もしもの未来




※無一郎&祈里生存if




上弦の壱との戦い、共に無限城に落とされた私と無一郎はすぐに合流することができたため共に挑んだ
互いが斬られそうになるともう片方が助けるという戦い方をして必死に食らいついたものの、防戦一方で苦戦を強いられた
そんな中、悲鳴嶼さんと不死川さん、それに玄弥がかけつけてくれたおかげで致命傷を負うことはなく勝利をおさめることができたのだ

しかし激しい戦いだったため私と無一郎は戦線離脱を余儀なくされた
その後、無限城の生存隊士は地上に押し上げられ、鬼舞辻無惨と炭治郎の最終戦を見届けた
みなが必死に戦い討ち取った鬼舞辻無惨の消滅によりこの世から鬼という存在が消えた

その後、ほどなくして鬼殺隊は解散となった
鬼がいなくなったのだから当然と言えば当然なのだが、幾分か寂しいものがある


「お前らどうすんだァ?」


最後の柱合会議の後、生き残った不死川さんと冨岡さんと共にきた蕎麦屋で無一郎と私はそう問われる
前々から未来の話はしていたけれど、こんな早くの未来は想像していなかったのだ


「そうですね…祝言を挙げて夫婦になって子を授かって」

「ゴフッ!」


不意打ちで無一郎から攻撃をくらって思わず蕎麦が気管に入る
しばらく咽せる私の背中を不死川さんがさすってくれて落ち着いてから無一郎を見れば、何事もないように蕎麦を啜っていた、信じられない


「…え?…ええ??」

「え、って…これまでにした未来の話だけど?」


どこに住もうかと話を進めていく無一郎におろおろしていると、不死川さんはフッと笑う
鬼がいなくなってから柔らかい表情を見ることが増えたけれど、玄弥を救えなかったことは私や無一郎の心にずっと残っていた

あの時、経験の差が出てしまい私達は不死川さんと悲鳴嶼さんがいなかったら上弦の壱に全く歯が立たなかった
玄弥の決死の協力もあって勝利はできたけれど、その後の鬼舞辻無惨との戦いの後、悲鳴嶼さんも亡くなってしまった
しのぶさんも、蜜璃さんも、伊黒さんも、一般隊士も…多くの人が亡くなってしまった

生きていることが幸せかと問われれば答えは否だ
命を懸けて戦ったけれど何の役にも立てなかったことへの引け目はこの先もずっと引きずっていくんだろう

無一郎のお屋敷に戻って隠のみなさんに鬼殺隊が解散となること、そしてこの先自分たちがどうするのかを伝え、みなさんには自由に生きてほしい旨を伝えた
守屋さんと向田さんはこの先も世話係を続けたいと引き下がってくれなかったのでその好意に甘えることにした

4人での暮らしはとても楽しかった
今までは身分が違うからと断られてしまっていた食事の同席も、ただの人となった今では気にせず行えているのでみんなで美味しいを共有している
それに私も無一郎も率先して家事を行い、守屋さんや向田さんに頼りっぱなしはやめようとしてきた

そんな暮らしを続け、18になった年に私と無一郎は祝言を挙げた


「祈里様、とてもお綺麗ですよ」

「ありがとう、守屋さん」


支度を手伝ってもらい、着物で着飾られた自分を鏡で見ると見違えるほど整えられていた
この4年で少しは大人っぽくなったものの、蜜璃さんのようにスタイルがよいわけでも、しのぶさんのように美しいわけでもない自分がここまで綺麗に飾ってもらえたのが嬉しい


「さあ、無一郎様もお待ちですよ」

「はい」


守屋さんに連れられ無一郎の下へ行くと、袴姿の彼がそこにいた
長い髪を一纏めにしたその姿はどことなくあの上弦の壱と似ていて血筋を感じてしまう


「無一郎様、惚けておらず何か仰ってください」


私を見てぽかんとしていた無一郎が守屋さんの言葉にハッとして私に1歩近づいた
4年前はほとんど変わらなかった身長も頭1つ分以上離されてしまい見上げないといけなくなっている
可愛らしい顔立ちだった無一郎は美形のまま成長し、今でもとても綺麗だ


「祈里…その…」

「ふふ、何?」


無一郎が照れていることくらいわかっているので良い笑顔で笑いかけると少し悔しそうに頬を膨らませる
こういうところは昔から変わらない
くすくすと笑うと、無一郎が観念したようにため息を吐いてから目線を合わせるように屈む


「とっても綺麗だよ」

「うん、ありがとう」


大好きな人に褒められると嬉しい
その後無一郎と共に向かった広間には炭治郎をはじめとした鬼殺隊の頃の仲間たち、そしてこの屋敷で一緒に暮らしていた隠のみなさんなどたくさんの人が私たちを出迎えてくれた

不死川さんと冨岡さんは痣の影響でもう亡くなってしまっているため不参加だが、亡くなるまでずっと文通は欠かさなかった
私も無一郎も最大残り7年しか生きられない、それでもいつの日かに無一郎と描いた未来は叶えたい
その思いで祝言を挙げることに決めたのだ


「おめでとう時透くん、祈里」

「祈里ちゃん!綺麗だよおおお!!」

「ピカピカのドングリだ!やるよ!!」


炭治郎や善逸、伊之助は相変わらず3人仲良くて、とても騒がしい
この騒がしさは久々なので無一郎と共に大笑いした




−−−−−−−−
−−−−




24になった
日に日に自分の体が弱っていくことが理解できた
おそらく私は25の誕生日まで持たないだろうとも

痣を発現させた時に覚悟をしていたので今更動揺することはない
けれど気がかりはある

ばたばたと聞こえてくる足音に筆を置けば、襖を開けてこちらを見る子供たちがいた
私と無一郎の子だ


「どうしたの?おいで」


体調を崩してからはほとんどの時間を寝て過ごすことが増えたため守屋さんや向田さんが私の部屋に行かないよう気遣ってくれたんだろう
子供達もその言いつけを守っているので、私が呼び入れると嬉しそうに顔を輝かせ入ってくる


「母さん、体調はどう?」

「今日はいつもよりいいの、きっと2人の顔を見れたからね」


さすが無一郎の子供というだけあって生まれたのは双子だった
男の子と女の子の双子なので顔はあまり似ていないけれど、どちらも無一郎に似て心優しく育っている

まだ6歳だというのに自分が6歳の頃よりも賢く、そして逞しい2人
この2人を遺して逝くことだけが心残りだった

自分たちが短命であると分かっていたので子をどうするのか何度も話し合い、悩みに悩み抜いて生んだ我が子たち
私や無一郎は子の存在に感謝しているけれど、残されるこの子達の心情を思うと忍びない


「ここにいたんだ」


ひょこっと顔を覗かせた無一郎
鬼殺隊をやめてからも鍛錬を続けていた無一郎は今日も稽古を終えたところらしい
私よりも早くに痣を発現したというのに元気そうな姿にホッとするような、格の差を見せつけられたような複雑な気持ちになる


「父さん!」

「あのね、母さん今日は調子が良いって!」


駆け寄ってきた我が子を抱き止める無一郎は時透のおじさんそっくりの笑顔で微笑む
子供達も無一郎にとてもよく懐いており、仲の良さは近所でも有名なほどだ

無一郎が私の机に目を向け、そこに書きかけの手紙があることに気が付く


「そうだ、守屋さんがおやつを用意してくれてたよ」

「「おやつ!!」」

「うん、行っておいで」


嬉しそうな声をあげて駆けていく我が子を見送ってから無一郎が部屋に入ってきた
床に座っている私の手をとり、縁側まで移動させてくれた後に横並びで庭を眺める


「この景色も随分見慣れたね」

「そうだね、よくここで最中を食べた…それに未来の話もたくさんした」


10年経ってもあの頃の日々は色褪せない
明日生きられるか分からない環境で必死に生き抜いてきた私には平和な日々は少し物足りなかった
平和が一番なのは重々理解している、それでもあの張り詰めた空気の中で無一郎と共に戦うことが好きだった

私が物憂げな顔をしていたためか、無一郎が顔を覗き込んでくる
環境は変わったけれど、彼への想いだけはどれだけ歳を重ねても変わらない


「ごめんね…先に逝くことになりそう」

「…そっか、寂しくなるな」


肩を抱き寄せられ、無一郎の腕におさまると安心する
昔から変わらない無一郎の香りだ


「無一郎は?体に変わりない?」

「うん、でもあれだけ丈夫だった炭治郎も病に倒れたと聞いたし僕も来年には迎えが来るんだろうなぁ」

「そっか」


覚悟はしていた、むしろあの時終わっていた命を延命してもらえたようなものなのだ


「この10年、とっても幸せだったよ」

「うん」

「やりたいことは全部やれた、もう悔いはない」

「っ…うん」


無一郎が私を抱く腕に力を入れた
彼は優しいから悲しんでくれているんだろう…でも私は少し早く逝くだけでまた会える

柱のみなさんや扇町の先生、時透のおばさん、おじさん、有一郎、お父さんに豆吉…お母さんも、みんなに会えると思うとつらくはない


「祈里…僕と生きてくれてありがとう」


その言葉に、頑張ってきてよかったなと心の底から思えた
自分を恨みもしたけれど無一郎がこんなに幸せそうな顔をしてくれるならその時間も必要だったと思える

手紙にその感謝の思いを綴り24の年の冬、私は息を引き取った
ああ、とても幸せな人生だったと穏やかな顔で旅立った私を無一郎は優しく見送ったという






戻る


- ナノ -