作文 | ナノ


「あのね、今朝めざましテレビで見たんだけど今夜は中秋の名月なんだって!」
「マジ?わたしもめざましテレビみた」
「わお!これは運命だねきっとそうだ!という訳で〜今夜僕の部屋のベランダでお月見をしよう〜!」
「連想ゲームかな?」
「なんとスーパーでお月見団子も買ってある!おまけに金麦も冷えてる!」
「天才!お月見しよう!!まあ今夜はたぶん曇りだけど……」
「風で雲も流れていくよきっと!わかんないけど!ほらほら僕の部屋行くよ〜」
「やったね!タダ酒だ!旭と遙は?」
「もう断られたよ」
「そ、そうなんだ…それじゃあ旭、遙、また明日ね」
「ああ、またな」
「飲みすぎんなよ〜!」
「心得た〜!」

「かんぱい!」

 お世話になっているというおじさんのところから出て、今は貴澄も一人で暮らしている。部屋はいつ訪れてもそれなりにきちんと整頓されていて、人となりが出ているなあと思う。加えて貴澄もいるからか、妙に居心地がいいのだ。
夕方にお邪魔して、録画してあったドラマを一緒に見て軽く夕飯を済ませて、缶ビールとお団子を片手にベランダに出た。つい最近までの熱帯夜がまるで嘘のように涼しくて、駅から少し離れたところにあるここは虫の声しか聞こえない。気持ちいいな、生憎とお月様は雲に隠れてしまっているけれど。

「小さいビアガーデンってかんじでいいよね〜涼しいし、静かだし」
「ここもおじさんに紹介してもらった物件?」
「そうだよ〜!身内だしね。もしなまえも引っ越すならいつでも言ってね。紹介するから」
「そうだなあ、月に住んでみたいかなあ」
「月はね〜地球駅に近いから家賃高いんだよね」
「マジか。銀座と赤坂くらい?」
「どんなイメージ?そうだなあ、あと住民は兎だから八百屋さんばっかり充実してるんだよ」
「たまには焼肉とか食べたいかも…」
「そうそう。だから月はオススメしないなあ。かわりにといったら何だけど…僕の隣とかどう?」
「うわっマジで言ってる?酔ってる?やばいよそれ、ていうかもういるじゃん、わたしはここを他の女の子に譲るつもりは全くないよ」
「…………あ、えっと…これから先も、いて欲しいなって意味、なんだけど。伝わってる?これ」

 貴澄の頬がほんのり色づいている。お酒のせいかな。何も言わず返事のかわりに目を閉じると優しく触れるだけのキスをされる。声にしなくてもわかるなんて流石だ。そういうとこ、すきだな。

「今のキス、金麦味だった。どこの新作リップ?」
「キスミ・シギノの秋の新作」
「シュウ・ウエムラみたいに言うな」

 顔を見合わせて笑う。夜は響くから声を潜めてくすくすと。密かに笑い声が響く夜は少しだけ秘密のようで、缶をベランダの手すりの傍に置いて肩に頭を預けたら、何も言わず髪を撫でられる。しあわせだ。高級スイーツよりも、ヴィンテージワインよりも、近所のお惣菜コーナーのお団子とお酒売り場の金麦を他愛のない話をしながら飲む方が、ずっと。

「ねえ貴澄ー」
「なあにー」
「たぶん、来年も月は綺麗ですよ。雨さえ降らなければの話だけど……」
「…!え!は〜〜!もう!かわいいねぇ!ラブだよぉこれは」
「世界平和になっちゃうなー」
「もうなってるよ」

 ぐっと残りのビールを飲みほして秋の金麦味のキスをおくる。多分、来年もこうしている、きがする。そうだと、いいなあ。
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