作文 | ナノ

元号が変わり、世の中の流れも変わってきた。
弊社も在宅勤務というものに取り組んでみようということになり、試験的にグループをおくんで順番にまわしていくことになった。そして来週からは私が振り分けられたグループが在宅の番だ。あの満員電車に乗らないで済むし、その分少し普段よりも長く寝ていられる。そう思えば悪くないかもしれない。もう面倒だし食料も適当に買い込んで、なるべく外に出ない1週間にしようじゃあないか。普段よりも軽い足取りで帰路に着く。そうだ、帰りにスーパーに寄っていろいろ買っていこう。ついでに明日は土曜日だしお酒も買っちゃおう。少し荷物は重いかもしれないけれどこの程度なんてことない。これだから金曜日の夜は好きだな。最寄り駅について、スーパーへ向かう。あれやこれやとかごに放り込んで、ふと時計に目をやれば20時近い。今日の金曜ロードショーなんだっけな。そんなのんきなことを考えつつ、買ったものをエコバッグに詰めて店を後にした。駅から家まではそう遠くない。サブスクで流している音楽ももっと気分の上がるものにしようかとカバンに手をやると、社用携帯のあたりから着信のバイブのようなものが聞こえるではないか。いやだなあ……間違えて発信しただけだよね、きっと。そうであってくれ、頼むから―…取り出した画面に表示された名前を見て露骨に嫌な表情をしてしまった。私は家に帰るんだ。なおも鳴り続ける画面をタップして応答する。

「…………もしもし」
「業務時間外にごめんなさぁい!緊急事態で!」

半分、いや8割泣いている後輩の姿がありありと目に浮かぶ。今あの子が持っている案件は確か……信号がかわり、状況を聞きながら自宅に向けて歩を進める。電話の向こうから聞こえる状況の確認には、まさに今カバンに入っている在宅用貸与パソコンを開いて内容を確認する必要があるものだった。「わかった、それと、あとは?」「ええと、あの、」「落ち着いて」小走りで道を進む。マンションのエントランスを通り、自宅の前でカバンをあさり鍵を差す。「わかった。私も今家についたから、すぐパソコン付けるね。もういっそこのまま通話つなげておこうか。ちょっと待って」ガチャリと、朝家を出る時に締めた、いつも通りの自宅の扉。鍵を開けて戸を引くと、強い風が吹いて、

「誰だ、お前」

眼前に突きつけられる切っ先を筆頭に、見知らぬ風貌、そして武器、敵意。耳に当てたままの携帯からは「せんぱーい!?」と後輩の声がするけれど、その声に返事をしてあげることができなかった。「ま、まちがえましたー」後ろに下がりドアを閉める。なんだ、今の?緑髪の、怖そうな男の人が、私に、刀を。え、ていうかそれなりに沢山人が、いた、ような。そんなはずはないのだ、だって私は一人暮らしだ。一度両手で頬を叩き、再度「自室の」ドアを開く。

「!テメェ、さっきの!」
「まちがえました!」

バンッと大きな音を立ててドアが再び閉められる。そういえば今のドア、木でできてた?うちのドアは木製ではないのに、なぜ。しかも今度はなんか骸骨も見えた気がする。なんなら鼻の長い…あれは…人(間にカテゴリしていいの?)もいた気さえする。そんなことある?「ごめん、ちょっとかけ直すね」まだ何か声が聞こえているが、申し訳ないけれど今はそれどころじゃない。だって家が消えてしまった。同じ階の他の部屋はまだふつうにあるのに。私の帰る家はここなのに。夢なら早くさめて、お願い!意を決して再びドアを引くと、ものすごい力で思い切り引っ張られた。人の手のひらのような感触はあるけれど、断定できない。だってもしも人の腕だとしたら、長さがおかしいことになってしまう。

「ご、ごめんなさいごめんなさい!ここは私の家なんです殺さないで!」
「何言ってんだ、サニーはお前のモンじゃなくておれたちの家で、家族だぞ?」
「……さにー……?」

ずいっと吸い込まれそうな瞳に覗き込まれて思わず荷物を全て落としてしまった。「な、なん、」だってこの人、腕が伸びてる、私の体にまきついている。ひぃ、と喉の奥から声が漏れて、さあっと血の気が引くのがわかる。ころさないでと いったけれど、やっぱり殺してくれこんなことなら!

「お前、名前は?おれはルフィ!海賊王になる男だ!」
「………………はい?」
海賊王、とは?

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