ヴェパシ ワンドロお題:2cm

二人には身長差がある。
といっても絶妙な差異なので、日常生活の中ではまず意識しない。
どんな時に彼らの身長差が表面化するのか?
実は、当の本人たちでさえも咄嗟に投げかけられた問いに対して、明快に答えられなかったりもする。
たったの二センチメートル。
近くて遠いこの距離を初めて意識したのは、団長の遊び心に振り回された時だった。

団員を身長順に並べたら、自分は何番目に位置するのだろう?
そんな突拍子もないことを朝早くに言い出した団長のせいで、男性全員に起き抜けに召集がかけられた。
前日の夜更けに手燭を用いる闇の中を帰還したパーシヴァルは、正直な所寝不足だったので胸中は晴れやかとはいかない。ただ代役を立てられるような中身でもないし、行かなければ行かなかったでランスロットあたりが騒ぎ出しそうな予感もする。
…………仕方ない、起きるか。
ベッドに残るぬくもりに未練はあったが、惰眠を貪るのはよくないと考え直して部屋を出た。

顔を洗い軽く髪をなでつけ終えた頃には、男性団員の大多数が甲板に集まってやいのやいのと背丈を比べ合っていた。
律儀なのかなんなのか、身長を計測できる機材まで持ち込まれている。
一体どこからそんなものを持ち込んだのか?
浮かんだ疑問に答えを出す労力を割くのはやめにしたパーシヴァルは、先に自身の背丈を計測してから存分に思索に耽ろうと決めた。
とうに成長期自体を終えている自身の数値は把握しているが、異常などがないかを確認するためにも定期的な計測に意味はある、という持論もある。
上から水平な面を押し当て止まった点での目盛りを読む、シンプルなだけに短時間で背の高さが確認できる機材の前に出来ている列に並ぶと。
「あ、おはよーパーさん……お疲れさま、だよなぁ」
駄犬もといヴェインが、後ろから声をかけてきた。
あくびを噛み殺しながら振り向くと、昨日は早く休んだに違いないであろう快活さを隠さないヴェインが、朗らかに話しかけてくる。
「夜更けに戻ってきたんだろ? 朝早くに起きなきゃいけないのって、タイヘンだよなー」
都合をつけて同衾する都合上、互いの艇外活動の内容はできるだけ教え合っている。このところご無沙汰しているから、もうそろそろ『機会』が訪れてもいいのではともパーシヴァルは個人的に感じていた。
「構わん、と言いたいところだが……夜が明ける前に戻れたのが、まだ救いだった」
眠気をこらえきれずに、あくびをもうひとつ。
気を抜くと傾ぐパーシヴァルの体をそれとなく支え、列を進むために背を押すヴェインは今日も相変わらずだった。
「あはは……頭とか、痛くない? 寝不足の時って時間差でそういう症状が出たりするし、無理は禁物だぜ?」
体調管理も仕事のうちではあるが、夜にしか果たせない仕事の後には適正な休息も必要だった。
おそらく今日は自由にできる時間がこの後用意されているのだろう。
「……朝食を軽く摂ってから、体調次第で仮眠するつもりだが──」
その時に、お前の部屋に行っても構わないだろうか。
そう続けるつもりでいたパーシヴァルだったが。
「あ、ほら、順番きたから計んないと」
背を押すヴェインは計測を促し、気を取られていたパーシヴァルは若干ふらつきながらも計測台の上に乗った。
「俺目盛り読もっか〜……ん、変わってない変わってない」
それだけ聞いたパーシヴァルはさっさと計測台から降り、続いてヴェインと位置を交代する。
「さっさと計って次のものに順を渡せ」
靴でごまかすのは禁止ね! という団長からのお達しにより、立ったまま編み上げのブーツを脱いでいるヴェインを急かし、計測台の横でパーシヴァルは目盛りを読んだ。
「百八十二。変化なしだ」
ちょっとでも伸びてたら面白かったのにな〜、とおかしなことを言い出すヴェインを台からどかして、残り数人にまで減った未計測者の列をさばいて。
お待ちかねの、整列の時間がやって来た。
のだが。
「みんな、背高くていいなぁ……」
前回の計測から思ったほど伸びていなかったようで、肩を落としている団長はなぜか列に加わろうとはせず。
記念に作られた身長の記録用紙を見て鼻息を荒くしているルナールを、苦笑しつつ見ていたヴェインとパーシヴァルだったが。
二人の距離は、先ほどよりも開いていた。
一列に整列したときに、間に入っている団員が何人もいる。
無機的に身長順で並んでいるのだから仕方ないのだが、眠気でふらつくパーシヴァルの体を支えてくれるはずのヴェインは、左右を挟む面子との交友を深めていて。
重い瞼を持ち上げようと必死に耐えるパーシヴァルの奮戦に気付けない距離。
隣にいるランスロットに顔色が思わしくないと案じられたのだが、座り込んで眠ってしまったらヴェインが背負って部屋まで運んでくれるのではないかという期待と打算があった。

「……パーさん寝ちゃったか」
部屋連れてくから抜けても平気だよね、ととりあえずの確認を取ったヴェインは、パーシヴァルの思惑通りに眠りこけて力の抜けている四肢を支え、背負った。
「ランちゃん、ジークフリートさん、あとはよろしくね」
夢の世界の住人になりつつあるパーシヴァルの重みを全身で感じながら、ヴェインは自身の部屋を目指す。
そこに行けば、おやすみのキスをしても誰にも咎められない。
二人だけの世界で、ゆっくりパーシヴァルを休ませてやれる。
ひとくぎりの楽園で過ごす時がどれほど貴いか、ヴェインはよく知っている。

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