芹乃栄




無一郎と2人で寄り添って語らっていた幸せな未来
その最中来た通達


「緊急招集ーーッ!!緊急招集ーーッ!!!」

「産屋敷邸襲撃ッ!産屋敷邸ガ襲撃!」


銀子と颯のその言葉に私と無一郎は同時に刀を取って駆け出す
おそらくお館様の屋敷を囲むように構えている各柱の屋敷から各々が向かっているはずだ

お館様の屋敷まで山を、森を駆け抜け近づいてきた時
凄まじい爆発音と共にお館様の屋敷が爆発した


「そんな…っ!!」


あまりの爆発により火事となっているその光景
一瞬足を止めてしまったけどすぐに駆け出し屋敷へ向かう

まだ爆発しただけかもしれない、お館様は生きているかもしれない
わずかな望みの中開けた視界、そこには棘を生やした男の姿


「無惨だ!!鬼舞辻無惨だ!!奴は頸を斬っても死なない!!」


先に到着していた悲鳴嶼さんの言葉を聞いて息を飲む
私たちと同時に到着した他の柱と共に構えに入る


「(風の呼吸 壱ノ型)」


けれど私たちの刀が届く前に足元が襖のように変貌を遂げた、床が抜けたことに一斉に落下していく柱たちと私、そして冨岡さんと共にいた炭治郎

そこは上下左右めちゃくちゃな空間で、おそらく血鬼術の類だろう、落下しつつもなんとか手を引っ掛けて近くの足場に移る
傍にいたはずなのに無一郎とは別の場所に来てしまったらしい
辺りを見渡すと鬼が無数に待ち構えている


「…邪魔しないで」


早く無一郎のところに行かないといけないのに邪魔をするな


刀を振るい風が導く方へ駆ける
こんな異空間でも風は私を味方してくれているんだ
たまたま視えた体質だったけれどこれまで何度も命を救ってくれたこの力には感謝しかない


「祈里!無一郎コッチ!!」

「颯?!」


どうやら颯もここに入ってしまったらしい
こんな危険なところまで来てくれたことに感謝しつつ颯が導く方へと駆ける
すると前方から見慣れた鴉が飛んできた


「祈里!!」

「銀子?」


涙をぽろぽろと流す銀子の姿に刀鍛冶の里のことを思い出す、あの時も無一郎の危機に彼女は私へ助けを求めてきた


「アノ子ガ上弦ノ壱に殺サレチャウ!!!」


上弦の壱という言葉に目を見開く
上弦の参の猗窩座よりも高い階級の者と無一郎が対峙しているらしい


「銀子!無一郎はどこ?!」

「コッチヨ!!!」


全速力で飛ぶ銀子を追いかけこの異空間の建物を飛び移る
ドクンドクンと嫌に心臓がうるさい、嫌な予感が止まらない


「アソコヨ!!!」


銀子の指す先は襖が開いた部屋
この空間は上下左右の感覚がおかしいから真横に入ったはずなのにこの部屋の天井に繋がっている


「(無一郎!)」


部屋の支柱に串刺しにされている無一郎と、彼の前に立つ鬼を見て激しい怒りが込み上げた
血を滾らせろ、心を燃やせ、あの憎き感情を思い出せ

全身の熱が上がり心拍数が上昇する
いつもより集中力が増した気がした、多分痣が出たんだろう

落下しながら刀を抜き振りかぶる


『止血は…しておこう…人間は脆い…しかし仮に…失血死したとしても…あのお方に認められず…死んだとしても…死とはそれ即ち宿命…故に…お前はそれまでの男であったということ…』

「お前が無一郎を語るな!!」


放った技を躱した鬼の顔を見れば、そこには目が6つ並んでおり上弦の壱と描かれていた
目の前にしての恐怖よりも怒りの方が強い


「…祈里」

『…小娘…』


無一郎がこんな姿にされているということは相当この鬼が強いということ
柱稽古で習ったことを全て出し切るために刀を強く握った


「風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐!!」


持てる最大の速さで出した技
それを跳躍してよけた鬼の着地を狙って駆け出す


「風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ!!」


相手に隙を与えぬよう連撃を叩き込み続ける
時間を稼げばここに柱が来る確率も上がる
無一郎1人でも手も脚も出ないなんで柱が何人いるだろうか


『そうか、風の呼吸…柱ではないな、しかし限りなく近い』

「お前に褒められても嬉しくないけどね!!」


間違いなく先ほどから私の攻撃を弾いているはずなのにその動作が速すぎて目で捉えられない
その瞬間、ゾワリとした感覚がしたので急いで息を吸う


『月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月』

「風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹!!」


相手の斬撃を全て防いだ私に鬼は少し考え込むような顔をした


『何故読んだ…柱でもない只の小娘が…』


鬼が私を見据えている間に跳躍し宙で体勢を整える


「風の呼吸 玖ノ型 韋駄天台風!!」


直撃したはずの大技
不死川さんから教わり覚えた新しい技が入った
重力により地に向かって落下していく私は再びゾワリとした気配を感じ取る


『そうか…視えているのか…』


背後から聞こえる声、振り向く私の目前に迫るそれをギリギリのところで躱わすも額を斬られたようで流血する


『風を読む者…会ったのは数人目だが…その年齢でここまでの才…お前も鬼になるか』

「なるわけないでしょう、鬼になるくらいなら死んでやる!!!」


一瞬で私の間合いに入ってきた鬼が間近で見下ろす
6つの瞳が私を捉え、冷たく射抜いた


『そうか…では…』

「っ」


速すぎて反応が遅れた…まずい、斬られる


「祈里!!!」


無一郎の声が遠くのように思えた
思い出すのは今までのこと、ああこれが走馬灯というやつか


「(思ってたよりも楽しい人生だったなぁ…)」


覚悟を決めた瞬間、どこからか銃声が聞こえた

聞こえた銃声
どうやら玄弥が放った弾丸だったようだ
でも鬼は玄弥の背後を取り、彼の左腕を斬り落とす


「玄弥ーーーっ!!!」


無一郎の叫びが聞こえる
私は玄弥を守るために駆け出した


「(間に合え)」


刀を抜こうとした玄弥の右腕も切断される


「(間に合え!)」


このままじゃ玄弥が殺されてしまう
不死川さんのためにもそれだけは絶対に駄目だ


『ふむ…そうか…鬼喰いをしていたのはお前だったか』


玄弥の胴が切断された


「玄弥!!!!」

『まだ絶命しない…胴を両断されても尚…300年以上前…お前と同じく鬼喰いをしている剣士がいた…その剣士は胴の切断で絶命したが…お前の場合は首か…?貴様のような鬼擬き…生かしておく理由はない』


刀の柄を掴んだ鬼の前に立ち玄弥を守ろうと刀を振るう
しかし斬られたのは私の腕


「(血で風が…視えなか…っ!)」


真正面なのに一切見えなかったのは先ほど斬られた額からの血が視界を狭めたせいだ、この鬼はそれを予期して額を斬ったんだろうか
刀を持つ私の右腕が斬り落とされごとりと地面に落ち、そのまますさまじい勢いで壁に叩きつけられた


「かはっ…!」


床に崩れ落ちた私の腹に刀が刺さる
痛みに目線を下げれば手放したはずの私の刀が床に縫い付けるよう刺さっており、切り離された自分の右腕が重力に従いこちらへ向かってべしゃりと落ちてきた


「祈里ーー!!!!」


無一郎の叫びが聞こえる
痛みはあるけどまだ動ける、刀を抜こうと柄に手を伸ばすが、傷口を抉らなければ届きそうにない


『ほう、まだ生きるか…ならば先にこちらを』


玄弥に向かって技を放った鬼
しかし突風が吹き荒れ玄弥は殺されずに助かり、鬼は距離をとる


『風の柱か…』

「その通りだぜ、テメェの頸をォ捻じ斬る風だァ!!」


玄弥を守ったのは不死川さんだった
自分を助けにきたその姿に玄弥が目を見開く


「兄貴…」

「…テメェは本当にどうしようもねぇ弟だぜぇ
何のために俺がァ母親を殺してまでお前を守ったと思ってやがる…!!
テメェはどっかで所体もって家族増やして爺になるまで生きてりゃあ良かったんだよ
お袋にしてやれなかった分も弟や妹にしてやれなかった分も…お前がお前の女房や子供を幸せにすりゃあ良かっただろうが…そこには絶対に俺が鬼なんか来させねぇから…!」

「ごめん兄ちゃん…ごめん…」


彼が来てくれたことにホッとしつつ自分の腹に刺さる刀を抜くために上体を起こす
傷口がぐちゅぐちゅと抉られていく痛みに耐えながら柄を掴み引き抜いた
血が溢れるけれど、それを呼吸で止血し立ち上がって鬼を睨みつける


『ほう…兄弟で…鬼狩りとは…懐かしや…』


私が立ち上がったことに気がついた不死川さんが静かに口を開く


「…祈里、まだいけるかァ」


無一郎は支柱に磔にされ、玄弥は体の再生まで時間がかかる
本当は私も参戦させたくないんだろう、不死川さんの声は葛藤を含んでいた

この人は優しいから、私に生きてほしいと願うから守ってくれようとする
でも私は鬼殺隊の一員だ、人を守るためにここにいる
死ぬのなら貢献してから死ね、誰かに思いを繋げ


「はい…っ!」






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