作文 | ナノ

「好きです」

目の前であの幸村精市が見事な90度のお辞儀を披露している。あ、う、と小さな息が漏れるだけでうまくしゃべれないでいると、すっと顔をあげた幸村がどこかバツが悪そうな顔で「喋ってもいいかな」と聞いてくる。うん、と何とか返事をすると、小さく深呼吸をしてぽつぽつと話し始めた。

「嫌味みたいに聴こえるかもしれないんだけど、俺から女の子を好きになったことってなくて。好きな相手に振り向いてもらうためには何をしたらいいのかわからなかったんだ。もちろん、こんなのはみょうじからしたらいいわけにしか聞こえないだろうけど……とにかく傍に居て欲しくて、マネになってもらった。なんでもいいから話がしたくて、俺のことを見て欲しくて、その、ちょっかいをかけたり、とか……蓮二にも「小学生のすることだ」って言われたし、反省してる。だからまず、しょうもない意地悪というか…そういう愚行について謝りたいんだ」
「しょうもない愚行だって自覚はあるんだね」
「……返す言葉もないよ」
「なんで私にばっかり小さい意地悪してくるんだろう、私の事が嫌いなんだろうなぁって思ってたよ」
「ごめん」
「うーん……まあ、いいです。普通にしてくれたらそれでいいよ」
「ありがとう。本当に……今まですまなかった」
「わかった、わかったよ、大丈夫」
「うん、ありがとう。それともう1つ、」
「うん」
「不二の事が好きなの?」
「……」
「付き合いたいと思ってる?みょうじのなかでの、どの「好き」が不二に割り当てられるの?」
「まだ、わかんないよ。だけどいいなあ、って思ってるし、かっこいいなって思ってるのも本当。これは嘘じゃないよ」
「なるほどね。わかった。……なら、奪いにいくから。俺のほうが不二より先に君の事すきになったんだよ。俺、がんばるね」
「ま、待っ 何?何の話してるの?」
「君は不二のことをすきかもしれなくてもいいよ。俺は俺で君にすきになってもらえるように攻めていこうと今決めた所だからさ」
「今決めた事だから!?え!?」
「不二は良いやつだし、俺もすきだよ、友人としてはね。でもこうなったら話は別。君が俺のことを選ぶように頑張るから」
「ちょ、ちょっと頭が追い付かないよ、だって私は、幸村が私の事を嫌ってなかったってだけで充分なの。と、友達のままで私は構わないの」
「俺は嫌だよ、友達のままなんて」

ぐっと距離を詰めて両手をあやとりをとるみたいにすくわれ、指が絡まる。「ゆ、ゆきむらぁ……」だれか助けて、距離が近すぎる、むり。情けない声を上げるとぐっと眉を寄せた。
「もう……そんな可愛い表情気軽に見せないでくれる!?俺は紳士的にやっていくつもりなんだよ!」
「はぁ!?知らないよ!」
「こうして改めたらやっぱりかわいいんだよもう…ほんと辞めてくれる?そういうの」
「理不尽すぎ」
「一度声に出したら言うのも平気になっちゃった。可愛いと思ったら遠慮なく言うようにするね」
「言わなくていいよ……」
やっぱり神の子の考えることはわからない。わからないけれど、ほんのり頬を染めて私を見る目は嘘じゃないと思う。そんな目で見ないで、もしも万が一、億が一、好きになったらどうしてくれるんだ。絡まった指を剥がそうとすると余計力を入れられた。骨も折れそうだし心臓が爆発しそう。明日から私、どうしたらいいんだろう。
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