作文 | ナノ

珍しく精市と二人で帰ることになった。普段であれば弦一郎もいるのだが、103%の確率で話題にしたいだろう事は、彼にはあまり適していな内容だからだろう。彼は何も悪くないが、正直俺でもそうするだろうから。

「もうだめだ、終わったよ蓮二……みょうじのあんな、あんな困惑と怯えとが混ざった表情初めて見たよ」
「奇遇だな、俺もだよ」
「もうだめだもうふられた。穴があったら入りたいよ」
「俺にも正直、どう転ぶかは予測が立てづらいな」
「もうきっと今までみたいに可愛く笑ってくれることはなくなるんだ、何ならこの先気まずくてマネージャーやめちゃうかもしれないし、そうしたら青学行ったりとかもするかもしれない、どうしよう……」
「落ち着け、飛躍しすぎだ。それに青学へ転校などとは現実的ではない、その確率は極めて低いだろう」
「……この前、青学がウチに練習試合に来ただろ。昼休憩のときにさ、不二とボウヤに会ったんだ。そのまま意気投合して連絡先交換とかしてて……今度植物園に行こうとか、みょうじはかわいいねとか、俺が言いたい事全部不二は簡単に声に出せちゃうんだ。羨ましいよ……しかもみょうじも照れて「へへ、照れちゃうよ〜」とか笑っててさ、そんな表情向けられたこと、ないんだよ、俺……」
「!精市、それだ、それかもしれん」
「なに?」
「いっそのこと面と向かって褒めたらどうだ。好きだ可愛いと言われて不快な気持ちになる女性は少ないだろう。そしてまず精市の場合は本気で褒めているのだと、冗談で好意を口にしているわけではないことを理解してもらうのが先決ではないのか?」
「ふふ……素直にね……言えたら苦労しないんだよ、蓮二」
「そうだな。だが今こそ勇気を出すときではないのか?みょうじは精市に邪険にされてもめげずに声をかけていただろう」
「!……うん、うん……そうだね、それもそうだ。ちゃんと言葉にしないと伝わらないよね」
「その意気だ。まずは今までの愚行を謝るところからはじめるといい」
「そうするよ。蓮二、聞いてくれてありがとう。頑張ってみる」
「応援している」

ああそうだ、俺の知る精市は反省し対策を考えたらきちんと有言実行できる男だ。だからこそ信頼されている、そんな人間なのだ。

だというのに。
それがどうしたことだ。

「そんな可愛い顔気軽に見せないでくれる!?」

どうしてこんなことになったんだ。精市の心からの叫びに驚き、目を丸くして動きを止める部員たちの中でいち早く石化が解けた俺は小さくため息をついた。
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