作文 | ナノ

※麦わらストアとかで売ってるあの猫のぬいぐるみ

 ナミ、ロビン、チョッパー!まず真っ先に思い浮かんだのは博識な3人だった。とにかく何とかして欲しい、どうしたらいいのかわからない。藁にも縋る思いでサニー号の中を駆け回る。普段この時間ってみんな何してるんだっけ!?咄嗟の判断もできないくらい慌てていた私は進路を変更して頭の中に浮かんだ人のもとへと走った。「サンジくんかナミかロビンかチョッパー!いる!?」バンッ!と慌ただしくダイニングのドアをあけると三者三様の返事を返してくれた。「どうしたんだいそんなに慌てて……そんなにおれに会いたかったァ〜!?」「なぁに?騒がしいわねぇ…」「何かあったのかしら」チョッパーはいなかったが残りの探していた3人は幸運にもまとまっていた。そうだこのくらいの時間はおいしい紅茶や珈琲をふるまってくれたりしてる頃だ…いやそうではなく。

「た、たすけてナミ、ロビンどうしよう、サンジくんいつ生んだの?」
「何の話よ?順を追って説明して頂戴」
「これ!さっき部屋で!私の服の上で寝てたの!!」

 なんだか見覚えのある色の毛並みに、見覚えのあるひげ?に、見覚えのあるデザインのスーツ?の、猫……に近い動物…生物…?が幸せそうに私の腕の中ですやすや眠っている。「これは……」「ちょっと何よこれ!?生き物!?」「サンジにそっくりね」言ったらアウトのような気がして誰も言わなかった決定的な一言を、ロビンはさらりと言ってのけた。

「なんだこいつ……なまえちゃんの胸で寝やがって……」
「そうじゃないでしょ!だいたいどうして?最低でもここ3日は海の上なのよ?どこから入ってきたのかしら?」
「でもかわいいわ」
「そう、それなんだよロビン、なんとね、かわいいの」

 つやつやの毛並みを撫でるともにゃもにゃと擦り寄ってくる姿がかわいい。つぶさない程度にぎゅっと抱きしめると目をハートにしてくっついてくる。耳も尻尾もあるし多分これは猫だ。サンジくん似の猫だ。「あ!テメッ……!」「だめだよサンジくん、相手は小動物…?だからね」「うぐ、でもよなまえちゃん」私の胸元の猫を威嚇する人間のほうを窘めたあたりで、何かを考えていたナミがぱん!と両手をうった。
「ここは新世界だもの、きっと私たちが知らないだけで色々なことが起きるのね。それがたまたま今回はサンジくんに似た猫だったってだけの話!残りのみんなにはお昼ご飯の時にでも紹介しましょう。あとチョッパーにも一応見せてみて……」
 てきぱきと状況を分析、飲み込んで指示を出すナミは流石だなと思った。そう、起きた事はしかたないのである。受け入れるしかないならそのうえで打開策を模索するまでだ。「私はチョッパーを呼んでくるわ」ナミがチョッパーを呼びにいってくれて、ダイニングには3人だけになる。
私とロビンに撫でまわされて幸せそうにぐでぐでに溶けている姿は、猫を模してはいてもサンジくんにしか見えなかった。
「人間のほうのサンジは?猫のあなたと触れ合わないの?」
「ロビンちゃん、こいつが仮におれだとしたら、おれに撫でられて喜ぶと思うかい?」
「あら、フフ。そうね。ごめんなさい」
「いや、いいんだロビンちゃん。……そんなことよりソイツ…いつまでなまえちゃんのとこにいるつもりだこのクソ猫…いい加減どきやがれ」
「私は別に構わないよ」
「…………」

 何か言いたそうにじっと私と猫を交互に見つめていたが、「クソ…なんでこんな……」と呟いてがっくりと項垂れていた。そうこうしているうちにお昼ご飯の時間になって、ナミが言ったようにみんなに紹介と説明をした。チョッパーも「こんな症例はみたことがないし、はじめて聞いたけど…サンジ自身も特に変わったところはないみたいだし、普通の猫だし、サンジに似て女のそばにいれば大人しいから放っておいていいんじゃないか?」とのことだった。そしてさすがはサンジくん似か、男性が撫でようとしたり近づこうものなら毛を逆立てて威嚇するし、ゾロに至っては唸り声まで上げていて(おもしろい)これはサンジくん以外にないなと見れば見るほど痛感した。
「男がおれにさわるな長っ鼻!だってさ」
「チクショー!そんなところまでサンジの再現するなよなァ!」でもフランキーの腕の上は嫌いじゃないようだった。
「ひんやりして気持ちいいんだってさ。金属だからかな〜」
「おォ……複雑だぜ」
「でもなまえの膝と胸が一番好きだってさ」
「てンめェ…」
「お!おれは通訳しただけだからなっ!?」
「かわい〜!一緒に寝よっか?」
「だ!めにきまってンだろエロ猫コラァ!お、女部屋で寝るだとォ……!?羨ま…恨めし…!」
「オウわかったよ人間のほう!猫用ベッドつくってやるからダイニングにでも寝かせとけ!」
「人間のほうもなにも!おれはひとりしかいねェよ!」

 チョッパーがすべて翻訳してくれるし、まだ次の島までは数日かかるしで、サニー号における新しい癒しとなったのだった。「……」ただ、そっくりな本人を除いては。一日中ゾロと人間のほうのサンジくんを除くみんなに構われて疲れたのか、早々に猫は私の膝で寝てしまって。ダイニングに即席でフランキーが作ってくれた猫用ベッドに寝かせると、みんなも自分の時間へと戻っていく。私も立ち上がって、お風呂へに入ろうかなあとドアへ向かう途中で人間のサンジくんに声を掛けられる。

「今から風呂?」
「そうだよ」
「上がったらおいで、デザートの試作品があるから」
「本当?ありがとう!」

 少し元気のないようにも見えたサンジくんはそれだけ言うと曖昧に微笑んで洗い物へと向き直った。私もお風呂を出て髪を乾かしたりスキンケアをしてからダイニングへ戻ると、カウンターでサンジくんがひとりでお酒を煽っていた。珍しい。そこそこ飲めるけれど特別に強いわけでもないからか、宴のときでも2杯くらいにセーブするのが彼なのに。私が戻った時すでにそばに置いてあるワインは3分の2ほど減っていた。

「……サンジくん?一人で飲んでたの?珍しいね」
「あァ……なまえちゃん付き合ってくれるかい」

 すっかり顔は赤くて瞼も眠たそう。へらへら笑いながら手招きをされて、近寄ったら思い切り抱きついてきた。力の加減もうまくできないのか最早少し痛いくらいだ。

「い〜〜〜い匂いだなァ……なまえちゃんの匂いは特別好きだ」「大丈夫?飲みすぎだよ、水飲もう?」水を持ってくるから、ね、一度離してと言っても「どこ行くの、おれもいく」とまるで会話が成り立たない。ここまで泥酔している姿は初めて見た。かといって彼の力に敵う訳がないから、結局カウンターから水道まで、背中にサンジくんをくっつけたまま移動するはめになった。ものすごく歩きずらいしものすごく熱い。肩に乗せられた顎ひげがくすぐったいけれど、とてもじゃないがこんな状態のサンジくんを放置するわけにはいかなかった。
コップ2つに水を注いで一緒にカウンターに戻る。椅子に座っても私の肩に頭を預けていてむにゃむにゃ何かを言っている。人間の言葉で話してくれ。
「サンジくーん大丈夫ですかー」
「なまえちゃんは人間のおれのことすき?」
「何を今更…大好きだよ」
「猫のほう、おれに似てるかもしれねぇけど似てるだけだから。おれじゃねえから」
「うんうん」
「猫とはきすしないだろ」
「……」
「え、もしかしてしたのか、あのくそねこ」
「鼻にね!?じゃれてただけだから!ね!?」
「ゆるさん……!!」
「サンジくん!相手は猫!」
「なまえちゃんはおれの恋人だからおれいがいときすしたらだめだ」
「もうしない!もうしないよ!」
「消毒しよう、ん、」
「ちょっ、と、サンジく」

 がしっとそれなりに強い力で両肩を掴んで向かい合うかたちになるといつもキスするときみたいに指で顎をすくって唇をかさねてくる。ううん、酒臭い。けど気持ちよさそうに夢中で私の唇を貪る彼を見ていたらだんだんとその気にされてしまって、背中に腕を回して支えるついでに抱き着くと、私を抱きしめる力がより強くなる。骨が軋んでいる気さえするけれど、普段の私を気遣う紳士な振舞からは考えられない態度にきゅんとして、されるがままになることを選んだ。どうにでもなれ。なるようになる。
一度顔を離して距離をつくったとき、視界の端に何かが飛び込んできた。……え、あれって。
「なまえちゃんはァ、猫の恋人じゃないんら、おれの女の子なんだから、もうあいつにかまわなくていい」
「そういうわけには……」
「どうせ構うなら、会話もできるおれのほうがいいだろ、料理も作るしあいつよりつよいし、ぜったいあいつよりおれの方がなまえちゃんのことすきだ、絶対おれのかちだ」
「何と戦ってるの?」
「知ってた?おれ実は嫉妬深いんだよ」
「うすうす感づいてはいたよ」

 ぐったりと体から力を抜いたサンジくんが寄りかかってくる。力の抜けた男の人なんて重くて支えるのが精いっぱいだ。肩を貸してソファになんとか連れて行くと私の膝を枕に、長い脚を投げ出してごろんと寝ころんだ。もう起きているのもいっぱいいっぱいなのは見ればわかる。限界が近いんだ。
「おれはあいつをみとめねぇ…似てるからこそ余計に…ゆるさん…」「わかったわかった」髪をさらさらと指で梳いてやると手のひらに擦り寄ってくる。顎の下をこしょこしょ爪で軽く擽ると「ふはは、くすぐってえ」と無邪気な笑い声をあげた。やっぱりそっくりだ、めちゃくちゃかわいい。普段かっこいい人の緩い姿ってずるい、ギャップ萌えってやつだ。かわいいけど、もう寝た方が良いだろう。ふたたび髪を撫でるのを再開し、少ししたら寝息を立てて眠ってしまった。「おやすみ」身体をかがめて膝の上で眠る彼の瞼に唇を落として私もここで寝ることにした。

▲▽

「……?いってェ…」

 目が覚めるとまず頭がずきりと痛んだ。確か昨夜は一人で酒を…飲んで……あれ、なんか枕が死ぬほど気持ちいい…?視線を上げて声を失った。なんでおれはなまえちゃんの膝枕で寝てるんだ、いやしかもここはダイニングのソファだぞ、つまり彼女は一晩ここで寝たのか!?毛布もかけずに!?いやおれの頭が乗っていたから動かないでいてくれたんだ、あああああ!一生の不覚!愛する女の子にこんな…!身体を冷やすようなことを!カウンターにはワインの瓶とグラス、水の注がれたコップがふたつ。
ま、まてまて。順番に思い出すんだ。なまえちゃんが風呂から戻ってきたら試作品を食べてもらって、あわよくばちょっといちゃいちゃしようと思って、酒飲みながら待ってて、それで……あああ、おれ、すげェダサい。おれは鯖以下だ……

「んん……」
「!なまえちゃん」
「あ、サンジくんおきた」
「本当におれは……!なんて申し訳ねェことを……!」
「あはは、気にしなくていいよ。サンジくんかわいかったから」「……は?」
「あ、それ聴いたんじゃないの?」

 指をさす先には音貝。なんだこれ、誰がいつ置いたんだこんなの。手に取って一度押すと録音を終えた音がした。最大どれくらい録音できるのかは知らないけどつまり今この瞬間まで録音されていたってことでは?

「……きみが?これを?」
「いいや?私じゃないよ。むしろそれがあるのサンジくんの介抱はじめてからだったから止められなかったんだよね。サンジくん離してくれなかったし」
「エ!!?」

 誰がそこに置いていつから録音されているのかわからないけど聞いてみたらわかるかも。ぼんやりとしか覚えていないからこそ、ちゃんと聞くのが怖い。いや、でも反省するには良い材料かもしれねェ。

「朝飯がおわったら、おれひとりできくから」
「そっか。わかった。もうそろそろ朝ごはんの用意するよね?私も足の痺れが落ち着いたら顔洗いに行くから、よかったら紅茶をいれてほしいな」
「なまえちゃん!本当に!申し訳ねェ……!」

 土下座に迫る勢いで抱きしめた。そうだよな!?一晩中この細くて柔らかな太ももにおれの頭が乗ってたんだ、痺れるよなァ!?なんだっけ、マリモがいってた…ハラキリ?するしか…ねえな…「おれ今日一日なまえちゃんの椅子になるから…」「え怖いならなくていいよ……それに気にもしなくていいよ、私は嬉しかったから」「なまえちゃん…」「サンジくんが二人いるみたいでお得感ある〜」「…うん?」いつの間にか起きてなまえちゃんの膝の上に丸まっていた猫がおれを見て得意げな声で鳴いた。な、な、コイツ……!まあまあ、とおれを窘めたなまえちゃんが「人でも猫でも私はサンジくんがすきだよ、安心して?」なんて嬉しいことを言っておれの頬にキスをした。猫は形容しがたい声で鳴いて、思わずおれは猫相手に得意げな顔をしてしまう。「ところで私、そろそろ足も平気だし身支度整えたりとかしたいかも。猫のサンジくんのこと預けていい?」「もちろんだよハニー」手を取ってすべすべとした手の甲にキスを落とすと猫はおれに向かって尻尾を逆立てて威嚇してくるが、ざまあみろ。キスするのも言葉を交わすのも、人間で恋人のおれの特権なんだよ。やれやれと緩く笑ったなまえちゃんが立ち上がるのを手伝って、キッチンから見送る。肩に自分とよく似た猫をひっかけたまま朝食の準備へと取り掛かった。

……そして、悲鳴を上げながら再度彼女に土下座をすることになるのは、さらに数時間後の話だ。
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