作文 | ナノ

※Pじゃない

 わたしのクラスにはアイドルがいる。
先日のMステに出演していたのだからアイドルだろう。CDだって出ている。ライブを文化祭で行えばTV局の人が撮影に来る。
そんなアイドルの名前は伊瀬谷四季。他の学年の先輩たちとバンドを組んでいる。ボーカル。いつも明るく元気で歌が上手い。頭はそんなに良くないらしい。彼らのユニットを受け持つプロデューサーさんは女性だそうで、その人の話をよくしているのが聴こえる。わたしが彼について知っているのはそのくらい。

 わたしの隣の席にはアイドルがいる。
最近とても好調らしい。遅刻してきて昼過ぎに教室へ駈け込んで来たり、早退したり。丸一日学校へいる日のほうが珍しい気がする。明るい彼の周りには常に誰かしらがいる。わたしが彼と会話したのは席替えで隣になったときが最後だったとおもう。

「隣よろしくー!教科書忘れたら見してね」

多分、2か月くらい前だ。

■■■

 今日は朝のHR前に教室にいた。何か紙とスマホを見比べている。一応隣の席なので挨拶はするけれど。「おはよう、伊瀬谷」「おはよっす。なんか久しぶりな気がすんね」画面を隔てないで会話をした。少し緊張した。

「あっナツキっち!」

教室が少しざわめいた。綺麗な先輩、榊夏来さん。伊瀬谷と同じユニットだそうだ。綺麗でかっこいい、クールというか物静か。これはテレビの特集で得た知識。同じ学校にいるのにね。

「!マジっすか!プロデューサーちゃん迎えに来てくれるんすか!?」

榊先輩の声は小さくてよく聴こえないけれど伊瀬谷は今日この教室で見る限る最高潮のテンションだ。少なくとも、わたしとあいさつした時よりは、何十倍も。

「は〜!プロデューサーちゃんとナツキっちとスタジオまでドライブデート!メガ楽しみっすねっ!」

そんなにその人が好きなのか。

■■■

 結局放課後まで伊瀬谷は普通にすべての授業に出ていて、帰りのHRも普通に参加していた。ふつう、普通の高校生だ。アイドル伊瀬谷四季じゃない、普通の男子高校生だ。とくに 珍しがることなんてないんだ。
職員室への用事を済ませて荷物を取りに教室へ向かうとスマホを手に持ったまま微動だにしない伊瀬谷がいた。帰らないの?声を発しようとした瞬間、伊瀬谷の手の中のスマホが振動する。朝、榊先輩の話に喜んでいた時と同じくらいの笑顔で通話を始める。わたしのことは視界に入っていないようだった。

「もしもしプロデューサーちゃん!?ついた?駐車場?オッケーっす!いまからいくメガハイパーダッシュで行く!!早くプロデューサーちゃんに会いたいっすよ〜!今日の取材終わったらそのままお泊りとか行きたいなー?…………なんてっ!ナツキっちとすぐ行くからやさしーキスで出迎えてね!そんじゃ!」

 よく舌を噛まないなあ、とか、電話なのに手振り身振りが激しいなあ、とか、ていうか泊まりってキスって何、とか。椅子に掛けてあったブレザーを軽く畳んで掴んだ伊瀬谷が先ほどの宣言通り走って教室から出ていく。「そんじゃまたね!気を付けて帰るんすよ?女の子なんだから!バイバイシュー!」わたしが立っているのと反対のドアから出る寸前、急ブレーキをかけてわたしに挨拶を投げかけると廊下を走って行って、すぐにピンクのリュックは見えなくなった。次にこの教室で伊瀬谷を見るのはいつだろう。明日か、あさってか、何週間後か?わかったのはわたしが実は伊瀬谷の事を好きなんだということと、わかった瞬間失恋したということだけだった。

/同じクラスの女の子
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