作文 | ナノ

「柳先輩!せんぱぁい!!はや、はやくきてくださいよぉ!」

慌ただしく生徒会室に涙目の赤也が飛び込んできたものだから、生徒会室の空気が凍り付く。そんな中でも気にせず赤也はわめきつづけているのだからよっぽどパニックなのだろう。
「柳くん懐かれてるのはわかるけど……」
「すいません」
「そうじゃなくて!真田副部長じゃ対処できなくて!幸村部長とみょうじ先輩が喧嘩してて!部室が火の海でぇ!」
「……喧嘩?」
「みょうじ先輩が幸村部長の胸倉掴んでて「すぐに行こう」

わめく赤也を遮って立ち上がる。
ちらりと顧問の先生に目線を遣ると「あ、ああ行ってやりなさい」と頭を抱えていた。申し訳ない。手早く荷物をまとめて赤也とともに部室へ駆け込むと言葉通りにみょうじが精市の胸倉を掴んで涙目で睨みつけている。対する精市は無表情でみょうじから目をそらさずにいる、が多分あれは無になって耐えようとしているところだろう。しかし事情を知らない赤也が見れば驚いても無理はない。一発触発の空気の中固まる弦一郎にはこれを窘める事はきっと荷が重いだろうから。

「みょうじ、胸倉を掴むな。精市も応戦するな、冷静になれ」
「だって柳!幸村が!あ、ああんなこと言ったくくせにまだわけわかんない…いやがらせするんだもん…」
「嫌がらせ?」
「っああもう!だから!そんな可愛い顔気軽にしないでってば!」

しん、とこの世から音という音が消えたようだった。部室にいる全員が停止している。それなりの付き合いの俺ですら初めて見る表情で声を荒げた精市はまたすっと無表情に戻り、(器用だ)なおも胸倉を掴むみょうじの手をそっと外していった。
「そもそも嫌がらせじゃないし。こんなに顔近づけてたらキスしちゃうだろ。昨日も言ったけど可愛くてしかたないんだからやめてよそういうの」
「!?!?」
「え、柳先輩なんすかあれ」
「どういうことだ蓮二、説明しろ」
「……見た通りだ」
「何にもわからん」
「……わからない方が、いいこともある」
友人が楽しいなら何よりだ。
俺は触らぬ精市にたたりなしのほうを選ぶことにした。

▲▽

「おはよう」
「……おはよう」
「なんで朝から機嫌がわるいの?」
「別に悪くはないよ。ただ可愛いからむかつくなって」
「うう……それを機嫌が悪いと言うんじゃないかな」
「照れてる?かわいい」
「だからそれやめてよこわい!嬉々としてデータ取ってないで助けて柳」
「テニス関連ではなく恋愛面で吹っ切れた精市はこうなるのか。興味深いな」
「柳」
「いいだろ別に。今まではそれ全部顔にも声にも出さないようにほっぺの内側噛んで耐えてたんだよ」
「え、もしかしてたまにスン…て真顔になってたのってそれ?」
「そう」
「あれ何か怒ってるんだと思ってた……私の馬鹿さ加減にあきれたりとかそういうのだと……」
「馬鹿だなぁと思うこともあったけどそれも含めて可愛いなっておもってたよ」
「こわ、デレデレじゃん」
「体育のときに友達に髪結んでもらってるところとかも世話焼かれてて可愛いな、俺もやりたいなっておもって見てたよ」
「ここぞとばかりにカミングアウトしてくるじゃん……」
「そうか。ならば精市これはどうだ?」
「え?」
「うわっ!」

水を得た魚のようにウキウキとずっとノートに何かを書き込みながら会話をしていた柳が突然背中を押すものだから、つんのめって幸村に正面からぶつかってしまった。根は普通の感性があるから「あぶない!」と咄嗟に支えてくれたけれど、これって支えるというよりかは抱き留め‥…?抱きしめて……?いるんだよなぁ……

「あ、ありがと、もういいから離し…力強っ」
「……」
「はな、はなして!力強いなもう!もういいってば!」
背中と腰に添えられえた手は弱まるどころかぎゅうぎゅう抱きしめてくる。ほんと見た目からは想像もできないくらいに力が強い!抜け出せない!
「柳写真撮るな!」
「蓮二後で送って」
「送るな!はなせ!骨折れる」
「……」
「幸村なんかいってよぉ…みんなの視線が痛いよ…あと普通に苦しいよ……」
「…………わかったよ…………」
「人間てここまで不満そうな声出せるんだ」
「精市、どうだ感想は」
「最高。あと5時間くらい抱きしめていたい。膝に乗せたい」
「ヤダ無理引く」
「ハハハすごいな、人間はここまで変わるのか」
「このデータマン鬼?」
「で、どうだった?どきどきした?」
「死ぬかと思った」
「まだだめかあ……」
「精市、そろそろ予鈴が鳴る。戻ろう」
「あーあ、あっという間だったな。じゃあまた後でね」
「もうマネ辞めよかな」
「え?地の果てまで追いかけて欲しい?いいよ、追われるのがタイプなんだね」
「エキサイト翻訳とか使った?」

予鈴が鳴ってようやく自分のクラスに戻っていったけど気が気でない。なんかめちゃくちゃ良い匂いがしたし、一部始終を見ていたみんなからは質問攻めにあった。青学に転校したい。
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