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※無一郎視点




祈里と暮らすことになった
大学に進学したのを機に両親や兄さんには寮に入るって伝えてある

大学は祈里と同じところにしたので家でも通学も鬼殺隊でもずっと一緒に居られる
これで少しは祈里も意識するかなと思えば全然その気配がない
むしろ前よりも年上としてしっかりしよう感が増した気がする


「はぁ…」

「どうした時透、今日は一段と地味だな」

「宇髄さん」


月に1度行われる柱合会議の日
会議後にため息を吐いた僕を見た宇髄さんが不思議そうな顔をする
それにつられて他のメンバーもなんだなんだと僕に目を向けた


「あの…どうすれば大人になれますかね」

「無一郎くんは十分大人っぽいと思うけれど」

「違う甘露寺、そういう事じゃない…菜花のことだな?」


伊黒さんに頷けば何故かみんながほわほわし始める
そういえば前世でも祈里と僕を微笑ましく見守られてたっけと思い出した


「でも一緒に住んでるんだろォが、前進してんじゃねェのか」

「それが、母さんみたいなんですよ…やることなすことが保護者目線というか…」

「あら、祈里さんらしいですね」


くすくす笑う胡蝶さん
言われてみれば前世でも祈里は僕の世話を焼いてくれていた
世話係の隠の人に紛れて家事をよくしてたっけ


「それにしても菜花少女だけが記憶が無いというのは不思議だな!」


煉獄さんの言う通りだ
祈里はいつまで経っても記憶を取り戻す様子は無い
思い出せば僕としても好都合なのになかなな上手くいかない


「何か取り戻したくない理由でもあるのか…それが菜花の記憶に封をしてるのやもしれん」

「封、ですか」


悲鳴嶼さんの言う通り祈里は無意識の内に思い出さないようにしているのかもしれない
でも前世の彼女の事を思い返すもそれらしいものは思い当たらない
祈里はいつも笑顔だった


「まあどちらにせよ、前世で時透が記憶を取り戻した時みてェに何かきっかけが必要なのかもなァ…」


不死川さんに言われて前世の事を思い返す
刀鍛冶の里で僕は炭治郎に父さんを重ねて、それがトリガーとなって記憶を取り戻した
祈里もそれが必要なのだと




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「無一郎くん、おかえり」


会議の後で家に帰ればエプロンをした祈里が出迎えてくれた
これはまるで新婚さんのようでグッとくるものがある

前世では14だったし清いお付き合いをしていたけど、今の僕は今年で19歳だからそれなりに大人のお付き合いも興味はある
健全な男なわけだし仕方ないよね


「あのね、今日はふろふき大根作ってみたんだ!」

「本当?嬉しい」

「夕飯の準備出来てるから手を洗ったら来てね」


にこりと微笑む祈里はあの頃と変わらない
僕の好物のふろふき大根を作ってくれるのも、僕が食べる姿を嬉しそうに見るその顔も
全部変わらないのに僕らの関係だけがあの頃と違う


「うん、美味しい」

「よかったぁ、味付けとかどう?もっとこうした方がいいとかある?」

「ううん、祈里の作ってくれたものは全部僕の好きな味だよ」


世話係として屋敷にいてくれた守屋さんや向田さんなどの隠のみなさんの料理も好きだったけれど、やっぱり祈里の料理が一番好きだ
前世では母さんから習ったものだったから味付けは母さんそっくりだったけれど、この世でも似た味付けなのは少し驚く


「でも祈里も学校に鬼殺隊に忙しいのに料理まで作ってもらっちゃって申し訳ないや」

「ううん、3年になると講義も減るし鬼殺隊の方も無一郎くんに比べたらまだまだ少ないもん
それに私のわがままで一緒に住んでもらってるんだからこれくらいさせてよ」


この世の祈里も随分と自分を卑下する癖がある
正直祈里のスケジュールはきつい方だし、疲れも上手く取らないと体を壊すかもしれない
それなのにこんな風に言ってくれるのは祈里らしいし、前世から僕は彼女に甘えっぱなしだなと少し落ち込む


「祈里、僕にしてほしいことはない?」

「え?」

「いつもお世話になってるから君のために何かしたいんだ
だから教えて、祈里のしたいこと」

「えっ、そ、そんな…気にしなくていいのに」


オロオロしてる祈里を負けじと見つめ続ければ、観念したように彼女が考え始めた
しばらくしてから祈里は嬉しそうに顔を綻ばせる
どんなお願いだろうかと目を向けると銀杏並木を見に行きたいと彼女は告げた
そういえばこの前テレビで特集されてたなと思いつつ承諾すると祈里が嬉しそうに笑うから僕もつられてしまう

鬼殺隊の任務の都合上免許はあった方がいいって言われたから一応運転免許は取ったけど正解だったなと過去の自分を褒めながら祈里のご飯を噛み締めた






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