あなたはどこにいますか?




青柳視点


沖縄


征陸さんと須郷さんを連れてやってきたのは大友逸樹の妻である大友燐の下

立派な豪邸、そして綺麗に片付けられたリビング
そして大友逸樹との写真

「(よほど夫婦仲が良かったのね)」

どれも幸せそうに微笑む燐さんの写真
けれど今目の前で私たちと話す彼女からは感情が読み取れない
それほどまでに無表情だ

「夫はもう海の向こうで死んだものと思っています
ムリでしょう犯罪なんて、この国に帰ってくることすら」

「どんな些細なことでも構いません、最近あなたの周囲で何か変わったことはありませんでしたか?」

「いえ、特に何も」

うつむき加減の彼女からは何も汲み取れない
それまで部屋を見回していた征陸さんがふと口を開いた

「軍を辞めてから生活はどうですか?」

「シビュラシステムの再就職措置で無事に地元のテレビ局で仕事が見つかりました
案外最初から軍人なんてやるべきじゃなかったのかもしれませんね」

淡々と話すその姿を真っ直ぐ見据える
燐さんは表情一つ変えぬまま「須郷くんも」と続けた

「向いてないんじゃないかな?本当は…」

「それは…」

よほど旦那を失ったショックで辛かったんだろう
須郷さんはその気持ちを理解したのか歯切れが悪い
共犯だとしたら二人のやり取りは極力避けないとだけれど、さてどうしたものか

「奥さん、テレビ局の仕事は本当はすごく嫌だったりします?」

征陸さんのその一言でようやく燐さんの表情が変わった

「えっ?どうしてですか?」

「いえね、記録によれば最近有給休暇を何度もとってますよね?
しかもメンタルケアの投薬量も増えている」

「そんなもの…!あんなことがあったんだ!そりゃ増えますよ薬は!」

急に感情的になる須郷さん
捜査として連れてきたんだから邪魔はしないでほしいけれどきっとこれは何を言っても無駄だ

「そういう解釈もあるだろうが…」

「解釈って何ですか!?いい加減にして下さい!」

「やめて須郷くん」

論争に終止符を打ったのは張本人の燐さんだった
さすが元軍人なだけあって言葉が力強い

「刑事さんたちが私を疑うのは当然だと思います
ですが今回の事件に役立ちそうな情報は何もありません
休暇や投薬量が多いのは単に悪い気分を紛らわせるためです」

燐さんは少し表情を和らげた

「容疑者だろうと何だろうと夫にもう一度会えたなら嬉しいでしょうね」

その気持ちが分からなくはない、私だって執行官と付き合っている
いつ互いに死ぬかも分からないような環境でそれでも愛し合っている
隣に居てくれるだけで、それだけでいいというのは咲良と狡噛くんを見ていて十分すぎるほど理解しているつもりだ
結婚まで誓いあっていても引き裂かれることだってある、そんな理不尽な世の中なのだから

「あの人が生きていれば必ずここに戻って来ると思います」

願いに誓い言葉は静かに消えていった








「…どう思います?」

大友宅を後にし、車中で先程の燐さんの様子を思い出しながら助手席の征陸さんに問う

「なんとも、探りを入れてたらそこのカタブツが突っかかってきたからな
でもまあひとつ分かった、須郷大尉は犯人じゃない、共犯どころかまったくの無関係だろう」

「!」

征陸さんの表情が柔らかいものとなり、それだけで須郷さんへの容疑が晴れていることを証明している

「刑事の直感ってやつですか?」

「茶化さんでくれよ監視官
なぁに、後ろめたいことをしてるやつは他人のためにああいう風には怒れないもんさ」

征陸さんは本当にすごい
根拠は無いかもしれないけれどこの直感が当たってる事が多い
それに妙に納得してしまうのは征陸さんの経験あってこそだと思う

その言葉を聞きながら私は目的地へとアクセルを踏んだ
ちなみに今回はオートモードでなくしっかり自分で運転している

「!?…ちょっと青柳さん…この進路」

「すみませんね須郷さん、少し寄り道します」

「はあ…」

気まずそうな征陸さんに目を向け、すぐに前に視線を戻した

「せっかく近所まで来たんだし、こういう機会でもないと…もう二度と沖縄まで来られないかもよ」

「それは…」

お節介かもしれないけど、私がやりたいからそうするの
後で宜野座くんに怒られるだろうなと頭の片隅で考えつつも車を走らせた






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