作文 | ナノ

「気が付いた?」

 今日の17時締切のレポート。もう少しで終わるはずが終わる気配が見えない。なぜだ?それはぎりぎりまで手が付かなかったからだ。それでも出席は取らなくてはと1限目の講義に出席してその後は食堂で必死にレポートにかじりついていた。時計も外も見るのを忘れて必死にノートパソコンと向き合って、提出して……「終わったぁ…」大きなため息とともにブルーライトカット眼鏡を外して、すっかりぬるくなった水を一気に飲み干した。するとどうだ、目の前の席には頬杖をついてこちらを見つめる郁弥がいた。さっぱり気が付かなかった私は未だ持ったままだった眼鏡を落としたのだった。

「眼鏡、落ちたよ」
「あ、うん…じゃなくて郁弥、いつから…」
「少し前から。声かけたのに気が付かないんだもん。けどすごく真剣だったから、邪魔しちゃ悪いかなって」

 必死な姿を見られていたのかと思うと恥ずかしくて仕方ない。
優しい眼差しで私を見る視線に耐えられなくて視線を外すと、頭に何か乗る感覚。これは、手のひらだ。大好きな、大きくて骨張った、綺麗な郁弥の手のひら。

「どうせ提出物とかでしょ」
「うう…仰る通りです」
「でも、ちゃんと終えたんだよね?…頑張ったね、偉いよ」
「え」

 優しく髪を撫でる手が嬉しいのに戸惑ってしまう。だってここ食堂だよ、帰国子女ってそういうところあるのかな。されるがままになって俯いていたら手のひらが頬を滑って私の手を取る。

「ほら、片づけて。少し前に君の好きそうなお店見つけたから、行ってみる?」
「……探してくれたの?」
「ぐ、偶然だから!この前の遠征試合の時に、行く途中で見かけて…」
「うんうん、偶然目に留めてくれたんだね、嬉しいな。40秒で片づけるね!」
「はいはい」

 頑張ってよかった。荷物をまとめる私をよそに元々荷物の少ない郁弥がその間に紙コップを捨ててくれる。今回の場合はギリギリだった私が悪いけれど、こんなご褒美があるなら頑張れちゃうな。我ながら現金だなあと思いながら郁弥を見れば「ん」と手を差し出してくれる。手を取ると目を細めて優しく微笑んでくれて、胸のあたりがふんわりと暖かくなる。これからはもっと、できる範囲で頑張ろう。
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