作文 | ナノ

「さっすが歌仙。私の初期刀だよね」

 急に声を掛けられて驚いたのもあるが、あの全体的に雑で大雑把で雅に欠ける彼女が僕を初期刀だと覚えていたことに驚いたのと、ほんのわずかに胸のあたりが暖かくなったのだ。そうだ、僕は彼女の一番初めの刀。最初に自己紹介をした時は泣かれてしまい内心冷や汗ものだった(のちに驚きと喜びがない交ぜになってしまった、と語ってはいたが)。まだあの時は一期一振も、薬研藤四郎も、三日月宗近も鶴丸国永もいなかったのだ。この広い本丸に、僕と彼女の二人しかいなかった。今でこそ、どちらかと言えば遠征に行くことが多くはなったけれど、あの時の時間を、今ひどく冷めた瞳で僕を睨み付ける一期一振は。普段の穏やかな笑みを捨て去り無表情で僕を見る三日月宗近は。戦場でよく目にする挑戦的な含みのある笑みを向けてくる薬研藤四郎は。表情こそいつも通りに見せかけているが爪が白い肌に食い込んでいる鶴丸国永は。彼らは知らないのだ。今どのような関係を築いていたとしても、恋仲に成り得る者が今後彼らの中から現れたとしても、これから先どうあがいてもこの僕のいる「初期刀」というある種の特別な立ち位置には付けないのだ。

「そうやってまた、調子の良いことを言って。仕方がないね。僕以外はきみのような主のそれに合わせられないだろうし」

 わざと大げさな手振りも交えて、普段なら絶対にしないだろう髪を撫でるという行動も忘れずに。面白いくらい全身に視線という白刃を受けながら、そんなことにも露知らず「やったーこれだから歌仙だいすきなんだよね〜」なんて言いながら呑気に抱きついてくる主を抱き留めてやった。
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