款冬華




※無一郎視点



「…祈里」


僕と鬼の間に立つ祈里に焦りが生まれる
祈里じゃこいつには勝てない、止めないといけない


『…小娘…』

「風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐!!」


今まで見てきた中で最も速い動きをした祈里だが、鬼は跳躍して避けた
祈里はそれを読んでいたのか鬼が着地する前に構え直す


「風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ!!」


隙を与えぬよう連撃を叩き込み続ける祈里は間違いなく柱に相当する強さを持っていた
でも僕らは経験が浅すぎるからこいつを殺すなら協力するしかない、単独では撃破できない


『そうか、風の呼吸…柱ではないな、しかし限りなく近い』

「お前に褒められても嬉しくないけどね!!」

『月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月』

「風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹!!」


鬼の斬撃を全て防いだ祈里に鬼は不思議そうな声を出す


『何故読んだ…柱でもない只の小娘が…』

「風の呼吸 玖ノ型 韋駄天台風!!」

『そうか…視えているのか…』


祈里の額に切り傷が入り出血した
血のせいで視界が狭まっているようだ


『風を読む者…会ったのは数人目だが…その年齢でここまでの才…お前も鬼になるか』

「なるわけないでしょう、鬼になるくらいなら死んでやる!!!」

『そうか…では…』

「っ」


視界が狭まっていた祈里は鬼に懐に入られる
斬られてしまう、祈里が殺されてしまう


「祈里!!!」


必死に叫ぶと同時に銃声が聞こえた、どうやら玄弥が放った弾丸だったようだ
でも鬼は玄弥の背後を取り、彼の左腕を斬り落とす


「玄弥ーーーっ!!!」


祈里が玄弥を守るために駆け出したが刀を抜こうとした玄弥の右腕も切断される


『ふむ…そうか…鬼喰いをしていたのはお前だったか』


そして玄弥の胴が切断された


「玄弥!!!!」

『まだ絶命しない…胴を両断されても尚…300年以上前…お前と同じく鬼喰いをしている剣士がいた…その剣士は胴の切断で絶命したが…お前の場合は首か…?貴様のような鬼擬き…生かしておく理由はない』


刀の柄を掴んだ鬼の前に立った祈里が玄弥を守ろうと刀を振るう、しかし斬られたのは祈里の右腕

刀を持ったままの祈里の右腕がごとりと地面に落ちる
そして鬼は表情1つ変えずにすさまじい勢いで祈里を壁に叩きつけた


「かはっ…!」


床に崩れ落ちた祈里の腹に鬼は彼女の刀を刺した
柄を掴んでいたままの祈里の右手は重力で落下し、彼女の隣にぐしゃりと落ちる


「祈里ーー!!!!」


腕を落とされるその光景は兄さんの最期を彷彿とさせる
僕も腕を斬られているけれどこのままでは祈里まで死んでしまう


『ほう、まだ生きるか…ならば先にこちらを』


祈里ではなく玄弥に向かって技を放った鬼
しかし突風が吹き荒れ玄弥は殺されずに助かり、鬼は距離をとる


『風の柱か…』

「その通りだぜ、テメェの頸をォ捻じ斬る風だァ!!」


玄弥を守ったのは不死川さんだった
自分を助けにきた不死川さんの姿に玄弥が目を見開く


「兄貴…」

「…テメェは本当にどうしようもねぇ弟だぜぇ
何のために俺がァ母親を殺してまでお前を守ったと思ってやがる…!!
テメェはどっかで所体もって家族増やして爺になるまで生きてりゃあ良かったんだよ
お袋にしてやれなかった分も弟や妹にしてやれなかった分も…お前がお前の女房や子供を幸せにすりゃあ良かっただろうが…そこには絶対に俺が鬼なんか来させねぇから…!」

「ごめん兄ちゃん…ごめん…」


不死川さんが来てくれたことにホッとする
倒れていた祈里は腹に刺さる刀を抜くために上体を起こす、その痛みに耐えながら柄を掴み引き抜いた


『ほう…兄弟で…鬼狩りとは…懐かしや…』

「…祈里、まだいけるかァ」


不死川さんの言葉に息を飲む
祈里に死んでほしくない、戦闘に参加させたくない
でもこんな磔にされている僕が止めることはお門違いだ
それに不死川さんは祈里の気持ちも、僕の思いも全て汲み取って祈里に声をかけたんだろう…声に葛藤が含まれている


「はい…っ!」


祈里は左手で刀を構え不死川さんの右斜め後ろで構える


「よくも俺の弟を刻みやがったなァ糞目玉野郎ォオ!!!許さねェ!許さねェ!許さねェェ!!!!!」


飛び出した不死川さんめがけ鬼が月の呼吸の技を繰り出す
それを祈里が風で相殺した隙に不死川さんが鬼の足元をくぐった
くぐりながら刻むも、鬼が宙へ避ける


「壱ノ型 塵旋風・削ぎ!!」


ドッと地面を抉る技で鬼へと一瞬で距離を詰めた不死川さんに鬼はようやく刀を抜いた
その刀身は目玉が埋め込まれておりギョロギョロと辺りを見渡している


「はァァ!こりゃあまた気色の悪い刀だぜェ!なァオイ!!」

「風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風!!」


祈里と不死川さんは違いの風を相殺しないよう立ち回り、うまく連携をとれている
2人の信頼関係だからこそ成り立つそれは誰が見ても凄まじい


「はッはアッ!振り無しで斬撃を繰り出しやがる!!祈里風を読め!」

「はい!!…来ます!」

「風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹!!」


不死川さんが鬼の技を相殺する
鬼もまたその姿を見て感心したような声を出した


『やりおる…肉体的にも技の…全盛と見た…そして小娘との連携…』

「おもしれぇ…!!おもしれぇぜ!!殺し甲斐のある鬼だ!!!!」


不死川さんが構える、出したのは爪々・科戸風
鬼はその技を刀で受け止め、月の呼吸で跳ね飛ばす
その隙に不死川さんが斬り込んだ

鍔迫り合いになっている間に不死川さんが足で器用にもう1本の刀を鬼の頭めがけ蹴り上げた、玄弥の刀だ
しかしそれは躱されたので鬼の背後上空を取った祈里が思いっきり刀を振る


「風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪」


完全に死角だというのに躱された、再び不死川さんと鬼の斬り合いになる
祈里が動けば動くほど斬られた箇所からドボドボと血が溢れておりその傷の深さが伺える
見ている分ではもう助からない、僕も祈里もここで死ぬんだ
さっきまであんなに未来を語ったというのに僕らはここで終わる

鬼と対峙する2人が押され始めた


「不死川さん!祈里!」

『古くは…戦国の…世だった…私は…このように…そうだ…風の柱とも…剣技を…高め合った

月の呼吸 陸ノ型 常夜孤月・無闇』


鬼が放った斬撃
不死川さんを守るため祈里が前に飛び出した


「…かふっ…」


彼女の口から空気の抜けたような音がする
祈里の体は肩からみぞおちにかけて深く斬撃を受けていた
ゆっくりと倒れていく祈里の姿に涙が滲む


「祈里!」


叫ぶことしかできず、駆け寄ることも許されない
どさりと崩れ落ちた祈里は呼吸をするのがやっとのようで苦しそうにしている
斬られたところから血が滲み僕があげた羽織が赤に染まっていった


『ふむ…邪魔が入ったが…お前にも技は入った…動けば…臓物が…まろび出ずる…』

「…よくも…よくも祈里を!!」


斬られたというのに不死川さんは凄まじい剣技で鬼を圧倒した


「猫に木天蓼、鬼には稀血!オイオイどうしたァ?千鳥足になってるぜぇ!上弦にも効くみてェだなァこの血は!!
俺の血の匂いで鬼は酩酊する!稀血の中でもさらに希少な血だぜ!存分に味わえ!!」


不死川さんの猛撃が始まった
稀血、それは鬼を酔わせる特別な血のこと
その血を持つ人物を食べた鬼は強靭な力を得ると聞いている


『どちらにせよ人間にできて良い芸当ではない…初見なり…面白い…微酔う感覚もいつ振りか…愉快…さらには稀血』


鬼は不死川さんの刀を足で踏みつけ地面に押し付ける
引っ張られ体勢を低くした不死川さんの首めがけ刀を振り下ろした

しかしそれも不死川さんが左手にもつ玄弥の銃により受け止められ、至近距離から弾丸を浴びる
それですら傷がつかない、絶体絶命かと思えたその瞬間、不死川さんを救い加勢に入ったのは悲鳴嶼さんだ


『次々と降って湧く…』

「我ら鬼殺隊は百世不磨、鬼をこの世から屠り去るまで…不死川、腹の傷は今すぐ縫え、その間は私が引き受ける」

「はい、すみません」

「それと菜花に最期の時を」

「…はい」


傷口を縫った不死川さんは呼吸もままならない祈里を部屋の端に寝かせてくれた
血を流し瀕死の祈里は痛々しくて、僕は涙が出そうになるのを堪えた


「(動け…動け!!!)」


不死川さんが祈里を横たわらせた様子を見て僕も息を吸い自分の体を刀ごと支柱から引き抜く
それだけでもかなり呼吸は乱れるが僕はやらなきゃいけない
ひと呼吸をしてから肩に刺さったままの刀を引き抜いた






戻る


- ナノ -