雷乃収声




里に来た翌日、無一郎は自分の目的を果たすために里を見て回ると告げ出て行ってしまった
そして私は自分の刀鍛冶である鋳型さんの家へと案内されていた


「菜花殿!わざわざ御足労いただき申し訳ない!!」


ドンッと畳にめり込むほどに勢いよく頭を下げた鋳型さんに私は息を飲んだ
お面をつけているとはいえ今のは確実に痛い、というか畳凹んでる…


「い、鋳型さん顔をあげてください!というか怪我してませんか!?すごい音がしましたけど…ってほら!お面ヒビが入ってますよ!!」

「これはこれは…お見苦しい姿を見せてしまい面目ない、刀はもう数日で出来上がるので今しばらくお待ちいただきたい!!」

「わ、分かったので頭を打ちつけないでください!!」


恐怖を感じつつも鋳型さんを止めて向き合う
すぐそこには私の刀があって、今は研ぎの段階らしい
それが終われば私の刀に入っている彫刻を施して完成だそうだ


「すみません、彫刻などかなり厄介でしょうに」

「いやいや、菜花殿の刀に相応しい繊細な一振りです故」

「私、繊細…ですかね?」

「風の呼吸の適応者は荒々しいと称されておりますがそんなことはないと思っています、風とは優しくもあり激しくもある、それはとても繊細なものであると私は思います」


風のことをそんな風に思っている人は初めてだったので呆気に取られた
確かに言われてみればそうかもしれない


「引き続きよろしくお願いいたします、刀楽しみにしてますね」


鋳型さんの力強い返事をもらって宿に戻った




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翌々日

無一郎についてやって来たのは里の離れにある森の中
どうやら探し求めていたものを見つけたらしい

歩いて行くとそこには大きな人形と1人の男の子の姿


「しつこいな!また来たのか、いい加減にしろ!」


無一郎を見てそう叫んだ男の子にポカンとしていると、無一郎はため息を吐く


「君こそいい加減にしなよ、押し問答している時間がもったいないだろ」


「ヤダったらヤダよ!帰れよ!何でお前に渡さなくちゃならないんだ!
柱だかなんだか知らないけど勝手なんだよ!早くどっか行けよ!」


これはまた随分と嫌われているようだ
事情を知らないのでどうしようかとわたわたしていると、無一郎が男の子に手を差し出した


「ほら鍵」

「渡さない、これは俺の先祖が作った大事なものなんだ!
どっか行けよ!何があっても鍵は渡さない!使い方絶対教えねえからな!」


どうやら無一郎はこの絡繰人形を動かすための鍵がほしいらしい
それをこの男の子が持っているということだろう
どう仲裁しようかと思案していると、小鉄くんの首を無一郎が手刀で弾いた
そしてそのまま彼の胸ぐらを掴み上げる


「ぐっ…うう…」

「ちょっと無一郎!」

「やめろー!何してるんだ!手を放せ!!」


慌てて止めようとした私に加勢するように聞こえた声
そちらを見ると炭治郎がいた


「炭治郎…?!」

「声がとてもうるさい…誰?」

「子供相手に何してるんだ、手を…!」


無一郎の腕を掴んだ炭治郎、しかし解くことはできないのか驚いている
細い腕でも無一郎は柱だ、その力は凄まじい


「君が手を放しなよ」


無一郎は今度は炭治郎のみぞおちに肘を入れた
蹲っている炭治郎に慌てて駆け寄る


「炭治郎大丈夫?!…っ、無一郎やりすぎだよ!」

「何で祈里が怒るの?…それに君すごく弱いね、よく鬼殺隊に入れたな
ん?その箱変な感じがする…鬼の気配かな…何が入ってるの?それ」


禰󠄀豆子の入っている箱に手を伸ばす無一郎の手を炭治郎が「触るな…!」と告げ叩いた
その表情は怒りに満ち溢れている

叩かれた手を呆然と眺める無一郎
その間に私は男の子を救出した


「大丈夫?」

「は…放せよ!あっち行け!」

「わわっ」


ドンッと押されて尻餅をつくと、男の子は「あっ」とバツが悪そうな声を漏らしてから背を向けた


「誰にも鍵は渡さない、拷問されたって絶対に…これはもう次で壊れる!」

「小鉄くん…」


眉を下げると、無一郎が私を立ち上がらせる
その目は冷たく男の子を見下ろしていた


「祈里に何してるの、せっかく君を心配してくれたのにさ」

「ひっ」

「それに拷問の訓練受けてるの?大人だってほとんど耐えられないのに君は無理だよ、度を越えて頭が悪い子みたいだね
壊れるから何?また作ったら?君がそうやってくだらないことをぐだぐだぐだぐだ言ってる間に何人死ぬと思っているわけ?
柱の邪魔をするっていうのはそういうことだよ、柱の時間と君たちの時間は全く価値が違う、少し考えれば分かるよね?」


久しぶりに見たド正論攻撃に私まで口を噤む
こういう時の無一郎は有一郎そっくりだ


「刀鍛冶は戦えない、人の命を救えない、武器を作るしか脳がないから
ほら鍵、自分の立場をわきまえて行動しなよ、赤ん坊じゃないんだから」


男の子に手を伸ばす無一郎の手のひらを、パチンと炭治郎が叩いた


「何してるの?」

「こう…何かこう…すごく嫌!!なんだろう配慮かな!?配慮が欠けていて残酷です!!」


わなわなと震える炭治郎に私は呆気に取られる
無一郎にこうも真っ向から反論する人を見たのが初めてだからかもしれない


「この程度が残酷?君…」

「正しいです!あなたの言ってることはおおむね正しいんだろうけど、間違ってないんだろうけど
刀鍛冶は重要で大事な仕事です!剣士とは別のすごい技術を持った人たちだ、だって実際刀を打ってもらえなかったら俺たち何も出来ないですよね?
剣士と刀鍛冶がお互いがお互いを必要としています、戦っているのはどちらも同じです
俺たちはそれぞれの場所で日々戦って…」


炭治郎の言うことは正しい、私たちは刀なしに鬼へは対抗できない
事実私も刀を直してもらうまでは任務に出ていない
しかし炭治郎の話を遮るように無一郎は「悪いけど」と声を出す


「くだらない話につきあってる暇ないんだよね」


直後、炭治郎にも手刀を入れほぼ強引に鍵を持って行ってしまった
無一郎はスタスタと歩いて行くけれど、気絶している炭治郎を放っておけなくてその場に留まる


「炭治郎、大丈夫?」

「うわあああっどうしよう!」

「おいお前ら」


足音が聞こえて振り向けば、そこには刀鍛冶さんがいた
随分と身長の高いその人に圧倒されていると男の子が「鋼鐵塚さん!?」と名を呼んだ
誰だろうかと思っていると、鋼鐵塚さんは炭治郎を運ぶと言い始める


「私が運ぶので大丈夫ですよ」

「いや俺が運ぶ、もう少しして起きなきゃ…」


すると私の腕の中で炭治郎が唸り声を上げる
さすが鍛えているだけあって気絶してから復帰までが早い


「まぶたがピクピクしだした、こいつ起きる!」

「そりゃあ起きますよ」

「じゃあな!」

「え」


何故か逃走した鋼鐵塚さん
一体何なんだあの人と呆れていると炭治郎が目を開けた


「鋼鐵塚さんいた?」

「えっ」

「今ここにいなかった?」

「それなら…ムグッ!!!」

「いえ!いなかったですよ!」


私の口を押さえ誤魔化す男の子
鋼鐵塚さんがここにいたらまずい理由でもあるのかと疑問だらけだが面倒なことになりそうなので触れないことにする






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