ふえた | ナノ

※特に捏造が酷い

「ところで全員と話を終えたわけだけど。ここからどうやって出ようか?」

 現状、よりサンジくんのことをもっと好きになっただけで、肝心の脱出のヒントも解決策も何一つない。「どうしたら出られるんだろうね」と膝の上の8さいくんに声をかける。「みんなもそれぞれやることがある、よな……」少し困ったように俯く姿はかわいいがそれと同時に胸も痛む。そうだよね、不安だよね。私だって船のみんながどうしているのか、無事なのか、はたまたこれは敵の攻撃などなのか。わからないことだらけだ。どうしようね、と今度は21歳くんに目を向けると耐えられなかったのか、煙草を吸っているところだった。一応子供の前だしと言いはしたけれど、そもそもサンジくんが数時間の禁煙に成功しただけで偉いのだし、もうこの際それはいい。

「あァ、たぶん全員じゃないと思うぜ。まだこの部屋にはあと一人いるんだよ」

 あと一人?どう見てもサンジくんたちを覗けば簡単な家具以外ないのにだ。すっと立ち上がって壁に向かって21歳くんが声をかける。「いるんだろ」19歳くんが私をかばうように前に出るから、8さいくんをぎゅっと抱きしめた。ちらりと私たちをみた後21歳くんの雰囲気が変わる。「”悪魔風脚”…!」
技の影響で部屋の中に爆風が巻き起こる。「”首肉ストライク”!!」と何もない壁に向かって攻撃を繰り出すと、うっすらと何かの輪郭が浮かび上がった。目を凝らすと、すぐにでも攻撃体勢にはいれるよう構えていた19歳くんから動揺が伝わってきた。声をかけようとしたけれど、その機会は失われてしまった。「お前、その恰好」21歳くんが咥えていた煙草をぽとりと落としたのを合図にしたかのように、まるで壁から溶け出すように浮かび上がったのは全身真っ黒で、マントを羽織った特徴的な眉毛の人だった。この人もまさかとは思うけれど。

「……サンジくん、なの?」

 恐る恐る声をかけると真っ黒いサングラス越しにも分かるくらい目をハートにして「か!かわいい女……!」と言って瞬きの間に目の前にいた。間に挟まれた8さいくんのことは無視をして、がっしりと私の両手を掴み「お嬢さん、お名前は」などと言う。私を知らないということは出会わなかった場合の彼、と言う事だろうか。困り果てていると呆気にとられていた21歳と19歳は我に返り、鬼気迫る表情で黒い人に掴みかかった。

「テメェ、どうしてここに…!」
「お前がいるはずがない、いや、いてたまるか!」
「聞きたくもないが、名を名乗ってみろ、その汚ねェ名前を口に出せるならな…!」
「汚い?何を言ってるんだクソ野郎。そもそもテメェに名乗る名はねぇよ」
「あの、私はナマエと言います。あなたは…」
「おれはサンジ、ヴィンスモーク・サンジ。どうしておれの名を知っていてくれたんだい?可愛いお嬢さん」

 髪の色こそ黒いからか、姿は見慣れないけれど声もこの性格も間違いなくサンジくんだ。それに、ヴィンスモーク…?なんとなく聞き覚えのあるようなないような……。このサンジくんが出てきてからおおきいふたりの様子もおかしいし8さいくんはがたがたと怯えている。安心させたくて抱えなおした。しかし何度瞬きをしてもこの黒いサンジくんは間違いなくそこにいる。いったいこれはどういうことだ?

「お前もサンジという名前だとナマエちゃんが言っていたが…おまえたちはなんだ?他人には思えねえ。しかし髪まで黄色いし、さては出来損ないの量産体か?」

 おおきい二人は揃って眉をひそめて黒い人を見ている。「髪が黒いサンジくん、サンジくんのこと出来損ないとか言わないでよ…なんかおかしなこと言ってるのは私もだけど、そういうのやめて。なんか変だよ、どうしたの?」
「おれはジェルマ66のナンバー3、ステルス・ブラック。ジェルマの”最高傑作”だ。その他の替えとは違う。おれはニジやヨンジと違って滅多にボディを傷つけたりもしないしな。なのにそいつらと来たら。色も落ちてる、生身の人間みてぇなことを言う、それなのにどことなく他人とは思えねえ。腹ただしい事この上ねえぜ……」

 サングラスを外し口を覆っていたマスクをずらした顔には髭こそなかったがやはり間違いない、サンジくんそのものだった。けれどこの彼はなんだかすこし怖い。「そうだ、ナマエちゃん。城に来るかい?おれ専属の侍女になってくれたらうれしいなァ、たっぷり可愛がってあげられるし」にっこり笑って私の肩に手を置いた。顔も笑ってはいるけれど圧のある笑顔で、普段の大好きな優しい笑顔なんかとは程遠い。「いや、私は」「な?」ぐぐ、と指先に力が籠められる。肩がとんでもなく痛い。ゾロが時々振り上げている100kgとか書いてあるダンベル、多分あれを肩に乗せられたら多分こんな感じだと思う。

「い、痛い、いたいよ、やめて」
「いい加減にしろクソ野郎!」
「お前なんかは!いるべきじゃあねえんだ!」

 おおきい二人が左右から同時に蹴りかかろうとすると、すぅっと、文字通り「透明」になって、目の前から消えてしまって。いきなり消えるものだから咄嗟に8さいくんを抱き込んでかばった。二人分の鋭い蹴りが私に炸裂する直前で、二人は軸足を思い切り回転させたから、その勢いで吹っ飛んでいった。「ふたりとも大丈夫!?ごめんね、ありがと、……っ」駆け寄ろうと腰を浮かせたところでずきり、と頭に強い痛みが走った。身体を起こしているのもやっとなくらいで、意識を必死に手繰り寄せて8さいくんの姿を探すが、彼も床に蹲って苦しそうにしている。少し遠くの方に19歳と21歳も倒れていて、すぐにでも助け起こしたいのに、駆け寄りたいのに瞼が勝手に降りてくる。いつも私を大事にしてくれるサンジくんを守りたいのに。薄れゆく意識の中で、何か大きくて暖かいものが私の頬に触れている。手のひら、のような。どの、サンジくんの手だろうか。

「安心しな。どのみち「おれ」からは逃げらんねェんだからよ」

 よく知る声の、あまり聞いたことのない温度。やわい何かが唇に触れた気がしたのもきっと夢だ。視界に黒と金色の何かを見たのを最後に、私は意識を手放した。

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