ジクパー 頭の弱い学パロのような何か

なぜか同じクラスにヴェインがいたりしますが細かいことを気にしない方向けです


それは、体育の授業のために着替えている時に起きた事件だった。
「あれ、パーさんその下着見慣れないっていうか、サイズあってないんじゃね?」
隣で着替えていたヴェインが、年齢には似つかわしくない堂々たる体躯をかがめて、パーシヴァルの下着に見入っている。
「……気のせいだろう。これだから駄犬と言われるんだ、お前は──」
しらを切り通そうとしたパーシヴァルの相手が一人だけだったのなら、目論見は成功したかもしれない。
しかし。
「いや、今までで一回も見かけたことないのに肌馴染みがいいっていうか、いい意味で生地がくたびれてるっていうか……」
「だよなー、ランちゃんもやっぱそう見えるよなー」
ヴェイン越しに覗き込んできたもう一人の男──ランスロットが、ヴェインの私見にお墨付きを与えてしまったため、特に関心を示していなかった周囲の視線が一斉にパーシヴァルの身に着けている下着に注がれ始めた。
事実パーシヴァルが、今まで一度も『自分では』身に着けていない下着だったのだから無理はないのだが、それをこの場で明かしてしまうと余計に厄介なことになる。
「今朝、少々事故めいた件があってな……そのせいだ」
何があったのか具体的な話は伏せつつ、それでも下着に関する領分では今日は非日常に相応しい日なのだとパーシヴァルはほのめかし、運動用のジャージに着替えた。
(……ジークフリートめ、こうなるのを見越して俺に下着を寄越したのではあるまいな……?)
恋人の今朝の意味不明な振る舞いに、思いを馳せながら。



年上の恋人の腕の中で朝を迎えることが、パーシヴァルにとって珍しくなくなってからしばらく経つ。
まだ目を覚まさない五歳年上の恋人、ジークフリートは今でも夢の世界の住人のままのようで、カメラマンと言われても説得力を持たない出来の腕にパーシヴァルを捕らえて放さず、ひとつの身動きさえも許していないかのようだった。
すぐ目の前にある寝顔を見れば、疲労の色がわずかに残る以外はのんびり眠っているいつものジークフリートだったせいで、油断があったのかもしれなかった。
気ままな自営業の朝は遅いし、夜も遅い。昨夜も遅くまで画像の編集をしていたし、遅くに仕事をしない日はパーシヴァルの肌の深いところまで暴き立てたりもする。
そう、昨夜ジークフリートは、個展に出す写真の選定や微細な編集の追い込みのため、眠気に負けたパーシヴァルがベッドに潜り込んでもおやすみのキスしかくれなかったはずなのだ。
なのに、どうして。
パーシヴァルは混乱した。寝間着を身に着けて眠った記憶はあるのに、起きてみれば何も身に着けていないのだ。
おまけに下半身が怠い。次の日に体育の合同授業があると言い忘れてはいたが、まさか。
全身の力を使ってジークフリートをどかそうとして、強い違和感を覚えたパーシヴァルは、すぐ元の体勢に戻った。戻らざるを得なかった。
(っ、まだ、入って……)
今の身動きが刺激になったのか、体内でむくりと兆す気配があって。
ぐぐ、と深く突きこまれたパーシヴァルが思わず背をしならせると、浅い瞬きを繰り返しながら覚醒へと向かう男の姿が視界の中央で像として結ばれた。
「……おはよう、パーシヴァル」

そこまではいい。つながったまま眠ってしまった翌朝に、もう一度励んでしまう日はこれが初めてではなかったのだから。
時計さえ見ておけばよかったのだが、朝から啼かされ『愉しんで』いる最中はそこまで気が回らず、かの人の迸りを体の中で受け止めたあたりでようやく平時の思考を取り戻した以上──時間切れと気付いた瞬間に気が動転するのも仕方がなかった。
「んっ……ジーク……今、何時、だ……?」
下腹部に広がるあたたかい多幸感に必死に抗いつつ、恋人に時刻を尋ねたパーシヴァルだったのだが。
鷹揚なしぐさで見せられたアナログの置時計が指し示している時刻を見て、顔を青ざめさせた。
「な、っ……早く抜け、遅刻する!」
引き抜かれた余韻を楽しんでいられる時間の余裕などあるわけもない。
大急ぎでシャワールームに駆け込んだパーシヴァルは、体内外に散っている二人分の体液を洗い流すのと並行して、ジークフリートに指示を出し着替えを用意させていた。
その時に、手近にあるものなら何でも構わないからすぐに準備してくれと言ったのがまずかったのかもしれない。
シャワールームの曇りガラス越しに、これでいいか、とジークフリートがちらつかせていた下着を確認せずに、それでいいから制服も持ってきておいてくれ、と自分の手元に集中してしまったのを──落ち度というのなら仕方がない。
大急ぎで体を拭き下着に足を通したところでふとした違和感はあったものの、些細な異変に気を取られていては本格的な遅刻をしてしまう、だからこそパーシヴァルは必要最低限の身支度に留めて学用品を手にしたのだ。

車で校門前まで送り届けてくれたお抱え運転手は多少の焦りを滲ませながらも安全運転を心がけてくれたし、腕は確かなもので無事遅刻はせずに済んだ。
忘れ物もしていないし、車の中でできる追加の身支度もこなすことができた。
だからなのか……一息ついた時に思い出したのは、下着が放っている得体の知れない違和感。
体の線にうまく沿ってくれないせいで、理由のない『空間』も生じている。
おさまりがよろしくないのだ。位置で言えば……ジークフリートのものが普段おさまっている付近が特に。
腰回りに至ってはゴムが多少伸びてしまっているせいで、半分ずり落ちているかのようで。
よりによって体育の授業がある日に限ってこのような失態をと思いもしたのだが、狼狽えては余計に悪目立ちするかと考え直して、意識して平静を保つよう尽力した。
パーさんいつにもまして今日は偉そう、とヴェインに言われ、無言で軽く蹴りを入れたりもしたのだが、その位は時折あることなので誰も気に留めなかった。

……着替えの時にヴェインが目ざとく、『違和感』を嗅ぎつけなければ。

「……あれ? パーさん、香水変えた? パンツが違うだけじゃなくて、なんか、いつもと違うニオイがするような……」

「う、うるさい、お前はもう黙っていろ!」

図星です、と顔で宣言さえしなければ。
ジークフリートの存在を、ヴェインどころかランスロットにまでも、知られることはなかったのだが。

もう、遅かった。

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