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※無一郎視点




記憶を取り戻して4年が経った
17になった僕は高校3年生として生活しつつ、夜は鬼を討伐している
この世でも鬼殺隊という名を名乗ることにしており、メンバーは僕ら柱の9人のみで始まったが気づけば他の人も増えていた

それにこの4年で分かったことがある、当時鬼殺隊だったメンバーは柱以外でも稀に記憶を取り戻すということだ
具体例で言うと炭治郎と善逸と伊之助、玄弥、カナヲがそれに当たる

皆最初の僕のようにおろおろしてたけれど、やるべき事を理解して鬼殺隊に入った
鬼殺隊には記憶を持つ僕ら以外のこの世の人達もいて、そういった人には前世の話はしていない
余計な混乱を招くことは避けたいとお館様は仰ってたし僕もそれがいいと思ってる

この世の鬼は前世のものとは変わっていてどちらかと言うと怨霊に近い存在だった
人の心の闇や負の感情から生まれる存在で、力を増すために本能的に人を喰らうらしい

そういった鬼の存在は世間一般では都市伝説とされていて誰も信じてないけど実在している
鬼殺隊に入った人の中には家族を殺されたという人もいて、前世の自分を重ねて色々思うこともある

基本的に犠牲を0にするという方針なので必ず数人一組で任務に臨み、発足から4年経った今でも全員が無事に生きている
これはお館様の手腕の成果で本当に頭が上がらない


「時透くん」

「あ、炭治郎!」


鬼殺隊の本拠地であるお館様の屋敷の地下にあるアジトでは鍛錬の設備や武器なども揃っている
そこでいつものように鍛錬していた僕に炭治郎が声をかけてきた
炭治郎は先月記憶を取り戻したばかりでまだ戦闘には出ていない


「すごいね、学校終わりにすぐ鍛錬なんて」

「そんなことないよ、最初は兄さんから何をしてるんだって色々探られたけどお館様が上手く手を回して下さったから表向きは剣道場に通ってるってことになってるし…逆にサボったら面倒なことになるから」

「そっか、それでもすごいよ」


鬼殺隊での最年少は僕で、みんな大学生か社会人
基本的に社会人の場合は表向きの職業を持ちつつ鬼殺隊をやっている
勿論表向きの職業は建前上の話なので嘘だし、お館様の根回しは抜かりない
それに鬼殺隊は給料が出る、僕らは断ったんだけれど、お館様は前世でもそうだったのだからと頑なだった
だから鬼殺隊だけでも十分に食べていけるわけで、僕も今年で高校を卒業したら大学に進むか就職…というか鬼殺隊一本に絞るかまだ決めかねている
炭治郎は大学に通っていて、学業の傍らに鬼殺隊をしているのは同じなのでよく話す仲だ


「そういえば気になってたんだけど」

「ん?」

「祈里はどうしてるのかなって」


炭治郎から発せられた祈里という名前を聞いてハッとする
4年前に記憶を取り戻して前世であれだけ一緒だった祈里がこの世に居ないので必死に探した…でも彼女はどこにも居ない
最期まで一緒に戦って、来世では必ず幸せになろうと約束したのに僕は祈里を見つけることすら出来ていない
その事が悔しくて苦しくて…柱のメンバーからも励まされながら日々を過ごしている


「祈里は…まだ見つけれてないんだ」

「あっ…ご、ごめん…そうだよね、みんながみんな記憶が戻るわけじゃないって」

「うん、それに結構探し回ったんだけどどこにも居なくて…他のみんながいるんだから祈里もいるはずなんだけどなぁ」


ため息を吐くと炭治郎が眉を下げる
前世で僕らがどんな仲か知っている人はみんな気の毒そうに僕を見るんだ
僕だって僕自身を可哀想だなと思えるほどに落ち込んでいる
転生するとある程度元の年齢に近くはなるものの、少しはブレがある
だから祈里も僕と同じ高校生くらいなんだろうと推測して色んな高校を探ってみたけどそれらしき人は見当たらない

と、その時鬼殺隊に支給されている端末に任務の連絡が入る
僕は柱だからそれなりに任務量は多い
でも前世に比べれば大したことは無いし、犠牲0のためにも出来ることは頑張りたいんだ

炭治郎に別れを言ってから任務地のビルの屋上へ向かえば先着していた玄弥が待ってた


「時透さん、よろしくお願いします」

「もう、敬語使わなくていいよって言ってるのに」

「つい癖で」


玄弥は昨年記憶を取り戻して不死川さんに鬼殺隊に入りたいと懇願したらしい
この世でも兄弟喧嘩はあったそうだけど、今では不死川さんが折れ玄弥も鬼殺隊として頑張っている


「僕ら2人か…あの時を思い出すね」

「はい」


上弦の壱との戦い
僕らが前世で命を懸けたあの戦い
僕と玄弥は不死川さんと悲鳴嶼さんに託して命を燃やした

あの戦いには祈里もいた
ほぼ柱同然の祈里がいないことに他のメンバーも不思議がっていたけれど、どこかで幸せに過ごしてくれているのならそれもいいのかもしれない


「キャー!」


突如聞こえた悲鳴に玄弥と2人で駆け出す
鬼は神出鬼没、鬼殺隊の犠牲0を謳っていてもどうしても一般人の犠牲までは手が回らない
それでもできる限り守りたい、だから鬼の出やすい負のたまり場が検知されればそこに行って出現を待つ


「いました!」


玄弥の言うとおり狭く入り組んだ路地に鬼がいるのが見えた
なかなか大きい体をしていてそこそこの等級の鬼だと判断してから武器である刀を抜く

日輪刀とは違うが妖怪だとかそういうものを打ち祓う特別な刀らしい
この世でも呼吸が使えるようでこの4年の間に柱の僕らはかなりの努力をしてきた
自分たちが前世で極めた呼吸を再現するために必死になって、習得してからはそれを他のメンバーに教える
そうして呼吸を使える人が増えれば犠牲は減る
こうやって鬼殺隊はこの世でも広がってきたんだ


「玄弥、鬼の足止めは僕がするからその間に救出をお願い!」

「はい!」


見たところ1人の女の子が襲われてるみたいでビルの屋上を伝い鬼の頭上へとジャンプした


「霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り」


女の子へ迫っていた鬼の腕のようなものを切り落とし、着地してから刀を構え直す
背後で玄弥が女の子に声をかけるのが聞こえた
よし、僕はこのまま時間を稼いで玄弥が戻ってから2人で討伐を


「あ…あなた達は…?それにあれは一体何なんです?」


そこまで考えた僕の耳に襲われていた女の子の声が届く
その声はやけに聞き覚えがあって、僕も玄弥もハッとする

ゆっくりと振り向いた僕の目に映ったその女の子は間違いなく菜花祈里で、あのころと変わらない綺麗な緑の瞳を宿していた






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