作文 | ナノ

これの続きです

試着室での一件だけではない。未だに時々唇に郁弥はキスをする。嬉しいけど心臓に悪いことには違いない。
郁弥の部屋で二人、借りてきた映画を見ながらくつろいでいる今も、長い脚を組んでソファに腰掛けているだけで絵画みたいに綺麗な郁弥にばかり目がいって仕方がない。付き合ってもう1年半も経つしキスもセックスもしたし、今更恥ずかしいことなんてないのに。未だに積もる「好き」が私の中で燻っている。中学生か?

「郁弥さ、」
「ん?何」
「あ……………………いや」
「途中でやめられると気になるんだけど、何?」
「今更なんだけど、あの、結構キス魔だよね」
「……」
「……」
「……」
「…ごめん」

私に呼ばれてこちらを向いてくれた郁弥が、投げられた言葉に目を丸くして私を見ている。顔色も変わらなければなにも言わないものだから怖い。やはり怒らせてしまった、分かってるのに言うなんて嫌がらせじゃないか。最低だ、私。早く謝らなきゃ、意を決して声をかけるとフッと不敵な笑みを浮かべる。まるで相手を挑発するような、妖しく細められた瞳にぞくぞくする。なにも言わず抱き寄せられて間近に顔が迫ってくる。顔からサッと血の気が引いたのが感覚としてわかった。怖い。おでこがこつんとぶつけられて、0.00数ミリで睫毛がぶつかるんじゃないかという至近距離で、じっと私を見たまま郁弥が続ける。

「今更気がついた?」

一瞬息を吸ってそのまま唇を塞がれる。キスの合間にも身体を抱き寄せられて全身で彼を感じている。ただキスしているだけなのに、支配されているようで脳がクラクラしてきた。ぬる、と唇を割って侵入してきた舌が絡まって、いっぱいいっぱいになってしまう。彼の服を掴むとゆっくりと離れていく。唾液が糸を引いていて、私たちのしたことを見せつけられているみたいで、顔が赤くなるのがわかった。

「うん、キスするの結構好きだよ」
「意外」
「そう?」
「あんまりベタベタしたりとか、好きじゃないのかなって前は思ってたけど。帰国子女だからキスは挨拶の一環なのかと」
「……すごいな、思った通りに勘違いしてくれたんだ」
「えっ?」
「あまり僕は言葉を選ぶのが得意じゃないから…行動で示そうかなって思ったんだ。初めはおでことかほっぺでも満足だったんだけど…少し物足りなくなってきて」

脳がついて行かない。涼しい顔してとんでもないことを考えていたんだな…?驚いたり嬉しいだったり不満はすぐに顔に出るくせに、なんでそういうのだけ。掴んだままの服から手を解かれてしっかりと指を絡められる。上機嫌な彼がとんでもない爆弾を放っていった。

「でももうばれちゃったならいいよね。我慢しないから、よろしくね。本気で嫌な時は蹴って殴ってもいいからちゃんと抵抗してよ?」

今に鼻歌でも歌い出すのではないか?こんなにご機嫌な郁弥も珍しいな…返事が口の中に留まっている間に顎を持ち上げられて再び唇を塞がれる。もういいや。考える事を諦めて、首に腕をまわして身を任せることにした。
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