作文 | ナノ

七瀬遙は水を愛し、水に愛された人間だ。
だからなのか、彼は平熱が低くて。手に触れた時、抱きしめられた時、柔く、緩く、程よい体温がまるで水の膜みたいに遙ごと私を包んでくれる。遙の高すぎず低すぎない声が私の名前を呼ぶ事が嬉しい。スマホを見ていた私の隣で、明後日には提出しなくてはならないというレポートを書くのに必死な彼の横顔を見る。美しい青を宿した瞳が、モニターの光を反射して煌めいていた。水という何にでもなれる、自由自在に姿かたちを変える水のように、あらゆる姿で私を魅了してやまない。

「……なんだ」
「何も?」
「視線が痛い」
「気のせいだよ」

怪訝そうな顔で遙が私を見る。ノートパソコンを一度閉じた遙が瞳を閉じて眉間を揉む。一つ短くため息を吐いてじっと私を見る。遙の肩に頭を乗せて「はるか」と名前を呼んだら「なんだ」と短い水色の声が返ってくる。「すき」何も考えずにただただ自分の想う言葉を声に出したらこうだったんだ。「俺はそれ以上だ」何故か張り合ってくるところがちょっと可愛くて好きだ。手を重ねると倍の倍くらいの力で指を絡めてくれるところが愛おしい。大学に入って記録会で記録を出して、いろんな人に注目されて、「イケメン期待の新星」なんて言われて、出待ちなんかされるようになったけれど、澄んだ瞳で、飾らない言葉で、私を好きだと言う彼を大切だと思う。頭一つ分の身長差をほんの少しの背伸びで埋めて頬にキスすると、遙という水が揺らいで、そしてふんわりと和らぐ。人肌ほどのお湯みたいに、心地よい体温の手のひらが私の頬を包んで向き合うと今度こそ唇同士が触れるのだ。
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