ジクパー+ヴェラン 掃除当番は何を見たか

ランスロットの行儀の悪さを指摘してくる可能性が一番高い相手は、あろうことか共用スペースの長椅子に身を横たえて眠っていた。
寝息の主、パーシヴァルは……ランスロットがそこらを歩きながら綿菓子を頬張っていることなど露知らず、すっかり寝入っていて……いつの間にか体の上に毛布をかけられていることにも当然気付いていないだろう。
すやすやという擬音語の良く似合う、穏やか極まりない寝方だった。時折多少の身じろぎはするけれども、その他にはほとんど体を動かさない寝方で──寝相が悪くベッドから転げ落ちて目が覚めることもある自分とは大違いだ、と呑気に構えていたランスロットだったのだが。
もそもそ、とパーシヴァルが何度目かの身じろぎをした時、昨夜耳にした声を思い出してしまったのがいけなかった。

『────』
最初に伝わって来た違和感は、声にならない声らしきものを耳にした時に覚えた。
続いて聞こえてきたのは、切羽詰まった──いや、感極まった声といったほうが適切だろうか。
恩師の名を呼ぶ、声量の控えられた少し高い声。
最初は、この騎空挺の中で懇ろになった異性でも出来たのか、と驚きとともに好奇心が訪れて耳をそばだてたランスロットだったのだが。
隣で寝ているヴェインのいびきにかき消され、ところどころしか聞こえてこないのを不満に感じてしまったのが運の尽き。
常よりは重さを感じつつもすっきりとはしている下半身を意識して操りながら部屋を出ると、割とはっきりと──『それ』は聞こえてきたのだ。
恩師の名を呼ぶ、平生からは想像がつかないほどに高く掠れた──泣き濡れているパーシヴァルの声。
誰に感づかれるかわからない状況を愉しもうとしたのか、甲板の方から聞こえてくる声は、どう控えめに勘案しても致している最中のもので。
(……パーシヴァルも、ひとに抱かれる側なのか)
奥深いところまで満たされるよろこびを、あの男も知っているのか。
機会があったら腹を割って話してみるのもいいかもしれない、とだけ思い、定めて、ランスロットは今日の寝床であるヴェインの部屋へと戻った。

すっきりさせたはずの下半身が、さきほどの声のせいで再び疼いてなかなか寝つけなかったのは誤算だった。
恩師の下半身事情はさておいて、パーシヴァルは実に淡白だったはずだが……実に煽情的な声を聞かせてもらった。拒んでいるように思わせておきながら、内へとやわらかく引き込もうとする淫靡なまぐわいをほのめかし、誘う……そんな声だった。
たまらなくなったランスロットがヴェインの背中に抱きつくと、少し高めの体温がランスロットの中の燻りを刺激して、もう出し尽くしたとばかり思っていた陰茎がまたしても頭をもたげて下着を押し上げる。
ずらした下着から露出している先端をヴェインの体に当て、裏筋を中心に擦りながら漏れ出てくるぬめりで汚さないように何度も拭っていると。
「──ランちゃん、足りないなら、もっかいする?」
ランスロットの荒い息遣いを首筋で感じていたヴェインが目を覚まし、寝返りを打ってランスロットのほうへと向き直る。
上気した頬を夜闇越しにも見られたランスロットは首肯し、薄手のシャツの裾をまくり上げて腰を浮かせた。

明くる朝。役割分担を調節する必要が出たせいで、甲板は人で少しばかり混み合っていた。
甲板の掃除が新たに追加されていたのと、依頼で騎空挺を不在にする面子を土壇場で変えざるを得なくなったのと。二つ重なれば、余剰人員を駆り出しても余裕のない割り振りになってしまっていた。
その元凶である自覚のある恩師は、団長相手にだけでなく──影響を受けた団員全員に頭を下げて回っているらしく、ある者にはからかわれ、ある者には恐縮され、多様な反応を受け取りつつも『次がないよう気をつける』という結論へと話をもっていき、魔物退治の依頼で出かけていった。

『今日はゆっくり休ませてやってくれないか』と恩師が団長に頭を下げている姿をうっかり見てしまったのもよろしくなかった。
抱き潰した俺の落ち度だ、と土下座し平謝りする背中。
あの黒い鎧の威圧感も、今ばかりは形無しだ。
そんなに何回も謝らなくていいから、僕たちもそろそろ行かないと遅れちゃうかもしれないし一番謝らなきゃいけない人は僕じゃないはずだよ、とだけ言って逃げるように出発した年若い団長。その心の内側は、知らない世界を強引に知らされてしまって千々に乱れているのか、それとも。
ランスロットも、ヴェインとの関係を公にしているわけではないから、いつか知られた時は同じくらい団長をはじめとした団員の心を乱すのかもしれない。
けれど、驚かれはしても、きっと誰もが祝福してくれるのではないかという、確信めいたものはあった。
パーシヴァルの首の、毛布でも服でも隠しきれていない口づけの痕跡が、そう語っていた。

夕刻になってようやく目を覚ましたパーシヴァルがジークフリートに対して落とした雷といったら。
真顔のユーステスが無言で首を横に振るような代物だったそうだ。


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