二人で出かけた帰り道。外食も済ませてほろ酔いで郁弥と手を繋いで夜道を歩く。火照った体に夜風は心地良かった。線路沿いを雑談をしながら指先で爪に触れながらほにゃほにゃと笑う郁弥が可愛かった。
「…今日の月、は」
がたんがたん、と大きな音を立ててフェンスを隔てた線路で電車が通り過ぎる。途中で声も轟音にかき消されてしまった。立ち止まる郁弥につられて手を繋いだまま歩みを止める。
「ごめんよく聴こえなかった、何?」
「今夜の月は、晦の夜だ」
「……つきこもり?」
「月が出ているのに、雲に覆われている空のこと。雲の向こうでは変わらず明るいのに、あんな雲ひとつで遮られちゃうの、面白いよね」
私と手を繋いだまま、顔だけこちらに向けて話す郁弥の瞳は、凪いだ海のように静かで感情がまるで読み取れなかった。す、と冷静になるのがわかる。なんだか様子が、おかしいような
「こんな夜には、色々な話が聴きたいと思わない?」
それってどういう話を?聞かなくてはわからないのに金縛りにでもあったみたいに動けなくなった。郁弥の声に温度を感じないのは、はじめてのことだった。
雲が風で流れて、月が顔を出す。照らされる郁弥がの赤い瞳がほのかに揺らいだ。
/つきこもりの夜に