作文 | ナノ

微ホラーです。苦手な方は注意


久しぶりに郁弥の部活が休みの週末、一緒に過ごすべく彼の家にお邪魔してのんびりとした時間を過ごしていた。一緒にいられるだけで幸せで、日頃蓄積されているとげとげしたものが心の内側からほろほろと解けていくようで。動画配信サイトで一緒に見ていた映画が見終えて、お互い同じタイミングで伸びをしてしまったりなんてして、顔を見合わせてふたり笑った。

「お腹空いたよね、何か作ろっか」
「冷蔵庫に焼きそばがある…けど具になるようなのあったっけ」
「う〜ん、見た感じこれならできない事もないけど。もやしもあるね」
「前に作ってくれたやつがいい、上に卵が乗ってるやつ」
「いいよ、そうしようか。でも卵ないよ?」
「なら、僕買ってくるよ。すぐそこにコンビニあるし」
「そう?じゃあお願い。準備しておくね」
「まかせて。5分もかからないから」

財布とスマホと鍵を手に持ってコンビニに向かった郁弥を見送って、テーブルの上に残っている先ほどまで使っていたお皿の上にマグカップを重ねて、あれもこれものっけちゃえと雑に積み重ねたら両手が塞がってしまった。己の計画性のなさを呪ったところだった。

ドンドンドン

「開けて」
「?鍵持ってかなかったのー?」
「そうなんだよ、あけて」
「ごめんいま両手塞がってて!」
「開けてくれないと僕は入れないんだよ」
「てか卵そんなにたくさん買ってきたのー!?」
「あけてよ、ねえ」

食器を落とさないように、ゆっくりと、しかし気持ちは急いで流しに食器を置いて、玄関に向かおうとしたら「ただいま」と何でもないようにビニール袋片手に郁弥が帰ってきた。

「あれ?鍵あったの?おかえり」
「ただいま。鍵は持って行ったよ」
「……そんなに大荷物じゃないよね」
「卵1パックだよ?そんなに重いものでもないし…僕が割っちゃうとでも思ったの?」
「違うよ!ううん…いや、いいんだけど…まあいっか」

それとも幻聴だったのか。おかしなこともあるものだが、気にしてもしょうがない。おなかすいたねー、なんて言いつつ調理に意識を向けた。

▲▽

お昼ごろから見始めたシリーズ物のドラマが思いのほか面白くて、ふたりしてのめり込んでしまった。物語も佳境に差し掛かって、静かな場面。私も郁弥も登場人物も、なにひとつ音も言葉も発していないときに部屋に響いたのは、ドアをたたく音だった。

ドンドンドン

突然の大きな音に驚いて大げさなくらい肩を震わせ悲鳴が漏れたら釣られて郁弥も驚いていた。「び、びっくりさせないでよ…」「こっちの台詞だよ」その合間にも尚、ドアを叩く音がする。

「兄貴かな、でも兄貴ならインターホン鳴らすと思うんだけど」
「Amazonとか頼んだ?」
「いや…頼んでない。僕が見てくるから待ってて」

郁弥が玄関に向かおうとした時だった。鳴りやまないドアを叩く音と、聴きたくない言葉がドアを隔てた向こうから聴こえてくる。

「あけて、僕だよ」
「開けてくれないと、入れないんだ」

ドンドンドン。

「開けてよ」
「ねぇ」
「鍵がないんだ」

「……なにこれ」

向こうから自分の声が聴こえてくる事態に、立ち止まってしまう郁弥。鳴りやまないドアを叩く音。私も郁弥も、声を出すことができなかった。

▲▽

「これが私の体験した怖い話…かな」
「それさ、郁弥とキミはこのあとどうしたの?」
「……ごめん貴澄」
「え?」
「いま私の話、きいてくれたから。次は貴澄のとこに行くかもしれない。どうしたかはきっとわかると思うよ。誰よりも鮮明にね」

ごめんね。椅子から立ち上がった彼女は、僕のまばたきと共に姿を消した。

<よくわからない話。>
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