作文 | ナノ

私の彼氏の桐嶋郁弥は、もっと冷めている人なのかなあと思っていた時があった。
初めて会った時もなんだかクールな印象があって、少し怖そうだと思っていたけれど、話をしてみると意外と話しやすくて、可愛いところもあって、彼を好きになるのに時間はかからなかった。
そんな彼の可愛いと呼べるか首を傾げがちなところ。それはちょっと独占欲が強めなところだ。

私と特定の曜日だけ授業が被る人がいる。読んでいる週刊雑誌が同じで、今最もハマっている漫画が同じなので、顔を合わせるたびに感想を言い合うのだが。
一つ前の講義でこの教室を郁弥が使っていたらしく、忘れ物をとりに戻ってきた際にその現場に鉢合わせてしまったのだ。最初は何も気にせず「あっ郁弥だー」なんて言っていたのだが、私の隣に目を遣るとみるみるうちに眉間に皺が寄る。不機嫌オーラが目に見えるようだ。忘れ物を回収した郁弥がずかずかと大股でこちらに近づいてきて、わざと私と彼の間に割って入る。ぐっと大きな身体を屈めて、そしてあと数ミリでキスしてしまうのでは?と錯覚するほどの近距離で「随分たのしそうだね。あとで何の話か僕にも教えてよ」と両目を、しっかりと、目線を合わせて言うのだ。しかしそれだって、反対側にいる彼から見たらきっとキスしたように見えるだろう。満足げな表情で郁弥が去った後、彼に「あの…ごめん」と目を逸らしながら言われた。本当に申し訳ない。ちなみに彼は今でも普通に良い友人だ。

「さっき。何の話してたの?あれ誰」
「毎週月曜日だけ講義が被る友達……き、鬼滅の刃の話してた…」
「…………そう。まあいいけど」
「郁弥?」
「なまえの『彼氏』は僕だけだからね」

お昼に食堂で一緒にご飯を食べようと元々決まっていたので食堂に向かうと、いきなり上記の質問だし、隣にいた日和は何の話だと頭上にクエスチョンを浮かべている。無理もない。「あたりまえでしょ、郁弥以外にいないよ」と言うと目じりをほんのり赤くして「まあね」と言う。少し嬉しそうだ。ちょっと単純で可愛い。なんだ、いつもの痴話喧嘩かと察した日和が「ああ、」とだけ声にして再びお昼に何を食べようかということに思考を戻したみたいだ。本当にごめん。

「…………そういう郁弥も女の子と二人きりでおしゃべりしたりするくせに」

お昼時の騒がしい食堂、どうせ聞こえていないだろうと思って独り言を呟いた。すると何故かな。郁弥が机に突っ伏して額をぶつけた音が鈍く響いた。
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