蟄虫坏戸




その後、2人と一緒に無一郎の様子を見に行くことにした
絡繰と戦う無一郎の動きは素早く、しなやかだ
そしてあの絡繰人形も無一郎を相手に戦えている、すごい


「柱相手に…すごい」

「あれが俺の先祖が作った戦闘用絡繰人形”縁壱零式”です」


縁壱零式というそれは手が6本あり、その手1つ1つに刀を握っている


「手が6本あるのは何で?」

「腕ですか?父の話によるとあの人形の原型となったのは実在した剣士だったらしいんですけど、腕を6本にしなければその剣士の動きを再現できなかったからだそうです」


そんな人間離れした剣士が実在したことにギョッとした
そんな人が鬼殺隊にいたら鬼も怖くて出てこれないだろうと思う


「その剣士って誰?どこで何してた人?」

「あっすみません俺もあまり詳しくは…戦国の世の話なので」

「せ、戦国!?」

「そんな、300年以上昔なんだ…!」

「そう聞いています」


今は大正、戦国時代はあちこちで戦が起こっていたから剣士…というか武士が多かったと聞いているけど、それにしたって腕6本分の強さは段違いすぎる


「そんな長い間壊れてないの?あの人形」

「すごい技術なので今の俺たちでも追いつかないんです…壊れてしまったら…もう直せない
親父が急に死んじゃって兄弟もいない…俺がちゃんとやらなきゃいけないのに…刀にも絡繰にも才能ないから…」


急に1人になる怖さや寂しさは知っている
自分がしっかりしなきゃと追い込むけれど立ちはだかる壁が分厚く、高いことも

男の子の頭を撫でると、少し驚いたような反応をしてから「さっきは押してごめんなさい」と告げるので微笑む
この子は強い子だ、ちゃんと謝れるのはとても偉い


「それにしても…あの人すごいな…俺とそんなに歳も違わないのに…柱で、才能があって…」


無一郎を眺める炭治郎の呟きにどう言葉を返そうかと思っているとバサバサという羽音と共に頭に重みを感じた


「ソリャア当然ヨ!」

「う…銀子…!」


人の頭を巣のように扱わないでほしい、と遠い目をする私の頭上に炭治郎と男の子が目を向ける
そこにはドヤ顔をした銀子がいるんだろう、見えないけど声でわかる


「アノ子ハ日ノ呼吸ノ使イ手ノ子孫ダカラネ!アノ子ハ天才ナノヨ、アンタタチトハ次元ガ違ウノヨ!ホホホホホ!」

「時透くんの鴉かい?日の呼吸って始まりの呼吸の…あの子はそんなにすごい人なのか」


フフンと誇らしげな銀子に呆れていると今度は颯が飛んでくる


「マタ祈里ニ悪サシテルノ?!ヤメテヨ!」

「オ黙リオチビ!アンタノ主ガフラフラホッツキ歩イテルノガイケナイノヨ!」

「痛っ」

「祈里ー!」


銀子に頭を突かれ、腕に留まった颯はおろおろしているという光景に男の子は唖然としていた
そりゃそうだ、当の本人の私だって頭を抱えたいんだもん


「でも日の呼吸じゃないんだね、使うの」


そう告げた炭治郎
そのことが癇に障ったのか、彼の頬を嘴で掴んだ銀子は力強く引っ張る


「黙ンナサイヨ!目ン玉ホジクルワヨ!!」

「ちょ、銀子やめなって!」


慌てて止めに入ると銀子は炭治郎の肩に留まった
私の腕に留まっている颯が恨めしい目をして銀子を睨んでいる
普段から口喧嘩でも勝てない颯からすれば銀子は目の敵なんだろう


「ハッ!思い出した!夢だ!俺あの人を夢で見た!」

「夢?」


何かを思い出したように炭治郎がハッとするので私は首を傾げた
夢と言えば無限列車のことを思い出してしまい少し心が痛む


「ハァー?バッカジャナイノアンタ、コノ里ニ来タコトアンノ?非現実的スギテ笑エルワ!
戦国時代ノ武士ト知リ合イナワケ?アンタ何歳ヨ?ケッ!」


銀子の容赦ない口撃に炭治郎はズーンと落ち込む


「なんかごめん…俺おかしいよね…」

「たっ、炭治郎元気出して!ね?」

「そうですよ、それは記憶の遺伝じゃないですか?うちの里ではよく言われることです
受け継がれていくのは姿形だけではない、生き物は記憶も遺伝する…あなたが見た夢はきっと御先祖様の記憶なんですよ!」

「優しいね、ありがとう」


ケッと悪態をつく銀子の嘴を摘んだ
これ以上は流石に酷すぎる、というかほんと口悪いなこの子


「俺炭治郎、こっちは祈里、君の名前は?」

「俺は小鉄です、意地の悪い雌鴉なんて相手にしなくていいですよ」


するとまた銀子が抗議しようとしたので押さえつけるも、何かが崩れる音がする
どうも無一郎の刀が絡繰を壊したようだ
それを見て小鉄くんは駆け出してしまった
追いかけようとするも、銀子に髪を引っ張られる


「アンタハアノ子ノ番ナンダカラ傍ニイナサイ!」

「いだだだ!!」

「番!?」


ぎょっとした顔で私を振り返った炭治郎は無一郎と私を交互に見て顔を赤らめている


「ソウヨ!不服ダケドネ!コンナ小娘ノ何ガイイノカシラ!?」

「(言ってることが姑だ…)」


おばさんはもっと優しかったのに、銀子は完全に嫌な姑だ
銀子に引っ張られる私を見て炭治郎は眉を下げて笑う


「小鉄くんのことは俺に任せてくれていいから、祈里はここにいてあげなよ」

「でも…」

「デモジャナイ!」

「痛いってばー!」


銀子の荒々しい行動に押し負け炭治郎を見送る
縁壱零式と呼ばれていたそれはもう直ぐ壊れるだろう
無一郎が望むことは尊重してあげたい、でも裏には小鉄くんの涙もあって…


「(難しいな…)」


その後すぐに無一郎は絡繰を倒した
しかし無一郎の白い刀は折れてしまっている


「…これでいいか」


バキッと絡繰の腕を1本もぎ取った無一郎に声にならない叫びをあげた
小鉄くんが大切にしているものをこんな風に壊すのは忍びないのだ


「何してるの!」

「何って…刀折れたから代わりに」

「っ」


確かに無一郎の刀が直るまでは仕方ないかもしれないけど、腕ごともぎ取らなくてもよかったんではないかと心配で絡繰の様子を見る
動きはしないそれに先ほどの小鉄くんの言葉を思い出した


「行こう祈里」

「あ、ちょっと待ってよ」


宿に向かってスタスタと歩く無一郎を慌てて追う
私の両肩に乗っている銀子と颯がやいのやいの言い争いをしているのでげっそりしていると、前から炭治郎と小鉄くんが歩いて来た


「えっ?終わったんですか!?」

「終わった、いい修行になったよ、誰だっけ…あっそうか…俺の刀折れちゃったから…この刀もらっていくね」


絡繰の腕がついたままの刀を見せた無一郎
小鉄くんは慌てて絡繰の下へ駆けて行く
そして無一郎は炭治郎に元の刀を渡した


「それ処分しといて」


冷たい物言い
でも無一郎を放っておくわけにはいかなくて、炭治郎にごめんねとジェスチャーしてから彼を追った

無一郎に追いつくと、彼は私の手を絡めとる


「さっきの子と知り合いなの?随分仲良さそうだったけど」

「炭治郎のこと?ほら、前に任務で一緒で…煉獄さんの時の…」

「ああ…そういえばそんなこと言ってたっけ」


フラッシュバックしたあの時のこと
目を伏せる私に無一郎はまた前を向く


「無理に話さなくていいよ、祈里のその顔は嫌だな」

「…うん、ありがとう」


無一郎は覚えていないだけで私はあの日のことを全て彼に話している、炭治郎のことももちろんだ
そして煉獄さんが最期に残した言葉も全て

覚えていない彼に何度もこの話をするのが辛い
それを察してくれたのかもしれない

無一郎はやっぱり優しい…誰がなんと言おうと私はそう思う






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