
うぁっ、と前後から与えられる刺激に声を上げるパーシヴァル。雄としての快楽が与えられている一方で、雌として扱われ身を内から苛む存在に辟易し、どちらに集中すればよいのかがわからなくなっていた。
「あれっ、パーさんあんま気持ちよくない……? このへん、だと思うんだけどなぁ……」
パーシヴァルの体内にあるはずの膨らみを探して、腹側を中心に様々な角度から抉り始めるヴェイン。
その腰遣いから逃れようとして不規則に動くパーシヴァルに振り回され、あっという間にランスロットは余裕をなくした。
「ま、待ってくれヴェイン……動かれるこっちのことも、考え……っつ!」
喉を反らしてシーツを鷲掴みにし、快楽に打ち震えるランスロット。
そしてパーシヴァルはと言えば。
「お前ら揃って、何を企んでいるのかと思えば……どうなるか、わかっていて──っあ!」
とうとうヴェインに前立腺を探り当てられ、執拗に責められ始めていた。
「お、パーさんすっげえ濡れてきた……見かけによらず結構スケベな体してるんだな」
「うるっ、さい! この、駄犬、はな……れろ……っ!」
「ランちゃんに突っ込んで腰振ってる分際で何言ってんだ、パーさん」
ランちゃんのナカ、気持ちイイだろ?
俺が丹精込めて拓いたカラダだからな、気持ちよくねえって言ったら……。
不穏な雰囲気がヴェインから漂い始めたのを察したパーシヴァルは、答えを煙に巻き与えられる快楽に逃げた。
慣れない責めに翻弄され、シーツを噛み声を殺していたランスロットが、シーツから口を離してもうだめだ、と口走ったのが早いかどうかのタイミングで。
唯一どこにも入っていないランスロットの陰茎の先端から白い精が飛び、パーシヴァルとランスロットの腹を汚していった。
ランスロットの射精はなかなか止まらず、荒い息を吐き緩く腰を振りながら、達した余韻を愉しんでいたかと思いきや。
「……っ、くぅっ!」
腰をぶるぶると震わせたパーシヴァルが、ランスロットの腰を掴んで引き寄せ、その中へと勢いよく注ぎ込み始めた。
「おーおー、激しいなパーさん……ギチギチに締め付けてくんの、たまんね……」
我慢できずに最初にイったランちゃんも可愛かったしな、と。
呟いたヴェインはランスロットの中に注いでいる最中のパーシヴァルの腰を固定し、処女を散らしたばかりの花の中目がけて我慢を重ねたものを解き放っていく。
男の欲望に塗れたパーシヴァルの体内から溢れ出た白濁は太腿を伝い膝裏まで滴り落ちて、やがてシーツに吸い込まれ。
圧倒的な快楽に呑み込まれたパーシヴァルの目には、妖しい光が宿っていた。

「さて、次はランちゃんの番か」
快楽の余韻に耽っていたパーシヴァルはすっかり油断していて、ランスロットの手により体勢をひっくり返されベッドに寝かされるまで何が起きたのか理解しきれずにきょとんとしていた。
ランスロットはここぞとばかりに、今しがたまでヴェインのものを受け入れていた孔にあらかじめ扱いておいた自身をあてがい、ヴェインとは違って一気に貫いた。
「ん、あっ!」
パーシヴァルの声には痛みを感じている様子など片鱗も感じない。
散々押し広げられていた場所に感じていたそこはかとない喪失感を埋める質量が与えられたことへの歓喜が男としての矜持を上回り、はしたない声をあげさせるに至っていた。
(ウェールズの男が形無しだな、パーシヴァル)
ずちゅっ、ぱちゅっ、と濡れた音を立てて、パーシヴァルの体内を行き来するランスロットの性器。
普段は見る機会のない、誰かを抱く時のランスロットの顔を見て欲情したヴェインが、そっと後ろからランスロットを抱き締めてお伺いを立てる。
「ねえ、俺もランちゃんのナカ、入りたいんだけどいい?」
「……聞く必要あるのか?」
耳まで赤くしたランスロットが、腰の動きを止めて足を開き、ヴェインを誘う。
据え膳を用意されたヴェインはそそくさとランスロットの尻穴にペニスをあてがい、慣れ親しんだ恋人の体を堪能し始めた。
「ランちゃん、可愛い。俺だけの、ランちゃん」
首筋に鼻先を埋めて匂いを嗅ぐと、汗に混じったランスロット独特の匂いが感じられる。
「こらヴェイン、お仕置きがまだ途中だ……ぁ、っ」
後ろからゆっくりと、しかし奥深くまで突かれては、一人の男としての自分をランスロットは保てなくなってしまって。
口を吸いあい、二人だけの時間を謳歌するヴェインとランスロットを見上げながら、パーシヴァルは時折与えられるもどかしい快楽に調教されて、躊躇しながらも腰を振っていた。
「……っ、おい」
声をかけてもヴェインとランスロットの睦み合いは止まらない。
「…………おい、駄犬!」
大声をあげてようやく、ヴェインのみが二人の世界から戻ってきた。
「何? パーさん」
すっかり雄の顔をしているヴェインに自分のほの昏い欲望を見透かされた気がしたパーシヴァルは、途端にか細い声になって自身の欲求を伝える。
「……ちゃんと、動いてくれ。気持ちよく、なれない」
「だってさ、ランちゃん」
ランスロットの耳朶を食み、ヴェインがランスロットに伝える。
「そうか、それは済まなかった、パーシヴァル」
二人の狙い通りになった。
体内を穿たれ、嬌声をあげるパーシヴァル。
パーシヴァルを穿ち、後ろは恋人に明け渡しての性交を愉しむランスロット。
そして、恋人の雌雄双方の表情を愉しむヴェイン。
三者三様の愉悦を手に入れ、夜は更けていく。
一番早く我慢しきれなくなったパーシヴァルが、精を自身の顔にまで飛散させ荒い息を吐き。
精を体内に放つ、支配する悦びを覚えたランスロットが甘い吐息を漏らし。
先に放たれていたパーシヴァルの精液が泡立つランスロットの体内に最後にヴェインが吐精して、性の饗宴は終わりを迎えた。

はずで、あった。

その夜以来体を拓かれてしまったパーシヴァルが、眠れぬ夜を過ごしてジークフリートの部屋を訪れる日が、やってくるまでは。


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