日の力を宿し刀
※麦秋生の後
選別試験が終わって隊服を支給された私は扇町先生のお屋敷に帰ってきていた
嫌味な兄弟子達もけろっとした顔で私が帰還したことに悔しそうにしているけれど、突っかかってはこないので少しは学習したのかもしれない
帰ってきてすぐに鈴音さんに風呂に入れられ、着物も洗濯されてしまった
忘れていたけれど最終選別は7日かけて行われたのだ、それに前後の移動で更に2日かかっている
この間湯浴みもしていないし着物もそのままなのでそれなりに見窄らしい格好をしていたんだろう
綺麗に整えられてから通されたのは先生のいる部屋だった
いつものように微笑む先生は私を見てその笑みを深める
「おかえり、祈里」
「はい、戻りました
日輪刀が10日から15日ほどで出来るそうなのでそれが完成すれば任務を受けるようになります」
ここにいるということは合格したということ
生き残ることが条件なのだから帰って来ない門下生もいただろうに先生のところにいる人はほとんどが生還しているらしい
これはそもそも先生が無闇に最終選別へ行かせないおかげだと思っている
「こちらの刀はお返しします」
最終選別用に先生から持たせてもらった日輪刀を返せば、その刀を手に取った先生がその刀身を眺めた
「…そうかい、鬼を斬ったんだね」
「はい」
「風は教えてくれなかったのかい?」
「いえ…ただ…少し仲良くなった子が鬼に襲われていたので」
「見過ごせずに助けたと?」
その問いに頷くと、先生もうんうんと嬉しそうに頷く
「祈里の目的の人を救うが1つ達成できたわけだね」
「…そう、ですね」
アオイが襲われているところを見つけたあの時、咄嗟に体が動いていた
試験に受かりたいのなら鬼との戦闘を避けるべきなのにそうしなかった
よかった、私は心の底から本当に人を助けたいと思っているんだと確認できたことにホッとする
「刀が出来るまではゆっくりするといい」
「えっ…でも」
「鬼殺隊に入ったんだ、ここよりも交通の便がいい所に宿を取りなさいな
それに今のように平和な時間はもうこの先ないだろうからね…鬼殺隊とはそういう場所だよ」
先生と鈴音さんを除いてこのお屋敷にいるのは門下生のみ
鬼殺隊に入れば出ていくことが暗黙の了解になっているので私もそうすることになる
そして鬼殺隊として任務に出れば怪我の療養中でもない限りはほとんどの日を任務に明け暮れることになるだろう
それを見越して先生はゆっくりするよう仰ったんだ、この先は今までよりももっと過酷な日々が待っている
先生に一礼をしてから与えられた自室で手紙を書いた、宛先はあまね様だ
無一郎と最終選別で会ったこと、そして鬼殺隊に入ったことを報告するために1字1字丁寧に書いていく
書き終えてから文章を読み返しおかしなところがないか確認してから立ち上がると縁側に私の鎹鴉が降りてきた
「手紙?僕ガ届ケルヨ!」
そう告げた鎹鴉は役目を見つけて嬉しいのか私を見上げてそわそわしていた
昨日の選別後に与えられた1人1羽の鎹鴉
主に伝令役としている彼らはそれぞれ特殊な訓練を受けているので言葉を話すことができるらしい
鴉の隣に座ると膝に飛び乗ってきた
随分と人懐っこい子だ
「そうだ、君に名前をつけないとね」
「名前?」
「そう、君だけの名前だよ」
空を見上げれば風が吹いているのが視える
この大空を自由に飛ぶことができるこの子たちが羨ましい
「うーん…そうだなぁ……颯、君の名前は颯にしよう」
空を駆ける風の音からとった名前
気に入ってくれるかなと様子を見ていると颯はきょとんとしているが徐々に実感が湧いたのか翼を広げた
「颯…僕ノ名前…!祈里ガクレタ僕ノ名前!!」
目を輝かせる姿はとても可愛らしい
颯を撫でれば気持ちよさそうに目を細める
その後手紙を彼に託して手持ち無沙汰になった私は結局いつものように稽古をすることにした
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最終選別から13日後
お屋敷に刀鍛冶の方がやってきた
先生と私と刀鍛冶の方の3人で客間にて向かい合っている
「お初にお目にかかります、私は鋳型と申す刀鍛冶でございます」
「は、初めまして、菜花祈里と申します」
初めて見た刀鍛冶さんに背筋が伸びる
日輪刀を打ってくれる職人さんなのだがひょっとこの面を被っていて顔は分からない
背格好や声からして若い男性のように思えるけれどどうなんだろうか
「それに扇町殿もお久しゅうございます」
「あのチビっこが大きくなったもんさね」
懐かしそうに笑う先生
どうやら鋳型さんと先生は顔見知りらしい
そりゃあ先生は元風柱なわけだし知っていてもおかしくないがちょっと意外だった
「それでは早速こちらを」
鋳型さんが前に出したのは一振りの刀
鞘に入っているそれは抜く前から分かるほどの圧がある
「日輪刀は別名色変わりの刀と呼ばれております
太陽に一番近く、一年中陽光が射す陽光山で採れた猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石という陽光を吸収した鉄から造られ、試験で菜花殿が選ばれた玉鋼も用いております」
黒い鞘に金色の留め具がついており、蔦のような模様が彫刻されているそれはとても美しい
鍔の部分は重なり合った葉をイメージしているようなデザインで、そちらにも蔦のような彫刻が施されている
柄は葉の葉脈のような仕上がりで綺麗な水色の丸い装飾が埋められている、まるで雨上がりの葉に水滴が残っているような印象だ
「祈里、刀を抜いてみなさい」
「はい」
先生に促され日輪刀を手に取る
柄を握って鞘から引き抜けば綺麗な銀色の刀身が姿を見せた
こちらにも鞘と同じ蔦のような装飾が施されておりとても綺麗だ
が、その直後日輪刀の色が柄の部分から徐々に変わり始めた
峰は深緑、刃は新緑の色を灯しており、切先にかけて輝きを増すような濃淡も出ている
蔦の部分のみ水色がかったような色をしておりその美しさに見惚れてしまった
「おおっ!おおおっ!!!素晴らしい!これはとても綺麗な発色ですな!!」
テンションが上がったのか興奮気味の鋳型さんにギョッとしていると、先生が私の刀を見て感心したような声を上げた
「日輪刀の色は使い手の呼吸への適性を示す、色が変わるのは初めて抜いたその一度のみ…祈里、お前さんはやはり優秀だね」
先生の言葉を聞いてからもう一度刀に目を向けた
確かにその色ははっきりと出ているように見える、試験用に借りた先生の刀と遜色ないような色味だ
「これが私の刀…鋳型さん、ありがとうございます」
「いやいや!これは私の仕事故!礼を言われることはありませぬぞ」
「でも鋳型さんのおかげで私は戦えます、この刀で誰かを守れる」
刀が無ければ私達は何も出来ない
鬼を前に戦うことが出来るのは日輪刀があってこそのことなのだ
鋳型さんはお礼を言われたことが照れくさいのか頭を掻いている
そんな私たちの元に颯が降り立った
日輪刀を貰えば任務が言い渡される
お世話になった先生への挨拶も支度も済ませていたので立ち上がってから隊服のベルト部分に刀を挿しこんだ
「さあ、行ってきな祈里
このおばぁが教えたことを忘れずお前さんの剣を極めるんだ」
「はい!」
深々と頭を下げてから颯の下へ行けば最初の任務が言い渡される
今日から私の鬼殺隊としての日々が始まる、そう思うと期待と不安が入り交じった
でも私は必ず強くなるんだ
強くなって、無一郎を守る
鬼を倒すことが私の償いだから
覚悟を決めて1歩踏み出した私の背中を先生は優しく見守っていた
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