作文 | ナノ

近年の日本の夏の風物詩の一つ、ゲリラ豪雨。あまり、いや、全然嬉しくないけれど、いつも八月の下旬ごろから秋にあけて猛威を振るっている気がする。台風が近いのもあってバフがものすごいなとも思うし、何より、強風で髪はごちゃごちゃになるし、足元だってずぶぬれだ。
 今日だって郁弥とふたり、午前はいい天気だったのに。午後になってからみるみるうちに曇天が空を覆い、窓の外もまるで夜のように真っ暗だ。きっとバケツをひっくり返したような土砂降りになるのももうじきだろう。

「郁弥!洗濯もの取り込むから手伝って!多分そろそろ雨降ってくるとおもう」
「わかった。うわ、外真っ暗だね」

ベランダ用のサンダルをつっかけて、ハンガーに手を伸ばしたと同時にぽつ、ぽつと降り始めた。普段なら小雨だね、程度で済むような雨でも、ぽつ、なんて可愛い量で済んだのは一瞬、すぐさま勢いを増し、轟音を立てて降り始めた。

「やっぱり降ってきたね……洗濯物は殆ど乾いててよかったよ」
「最近よく降るね、涼しくなるならいいけど」
「そうだねぇ……あ、一応エアコン除湿にしとこ、湿気が」

エアコンのリモコンを取りに行こうと一歩踏み出したところだった。
視界の端で空が一気に晴れ…………否、明るくなった。そう、稲光りで。光が駆け抜けて、一瞬遅れて大きな音が響きわたる。何かを思い切り破壊したような、耳をつんざくような、とても大きな音。近くに落ちたのかもしれない。「うわ、」轟音に少し驚いて小さく声が漏れた。……それと同時に。私の視界を何か黒いものが遮る。それにどこか暖かい。そう、これは郁弥だ。思い切りぎゅっと顔を胸元に押し付けられているから少し息が苦しい。郁弥、雷苦手なのかな?大丈夫?の意を込めて軽く背中をぽんぽんと叩くと、身体を少しばかり離して頭を抑え込んでいた手が私の頭を滑り、両耳を塞がれる。聴こえづらいよ、と言おうと口を開くとすかさず唇が重なる。何で!?怖くて不安になったの!?もう一度背を軽く叩いたら離してくれるかもと思うも、唇を割って侵入してくる舌に完全に意識を持っていかれて、みるみる身体から力が抜けていって、郁弥の服を緩く掴むだけに留まってしまった。だって、耳を塞がれていて、ダイレクトに脳に響くのだ。あらゆる、音が。舌が絡まって、歯列をなぞり、上顎を舐め。口内を蹂躙される音が、感覚が、いつも以上にはっきりと伝わってきて、恥ずかしいのと困惑と照れと快感で、もうどうしていいか分からない。口の端からどちらのものかも分からない唾液が溢れて、首を伝って胸元を濡らしている。郁弥、どうしちゃったの。雷に興奮する性癖だったっけ?必死に酸欠を訴えて、程なくしてようやく離された。肺活量のある郁弥はそんなでもないけれど、私はすっかりのぼせて息も絶え絶えだ。ずるずると床に座り込み、ぐったりと頭を郁弥の肩に預けて「急にどうしちゃったの?」と聞くときょとんとした顔をする。いやそれはこっちのする顔だよ?

「きみが雷、苦手なのかと思ったから」
「え?いや別に……大きな音にはびっくりしただけで平気だよ」
「…………気を、紛らわせてあげたら、楽になるかなって……」

思ったんだけど。ぶわ、と赤くなる顔を手で隠しながら。後になるにつれ小さな声でそう教えてくれた。ごめん、別に雷平気で。でもそんな郁弥の気遣いが嬉しかった。「ゲリラ豪雨のことも雷のこともなんかもう忘れちゃったよ、あんな事してもらったら」「も、もう言わなくていいから!」ふたりで洗濯物の上に倒れ込んで顔を見合わせていたら何だか楽しくなってしまってケラケラ笑いあった。そんなことをしているうちに、雷だけは落ち着いたようで、ひたすらに雨だけが降り続いていた。いいよ、今日は、今だけは雷もゲリラ豪雨も許しちゃおうかな。
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