作文 | ナノ

※社会人

「これはどう?」
「だめ。かわいすぎる」
「ならこれは」
「うーん……だめ。かわいい」
「話にならないんだけど」

通勤用の、オフィスカジュアルはまあそれなりにまともに見られたらそれでいいか。そんなスタンスで雑に生きているので、GUだの駅ビルに寄った時によさげなものを見つけたら購入するというようなスタイルだ。もちろんデートだったり、ちゃんとした時に着たい服なんかはよく吟味したうえで買う。今日は冬の適当な通勤服を探そうかな、と駅ビルをうろついている。隣には彼氏も一緒に。「通勤用の服を見たいんだけど」と言うと思いのほか乗ってくれた彼は「いいね。一緒に選びたいな」と言ってくれた。女性の買い物に意欲的なのも珍しいなと思うけれど、彼は正直大変私に甘い。もっというなら少し愛情が重たいくらい。不思議な感性を持ち合わせているけれど優しくて大好きな人だ。それがどうした、さっきから無難に使いまわしのききそうな服を取ってどうかなと聞いても「だめ、かわいいからだめ」とダメ出しばかり食らっている。正直こんなことを言われるのは初めてで、照れと困惑がすごい。彼は、不二周助は今世間を騒がせているイケメン写真家だ。そんな人に人前で「かわいいからだめ」などと。気が狂いそうである。

「これじゃあ一着も買えないよ」
「どれもかわいいんだよ。同じオフィスで働いてる人達も気が気でないんじゃないかな」
「そんなわけないでしょ、仕事だよ」

こんな会話をすることになるなんて。なんだこのバカップル、そんな雰囲気が勝っていて大多数はイケメン写真家の不二周助だと気が付いていない、たぶん。それはそれで好都合ではあるのだが。

「僕も普通に就職したらよかったかなあ」「それもありだったよね。すごい仕事できそうだし」
「そんなことないと思うけど。適材適所ってあるし…僕はやっぱり写真がいいかな」

そっか、と答えて目に付いたスカートを手に取る。値段も手頃で使い回しがききそうだ。これにさっき見たトップスと、アウターは家にあるやつでも合わせられるな……

「同僚のキミとオフィスで見せつけるのもありだよね」
「よかった業種が違って」

もう周助の意見を取り入れることはやめた。さっきの売り場に戻って早いとこ会計しちゃおう。手早く腕に選んだ服を掛けて、「じゃあ会計してくるから」と背を向けると「待って」と手首を掴まれる。割と力が強い。

「帰ったらそれ着てみせて。首から社員証もかけて」
「なんで家の中で社畜のコスプレしなきゃならないの?」
「そうしたら被写体になるわけだからその服は僕が買う。必要経費だから」
「なんで」
「それとキミならさっきの店のブラウスも似合うよね。ちょっと見てた薄いピンクのスカート、可愛かったし。あれも経費で落とそうか」
「ダメじゃない?私用すぎるし私モデルになるなんて言ってないよ」
「モデルにするんだよ。僕のための写真を撮ろう」
「話聞いてた?」

こうなった周助は止められない。諦めて嬉々として会計し、こっちだよと手を引く彼に着いていく。なんだかとても嬉しそうにしている周助はかっこいいのにどこか可愛らしいものだから、まあいいかなんて思ってしまったりして。指を絡めて手を繋ぐとより嬉しそうに笑って額に軽くキスをした。
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