作文 | ナノ

声に出したらしばらく口を聞いてくれなさそうな普段思っていることのひとつ。「郁弥、意外とキス魔だったんだね。」帰国子女だからなのかな?私は桐嶋兄弟と遠野日和以外の帰国子女を知らないから何とも言えないけれど、郁弥は『淡白です今は水泳一筋、恋愛とかセックスとか興味ないです、無闇に触るなよ』みたいな顔をしているくせに、何かとおでこや目尻にかわいいキスをするのだ。例えば何かをした時、「ありがと」という言葉と共に。正直、その言葉だけでも100万円くらいの価値があると私は思うのにサービスが過剰すぎるのだ。もちろん嬉しいけど。初めの頃は驚きすぎてその場では固まってしまうこともしばしば。しかし「ああ…ごめん、嫌だった?」と眉を下げて言われてしまっては嫌なんて言えなかった。実際嫌ではないから問題ないのだけれど。最近はもう慣れたし、郁弥も何も断らなくなった。……頬やおでこに限っては。


デート先で見かけた服が可愛かったので試着させてもらって、意見が欲しかったのでカーテンを開けるとスマホを弄る郁弥がいたので「ねえ、これどうかな?」と声をかけるとピタリと静止してじっと見られる。無言で停止してしまった彼氏、どうしよう。「えっと…大丈夫?似合ってないかな、ていうか起きてる?」顔の前で手を振るとはっと瞬きを繰り返す。挙動不審で心配だ。

「この色、君にとっても似合ってると思う、し……僕も好みの色だから、ちょっとびっくりしただけ。今度デートの時着てきてよ」

しゃべりながらこちらに寄るものだから、また試着室へと戻される。「前にやってた…三つ編みを後ろでまとめて襟足が出てるやつ、あの髪形にも合うと思う」「わ、わかった、わかった!覚えててくれて本当に嬉しいけど、あの、近」「………かわい」一瞬唇をくっつけてすっと離れていく。とうとうおでこと頬だけじゃなくなった!嬉しいけど心臓に悪いから、「とりあえず着替えてきなよ。待ってるから」「………………うん」カーテンを閉めてまずすることは息を吐きながら蹲る事だった。どうせ自分が影になってるから見えてないとでも思っているのだろう。残念ながら、鏡もついているし何なら売り場で服を見ていた女の人と目が合った。確実にバレている。もそもそと本来着ていた服に着替えながら、何と声をかけようか考えた。
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