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※無一郎視点




祈里を見つけた
いや、さっきの任務で襲われていたのが祈里だったというだけだが

とりあえず鬼に襲われた人には必ず説明が必要なので鬼のことを話すためにも討伐後に玄弥と3人でカフェに来ている
本当ならその場でさくっと説明するだけでいいんだけど、相手は祈里だ、これではいさよならなんて絶対にしたくない
だから玄弥には悪いけれどしっかり話せるようカフェに移らせてもらった

僕と向かい合う形で座る祈里は少し不安そうで先程のことを思い出しているのか顔が青い
見たところ僕と同い年くらいに見える、お館様曰くある程度は前世のままの年齢で転生しているのだとか


「お待たせしました」


玄弥が3人のドリンクを注文し持ってきてくれた
僕の隣に座った彼もどうしたものかと戸惑っているように見える
あの時上弦の壱と戦い命を落とした3人の再会だというのに気まずさが拭いきれない


「あの…先程はありがとうございます
私は菜花祈里と言います…どうお礼をすればいいか」


やっぱり祈里だった
そのことに嬉しく思いつつも彼女が前世の記憶を持っていないことにがっかりもした
覚えているのは僕だけなんて、前世とは真逆だなとあの頃の祈里の心境を思い知らされる


「僕は時透無一郎、こっちは不死川玄弥
僕らはさっき祈里…さんが出会った鬼と呼ばれるものを討伐する仕事をしてるんです」

「鬼、ですか…あれって何なんです?」

「少し信じ難いかもしれないですけど、あれは人間の負の感情から生まれた怨念のようなものなんです
生まれた後は力を求め人を襲うようになります」


それを聞いた祈里が先程よりもゾッとした顔をした
あれは夢ではなかったのだと叩きつけられたことで恐ろしさが増したんだろう

隣に居た玄弥が「大丈夫ですか?」と心配そうに声をかけると祈里は眉を下げながら微笑む
その表情も懐かしくて心が熱くなるというのに目の前の祈里は何一つ覚えてないのだから悔しい

玄弥はそんな僕の心境を察してか話を進める


「それで…菜花さんには2つの選択があります
1つはこれまで通り過ごすこと、この場合は鬼に遭遇した記憶を消させて頂きます
2つ目は俺たちと同じ鬼殺隊として活動することです」

「それってほとんどが1を選ぶんじゃないんですか?」

「そうですね、怖い思いをされた方は大半が1を選びます」


鬼の存在が公に出れば悪用する者が現れる
鬼舞辻無惨のような存在をこの世に放つわけにはいかない、だから全てを忘れてもらうことにしている
でも中には鬼殺隊に入って僕らと共に戦ってくれる人もいて、そういう人は喜んで歓迎していた
鬼殺隊を辞める場合や問題行動が見られる時は記憶を消して日常に戻ってもらう
こうすることで鬼殺隊は裏切りなどなく結束を固めていた


「…選ぶ前に聞いてもいいですか?」

「なんです?」


おずおずと尋ねる祈里に頬が緩む
言葉を交わせば益々愛しさが募るし、たとえ前世の関係だとしても祈里への思いは変わらない


「どうして私が狙われたんでしょうか…霊感があるわけでもないですし」

「祈里さんが狙われたというよりは、鬼のテリトリーに入ってしまったからという方が正しいですね
そもそもどうしてあの場所に?」

「…声が聞こえた気がしたんです」

「「声?」」


玄弥と同時に言葉を発したせいか、祈里は言いづらそうに目を伏せる
横目で玄弥を見れば彼もまた僕を見てどうしたものかと2人して悩んでしまう


「あの、変だと思うかもしれないんですが…私、風が視えるんです」

「ああ、そうなんですね」


前世でも祈里は風が視えていたなと当たり前のように相槌を打てば祈里はギョッとした顔をする


「へ、変だとか気持ち悪いとか思わないんですか?」

「あー…いや、ほら
鬼殺隊にはそういう人もいるから、ね?玄弥」

「え!えーっと…そう、ですね」


残念ながら風が視える人はいない
でも炭治郎はこの世でも嗅覚がいいし、善逸や伊之助、玄弥にカナヲも前世同様にそれぞれ秀でた五感がある
だからそれを一括りにするなら嘘はついていない…と思う

それを聞いた祈里はぱああっと顔も目も輝かせた
きっと今まで散々に言われてきたんだろう、そんな風に伺えるような反応だ


「あの!あの!風が視えるし声が聞こえるんです!
さっきもいつものように声が聞こえて、それで近道をしようとしたら…」

「あー、それ多分鬼の声だね」

「え」

「祈里さんが風の声を聞けるってことを逆手に取られたんだよ
風のフリをして自分のところに誘ったんだ
君狙われやすいんだね、このままだとまた上手く連れ込まれるかも」


鬼の中には賢いものもいる
あの手この手で人を襲うのだから毎度驚かされてばかりだ

さらりと事実を言った後でしまったと我に返った
祈里相手だとつい何の気なしに話してしまったけれど、本当ならもっと相手を思いやった発言をしなきゃならない
隣にいる玄弥も冷や汗ダラダラで僕を見ている

恐る恐る祈里を見れば案の定青ざめていて、少し泣きそうにもなっている
やってしまった、前世の頃からこういう所は全く成長していない


「で、でも鬼殺隊で鍛錬を積めば自分の身は自分で守れるようになると思うよ!
怖い思いをするかもって生きてくよりは全然いいと思うけど、どうかな?」

「…私、ただの大学生ですけど…それでもなれるものなんですか?」

「大学生?!」

「あ、はい…今大学2年です」


予想外だった
そりゃあ誤差はあれど1歳くらいだろうと思ってたし、なんなら祈里は年下な気がしてたから
でもまさか僕より2歳も上なんて…


「じゃあ俺と同じ歳ですね」


にこっと笑う玄弥を恨めしげに睨んだ
カナヲも大学2年だし、炭治郎、善逸、伊之助は大学1年だから僕だけが高校生らしい


「わ、そうなんですか!てっきり年上かと思ってました…じゃあ時透さんも?」

「いや…僕は…高3なので」


何なんだこの言いづらさは
祈里もしまったという顔をしてるし玄弥は笑いを堪えてるみたいだし何なんだ

その後結局祈里は鬼殺隊に入ると決めたけれど、悔しい気持ちは晴れないまま帰宅した僕を兄さんは不思議そうに出迎えてくれた






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