作文 | ナノ


「精市、いいのか?」
「いいのか、だって?蓮二。おかしなこと言うね。いいわけがないだろう?」
「……すまない、今のは俺の発言が不用意だった」
「ん、いいよ別に。誰も悪くないしね」
「……まあ、そうだろうな」
「何?蓮二は俺がもっと機嫌が悪いとでも思ってた?」
「よくわかるな」
「正直なところ、機嫌は悪いよね。ものすっごく!だけどこれは自業自得でもあるわけだ。みょうじが好みの人と仲良くなりたいと思うのも、不二が趣味の合う子と仲良くなりたいのも、邪魔する権利なんて誰にもないよ。だって二人は悪い事をしているわけじゃないし、俺に割り込む権利もないしそんな関係でもないからね。悔しいけどそこはちゃんと理解できているから安心してよ」
「そう、だな」
「だけどひとつ、聞きたい事があってね」
「みょうじにか?俺にか?」
「蓮二に」
「何だ」
「明日から俺がみょうじに優しくしてさ、好きだって言うようになったら、俺のことを好きになってくれる確率ってどのくらいだろう」
「これはまた、驚いたな。素直に言う気になったのか?精市が?」
「今のところ、みょうじは俺のこと好きじゃないだろう。ていうかこの前聞いちゃったしね、直に」
「まさか」
「蓮二と赤也と部室で俺のことを話題にしていただろ?」
「聞いていたのか」
「偶然聞こえちゃったんだけど。結構へこんだよ」
「……すまない」
「なんで蓮二が謝るの?気にしなくていいよ」


「幸村のことはね、信用はしてるよ。部長として、人をまとめる能力とか、人望とか、そういう点においては確かだし、100%信じていいと思うし、実際それがあるからこそ今こうして成り立ってるわけでしょ。神の子とかいうあだ名に伴う実力だし、そういう点は本当にすごいと思ってる」
「なるほどな。人間的には尊敬しているということか」
「まあそんな感じかなあ」
「じゃあじゃあ!恋愛的にはどうっすか?正直部長はしぬほど競争率たけーすけど、先輩なら他の女子より1歩先くらいは進んでるトコにいるんじゃないスか?」
「いやそれはないよね」
「即答!?」
「赤也は何を見てたの…幸村は明らかに私の事嫌いじゃん。いつも私にだけ意地悪言うし暴言吐くし、他の女の子にはこれ見よがしに優しくしたりとかさ。恋愛的に好きじゃなくても「お前に優しくする価値はない」って言われてるみたいで落ち込むし、何より私は好きな人には優しくしたいしされたいタイプだもん」
「(部長って先輩のことになると小学生みたいになるなと思ってはいたけどここまで失敗してたとはおもってなかったっすよ)」
「(俺も内心とても驚いている)」
「悪口ってわけじゃないけどさ。でも面と向かって言えるとかというとさすがにね…1言ったら1000返ってくるし。せいぜい備品の相談とか事務連絡だけでいいよ…‥まあ私はせめて友達くらいにはなりたかったんだけどね」
「(これまずいやつじゃないすか?)」
「(そうだな)」
「じゃあオレ立候補しちゃおっかな〜!オレもいま彼女いないんで」
「ごめん赤也はタイプじゃないわ」
「クッソー!!」


「しかしあれを聞いていたのなら何故今日」
「……だめなんだよ」
「?すまない、前後の文脈がわからなかった」
「あれを聞いたからさ、俺も反省したんだよ。好きな子に好いてもらうどころか嫌われてると思われてるんだよ?スタートがすでにマイナスなんだよ…せめて気持ち悪がられない程度に優しくして、少しずつ好きになってもらえたらって思ってたんだけどね。本人を前にするとダメなんだよ…つい…」
「(小学生じゃないか)」
「そのうえ目の前で不二くん好みのタイプだとかかっこいいだとか聞かされる身にもなってよ…正直ちょっと泣くかとおもった」
「あ、ああ……」
「不二は確かにいいやつだよ。少し変わったところもあるけどテニスだってうまいしね、いいやつだけど…3年間の片思いが一瞬で目の前で攫われることに耐えられないんだよ」
「……そうか、そうだな。ところで、精市の声はよく通るな。耳心地もよいと俺は好ましく思っている」
「え、何急に?褒めても何も出ないよ?」
「ああ、よく通る声だから、今、後ろにいるやつにもよく聞こえたんじゃないかと思ってな」
「……え」
「いや、ごめん、立ち聞きとかするつもりはなくて、でも足がすくんで動けなくなっちゃった、ほんとごめん、私」
「今の、聞いてた?」
「…………はい」
「柳!!」
「蓮二!!」
「分かったから俺を挟むな」
「……もう私幸村がわかんないよ」
「その、ごめん……今更謝ってもどうにもならないけど」
「やるべき事はちゃんとやっておくから、今日は少し早めに帰るね。ごめん、気持ちの整理をしたいの、いいよね?部長」
「……分かった」
「(これは、どうしたものか)」
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