作文 | ナノ


「あ!歌仙!」

 そう大きな声で僕を呼んで、そのまま正面から飛びついてくる主を受け止めた。廊下を走るな、はしたないよと散々口を酸っぱくして言ってもこの主、返事だけはするくせに一向に治る気配がない。女性なのだから、多少健康的なのは良いことだとしてもあまりお転婆なのはどうかと僕は思うのだけれど。

「廊下は走らない」
「次から気を付けます」
「前回もそう言っていたね。……まあいいか。それで、要件は」
「特にないよ?見つけたから引っ付きたいなって思っただけだもの」
「…………そうか」

 居間の目の前でわざわざそんなことをするなんて。居間にいた刀剣たちの棘を孕んだ視線が突き刺さるってことを、知らないわけではないだろうに。でもそれでも、僕も彼女を「仕方のない主だね」なんて言いながら抱きしめ返すことも忘れない。どうだ、うらやましいだろう。僕は唯一彼女の手によって選び取られた初期刀なんだ。

「歌仙ってなんだかいい匂いがするよね。落ち着く。これが雅で風流ってことなのかな?よくわからないけど」
「ふふ、そうだね。君が関心を持ってくれて僕は嬉しいよ。主さえよければこれからいくらでも話そうじゃないか」
「……わあい、嬉しいな」
「そうかそうか、ならばお茶の用意もしなくてはね。お茶菓子は何がいい?」
「めっちゃすき」

 突き刺さる視線を背中で受け流して彼女の手を引く。悪いねえ。
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