ヴェパシ ワンドロお題:モデル

ハンドモデルのパーシヴァルと同居人ヴェインのおはなし。

その手には、何もさせてはいけない。
きつーく、きつーく言われてるコトだ。
そりゃ、ハンドモデルやってるからには、生活がひとりでに生み出す指先のゆがみからかすり傷まで、何にでも気をつけなきゃなんないんだろうけどさ。
ほんとに俺は、パーシヴァルに何もさせてない。
朝起きてまず最初に行くトイレにだって同行するし、顔を代わりに洗ってやるのも俺の役目。
勿論家事の類は俺が全部担当してるし、それ自体に不満はない。
パーシヴァルが相応の収入を得てるから全く生活に困らないってのもあるし、家事をはじめとした雑事は俺の得意分野だからどれだけやることが増えようとも苦にならない、ってのもある。
……苦には、ならないんだけど。
ちょっとした、不満はある。

パーシヴァルは昔からハンドモデルをやってたわけじゃないんだ。
華やかな芸能関係に縁がある一族の生まれだって話を聞いたことがあるんだけど、スポットライトを浴びたりするのに大した興味がなかったらしくて。どっちかっていうと裏方のほうに関心があったみたいなんだ。
けどある日の現場で、撮影の時間になってもハンドモデルの子が来なくて連絡もつかないからってことで、代わりに被写体になったんだって。
シンデレラストーリー、っていうんだろうなあ。
こういうの。
その一件以来仕事が指名で舞い込むようになったから、ハンドモデルの世界に予備知識のほとんどない状態で飛び込んだんだけどさあ……手入れとか、すっげえ念入りにやるんだ。そりゃもう、女の人でも余程気にかけてない限りここまでやんないよな、ってくらいに。
その分、触れ心地は抜群なんだ。
生きてる芸術品、なんだって。パーシヴァルの手は。
ただ、なあ……その維持管理は俺の担当になっちゃって、何年経つかなあ……。
一緒に住むようになって三年だけど、その前からだから……そろそろ五年くらいには、なるのかな?

おっと、不満の話だった。
……これ、内緒なんだけど。
パーシヴァルの手の維持管理は俺の管轄ってことはだ。
パーシヴァル本人の世話も俺の領分ってことになる。
より具体的に言うと、下半身のお世話込みで、俺は色々と面倒を看てる。
最初は本人の代わりに手でアレを扱くくらいから始まったのに、手だけじゃなくて口でもするようになったし。
口でするようになってから数か月も経たないうちに、俺はパーシヴァルの所謂……その、なんだ……下のお口と仲良くしはじめまして。
その最中のパーシヴァルって、すっげえ綺麗で。
あ、その、普段も勿論だけど、その最中だけは特別なんだ。
その場には俺しかいない。
俺しか見てない。
そういう関係、だから。
お仕事の時は肘から先に全神経を集中させてるせいで、透き通った殺意みたいな緊張感が全身から出る人間なのに。
オフの時間の、自分じゃ何もできない、依存しっぱなしの姿は勿論知ってるし。
かすれてるのに割と高い声で、俺のことを呼ぶんだ。
あれして、これして、って命令なりお願いなりしてくるパーシヴァルの口が、その時ばかりは。
ゆるして、って。
気持ちいいのを我慢しきれなくなって、保護用の手袋をはめたままの手をおずおずと伸ばして、股間のものを扱こうとするのを、何度制止したことか。
本当はさ、本人の好きなように振舞えるのが一番だと思う。
けど、お仕事のこと考えたら……パーシヴァル自身の手に、そんなことはさせられない。
だからちょっとだけ、急いでる。
手で前を弄らなくても、ナカだけで十分気持ちよくなってくれればなって思ってるから。
でもいまいち、パーシヴァルは乗り気じゃない。
後戻りできなくなるのは困る、って嫌がるんだ。
こっちは一生世話するつもりだし、ハンドモデルやらなくなってからの生活だって見越してやりくりもしてるし、在宅で仕事だってしてる。
小難しく考えすぎなところを、もうちょっと緩めてくれたらいいのになって、思う時くらい俺にもある。
そんなに俺に甲斐性がないように見えるのかな。
俺が年下だから?
それとも俺の他に、本当は一緒にいたい人がいるから?
……後者だとしたら、ヤだな。
俺はパーシヴァルの世話を焼かなくなる自分がいるなんて、今じゃ全く考えられなくなってるし。身の回りのこと全部を引き受けて五年、思春期の終わり頃に骨抜きにされて以来、パーシヴァルのいない生活の組み立て方ってのを忘れてるから。

「……起きた? おはよ、パーシヴァル」
「…………ん」
昨日ちょっと声を出させ過ぎたかな。空調のきいた部屋の乾燥で喉が渇いている可能性もあるけど、どちらにしても何か飲んでおくのが良さそうだった。
「お水ね、まだ冷たいかもしれないから、ゆっくりこれ飲んで」
白湯用意しておけばよかったかな。コップに注いだばかりの水をこくこく大人しく飲んでいるパーシヴァルの喉を見つめていたいけど、昨日はシーツをそのままにして寝ちゃったから早めに取り替えておかないとな。
ああその前に何か着せないと。目のやり場に困るし、体を冷やしちゃうし。
待てよそれとも、先にトイレに連れて行った方が──
「──ヴェイン」
立ち上がろうとして前のめりになった背中に、パーシヴァルの頭がこつんとあてられる。
句が継がれるのを待っていたら、腕が回された。
「最初に、朝食だ」
だから連れていけ、腰が立たない、ってことだったのか。
立てられた膝の下と背中を支えて横抱きにして部屋を出たら、イロイロな臭いを帯びていないすっきりとした空気が俺達を出迎えてくれる。
……あ、まずい。
昨日夢中になりすぎてつけた跡、見つけちゃった。
これ、パーシヴァルが見つけたら、きっと怒られるんだろうなあ……。

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