作文 | ナノ

これのちょっとした後日談


「ん…あれ、起きてたの」

 時刻は12時過ぎ、水を飲んで歯を磨き洗顔を終えてベッドに戻り、スマホをいじったりすやすや眠る郁弥の頬を突いてみたり寝顔を写真に収めたりしても一向に起きない。好きだなぁ、と思いながら時間が流れていく。そんな矢先、長い睫毛がふるりとふるりと震えて、緋色の瞳が露わになる。眩しそうにしながら私の髪を鋤く。

「……?どうかした?」
こえ、こんなふうになっちゃったからさあ
「…!!!」

 そう。散々喘いだ私の喉は朝起きたら掠れてしまい、水を一杯飲んだところで治らない。まあ別に今日は休みだし支障はないのだけれど。

「ちょっと…なにそれ、大丈夫なの?痛い?」
へいきだよ
「ごめん、ほんとに無茶させた…背中とか腰とかも痛いよね?水飲む?持ってくる」

 サッと顔を青くした郁弥が矢継ぎ早に聴いてくる。いやほんとに大丈夫だからと返事をしたいのに下着だけ履いた郁弥がバタバタとキッチンに向かう。でも、まあいっかあ。大切にされてる、と思っていいのかな。少し胸のあたりが暖かい。
スマホのメール作成画面に文字を打つ。声が出ないなら文字で伝えよう。ぽちぽち文字を打っているとどたばたと慌ただしい様子で戻ってきた。

「これ、水!飲み込むのも辛いとかある?一応喉の薬も持ってきた、これ龍角散のど飴」

 お盆に色々と持って来てくれたみたいだ。よほど慌てていたのか冷えピタやハムと言ったさっぱり関係ないものまであって、つい笑ってしまう。打ち終えていた画面を見せたら今度は顔を真っ赤にした。今日は喜怒哀楽が激しくて可愛いな。

<ほんとに平気、声が枯れただけだからすぐに戻るよ。気持ちよかったから、いいの。郁弥だから気持ちよかったし私は気にしてないよ>

 私のスマホの画面を見た郁弥がお盆ごとサイドテーブルに置いて思い切り私を抱きしめた。しばらくぎゅっと抱きしめて、ゆっくり身体を離すと、おでこがこつんと当てられる。

「本当?痛くない?それなら、……いいんだけど。何か僕にできることがあれば言って。それと、ごめん。ありがとう。僕………君の事、好き、だから…その、気持ちが、暴走したっていうか…」

 だんだんと合わなくなる目線と、徐々に小さくなる声。好きだ。声が出ないながらに、滅多にない彼の気持ちを直にぶつけられて恥ずかしくて死にそうになる。自分からちゅっと軽いキスをして思い切り抱き付いたら抱き返して頭を撫でてくれる。
スマホを床に放り投げて、かすれた声で精一杯を伝えた。

「ありがと、大丈夫だから、大好きだよ」

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