ふえた | ナノ

<19>
 一番はじめはおれだった。2人の自分もいるとはいえ、こうしてふたりきり(と、いうことにする)になれたのは久しぶりだ。抱き寄せて唇を重ねると反射的にぎゅっと目を閉じるのが可愛いから、その顔が見たくてよくキッチンの物陰やみんなの寝静まった甲板やなんかでもつい不意打ちでキスをしてしまうのだけれど、その度彼女が「もう、サンジくん!」と拗ねたような照れたような声と表情で言うのが堪らなく好きだ。そして今回も。特に21歳のおれと8歳のおれが見える範囲にいるのもあってか、よほど恥ずかしいのだろう。「サンジくんそういうとこ……」とおれのスーツをぎゅっと掴み、胸元に頭を預けて俯いてしまった。えええ、なんだその反応かわいい。髪をさらさらと撫でながら後頭部に向かって声を掛ける。

「なあ、ガキの頃のおれ、どうだった?」
「可愛かった。8歳なら当然だけど私より背も低いし声も高いね。もうあの頃にはレストランにいたの?」
「そうだよ。クソジジイのところで料理を叩き込まれてさ、確かあの頃はまだ野菜の皮むき程度しかやらせてもらえなかったっけな」
「……サンジくんにもそういう頃があったんだ」
「そりゃあな。初めからできたわけじゃねェさ」

やっと顔をあげてくれて、至近距離で目が合う。じっと見つめるとへにゃりと笑うものだからたまらなくなって抱きしめた。分かりやすく硬直する彼女が愛おしくて仕方がない。「み、見られてる」「気にするな。おれだけ見てればいいだろ」「今日はどのサンジくんも私には刺激が強いみたいなんですけど……」「で、21歳のおれはどうだった?」「ええと、……嫉かない?」自分自身に対して嫉かない?とはなんともおかしな話だ。内容によるかな、という言葉を飲み込んで一応頷くと、ちらりと視線を21歳にやってから、内緒話をする時みたいにおれの耳元に近寄ってくれるので、頭を傾ける。

「……あっちもとってもかっこいいけど、私は今のサンジくんが好きだなって思ったよ」

そっと頭を戻すと彼女も手を外して真っ赤になった顔を両手で覆っていた。あ、やべ、鼻血出るかもしれん。愛しさで爆発しそうな胸を押さえていると視界にはいった21歳のおれが8歳のおれの目を手で塞いだ。流石はおれだ。「ナマエちゃん」名前を呼ぶと上目遣いで見上げて、視線で返事をする。見られてないならいいんだろ?顎を指先で掬い上げて唇を重ねる。何度か軽く触れるだけのキスをして、舌先で唇を撫でると薄く開く。素直で可愛いな、本当に可愛い。食らいつくすかのように舌でナマエちゃんの口内を犯す。逃げるナマエちゃんの舌を追いかけて絡めて、吸って、甘噛みして、上顎を撫でると鼻にかかった甘い声が漏れる。背中を撫でて腰を引き寄せるとナマエちゃんから首に腕を回してくるのがかわいい、嬉しい。思わずこの細い身体を掻き抱こうとして、頭の片隅にわずかに残った理性がこのままでは止まれなくなるぞと警告を出した。渋々唇を離すと赤い顔のままぐったりとした彼女が胸元にもたれかかってきた。確かに最近船の上でもここまでイチャイチャできていないからなあ。抱きとめて額をこつんと当てる。鼻先が触れ合うほどの至近距離で再度見つめあって、「2年、何があるんだろうな。楽しみだ」「私も」2年。2年か。少し先の未来のおれの外見はわかったが、ああなるまでに一味の間にもきっとたくさんの冒険があったに違いない。それを今ここで聞くような野暮な事はしないが、その時間と仲間たちと、魅力的に仕上がっているらしい2年後のナマエちゃんの姿に思いを馳せる。仲間も増えたりしているのだろうか、きっと戦いの方が多い航海だろうというのはなんとなく想像がつく。それでも全部楽しみだと思えるのは、最高の仲間と愛しい彼女のお陰だろうな。小さく笑いあって、ぎゅっと抱きあってから名残惜しくも身体を離した。

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