錆兎は目前の光景に足を止めて停止した。なまえが錆兎の屋敷に報告書を渡しに訪ねてきたと思ったら、茶を持ってくる数分の間に寝てしまったようだ。疲れているなら鴉にでも頼めばいいものをこうやって直々に届けてくれるのはなまえに秘かに想いを寄せている錆兎からしたら嬉しいものだった。湯飲みが二つ乗った盆を畳部屋の隅に置き、机に突っ伏しているであろうなまえを覗き込む。すうすうと規則正しい寝息を立てる彼女の腕の下には本日持ち込まれた報告書の端が見えたが今無理に引っ張ってしまえば起きてしまうだろうからと錆兎は諦め自身の羽織を脱いだ。

「ん」

羽織を優しく掛けてやるとなまえは小さく身じろぎをして細い吐息に似た様な声を漏らす。それでも起きる気配は無く錆兎は羽織を掛けた流れで彼女の昔より随分と伸びた髪をさらりと撫でた。まだ鱗滝さんの元で修業をして居た頃、真菰が不在の日にあったなまえとの懐かしい一幕を思い出す。彼女は片手に櫛、もう片手に髪を結う為の紐を持ち困った様子で錆兎に言った。聞けばいつも真菰に髪を結って貰っているから自分では結べないという。お願い、と半ば無理やり押し付けられた櫛と紐で錆兎はなまえの髪に三つ編みを施してやったのだった。

「、」

さらりと彼女の柔らかな髪が手の平から零れ落ちる。なまえが一人前の鬼殺隊になり鱗滝さんの元を離れてからずっと髪を下ろしたままという事は今だに自身で髪を結うのが苦手だからなのだろうか。思いながらなまえの髪を両の手で一纏めにしうなじ辺りで髪に指を二本入れて3つの束を作る。昔一度やったみたいにそのまま束を順番に編み込んでいく。忙しい為手入れが行き届いていないからなのか、それとも彼女の少し抜けている性格故なのかは分からないが長くなった髪の毛先は枝毛が目立った。毛先を少し余らせて出来た三つ編み。顔をずらしなまえの寝顔を盗み見る。昔と今の三つ編み姿の彼女の印象はだいぶ違ったものになっていた。子供っぽさはどこに置いてきてしまったのだろうか。その代わり綺麗とか美しいとか、そういった言葉が似合っている。そのままなまえの髪から手を離すと留められていない編み込みはするすると解けていき彼女の肩に元通りに落ち着いた。こんなに触れられても起きないのは珍しいなと錆兎は床に置いてあった本を手に取りなまえの横に腰を下ろして胡坐をかいた。疲れているんだろう。彼女が目を覚ますまで寝かせておいてやろうと思った。隣からはまだ小さく寝息が聞こえる。





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