作文 | ナノ

遠野日和は、私といて楽しいのだろうか。
こいつが誘えば断る女なんてほぼ居ないだろうに、わざわざ私を誘っては「気になるカフェ」に連れていくのだ。毎回どのカフェも綺麗でお洒落で美味しくて私の好みの場所ではあるが、どこへ行っても第一声は「郁弥」だ。桐嶋とは顔馴染みだし知り合いだし友人だが、流石に妬ける。今日もそうだ。せっかく2人でのデートなのに、この前の記録会で郁弥が。こないだ行ったカフェで郁弥が。私と桐嶋どっちが大切なんだ、なんて聞くつもりはない。ないけれど。

「日和「は」何かいい事あった?」
「僕は…そうだね、郁弥が記録会でいい大会新記録を出してさ」

眼鏡越しに笑顔を浮かべた日和が話はじめる。私は桐嶋の事じゃなくて日和の話が聴きたいのにな。しびれを切らして初めて声に出した。

「私は、日和自身の話が聴きたいんだよ」

声が震えていないだろうか。日和とはキスも手を繋いでデートするのもセックスもしているけれど未だに私の前で桐嶋の話が出なかったことは無かった。

「……僕の話、聞いてくれるの?」

不思議そうに目を丸くする日和に対してこちらが言葉を失ってしまう。当たり前だろう、桐嶋はいい友人だけれど、大事な恋人は遠野日和ただ1人なのだ。混合しないでよ、私が大好きなのは日和、あなたなのだから。無言で手を握りしめたら、目尻に涙を浮かべた日和が眉を下げて笑っている。つられて私も笑ったら、「やっぱりきみは笑顔が1番可愛いね」なんて、チャラいことを言うのだから。「何言ってんの」なんて、震える声で腕を軽く叩くことができるのも私だけだ。

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