玄鳥去




10月末

無一郎とお付き合いをするようになってから2ヶ月半の歳月が過ぎる
付き合ってからも何かが変化したということはない

いつも通り立ち合いをして、任務には一緒に行って、共に食事を摂る
心臓がもたないので寝る部屋はやっぱり分けてもらうことにしたけど、ほとんどの時間を共にしていた

無一郎と任務を共にしていると彼がどんな動作をするかがわかるようになっていた
戦いの最中、相手の邪魔にならないよう立ち回ることはとても重要だから注意深く見ていたのだけど、最近は彼の考えていることがなんとなく理解できるようになった

そしてこの間に上弦の陸が討伐されたとの報告もあった
9月ごろだっただろうか、音柱の宇髄さんが炭治郎、伊之助、善逸と共に討伐したそうだ
つまり無限列車の一件から強くなっていないのは私だけとなっている


「祈里様、羽織の修繕が終わりましたよ」

「ありがとうございます!」


無一郎からもらった羽織はもう何度も修繕を繰り返していた
戦いに行くのだから当然だが傷つくことも多い
そしてそれは私の刀も同様だった

今私の刀は刀鍛冶の鋳型さんにより直してもらっている
先日の戦闘でものの見事に折れてしまったのだ、せっかくの刀を駄目にして申し訳ない


「先の戦いはかなり激しかったんですね、霞柱様も少々怪我をされていましたから」

「はい…ここ最近鬼の猛威が強まっているようで…」


刀が折れた私は任務には行けない
無一郎も最近任務続きだったので休養としてお屋敷にいるけど、怪我は大丈夫だろうか


「あら、噂をすれば」

「祈里、いる?」


ひょこっと顔を覗かせた無一郎に守屋さんがにこにこと微笑む
このお屋敷の隠の方々には私たちの関係は知れ渡っているのでちょっと気恥ずかしい


「無一郎どうしたの?」

「明日からしばらく刀鍛冶の里に行こうと思うんだけど…祈里も刀を受け取りに行く?」

「刀鍛冶の里…そういえば行ったことがなかったなぁ」


刀鍛冶の里、それは字の通り刀鍛冶の方が住んでいる里のことだ
鬼殺隊士にとって必須の日輪刀を造る職人たちの集まる場所であるので基本的に里の場所は隠されている
そこへ行くには許可が必要なのだが、無一郎は柱だから彼が許すのなら私も許可されたということだろう


「鋳型さんに挨拶もしたいし行こうかな」

「わかった、じゃあ明日立つから準備しておいてね」

「うん」


内容を聞いた守屋さんは「今日の夕飯はお2人の好物にしますね」と言う
無一郎が何の目的で刀鍛冶の里に行くのかは知らないけど少し長期の滞在となりそうだなと思い頷いた




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翌々日

刀鍛冶の里に到着した
目隠しをされていたため具体的な場所はわからないけど山奥のようで空気が澄んでいる

隠の人を何人も替えて運んでもらったのだがどうやら丸1日は経過しているようだ
まずはこの里の長である鉄珍様のところへ挨拶に伺う


「ワシこの里の長の鉄地河原鉄珍、よろぴく」


刀鍛冶の人特有のひょっとこのお面を被っている鉄珍様の傍にはお付きの人が控えている
勿論その方たちも同じようにお面を被っているので表情は見えない


「里で一番小さくって一番えらいのワシ、まあ畳におでこつくくらいに頭下げたってや」

「菜花祈里です、よろしくお願いいたします」

「時透無一郎です」


本当に畳すれすれまで頭をつけて挨拶をする私と、ぺこりと軽く頭を下げるだけの無一郎
その対比が面白かったのか鉄珍様はけたけたと笑った


「聞いとるよ、研磨の刀のお嬢さんじゃろ」

「研磨…?」


誰だと思い首を傾げると、鉄珍様が「鋳型研磨じゃよ」と言うので、鋳型さんのことだと合点がいく


「あっ、すみません、鋳型さんの刀を折っちゃって…」

「いやいや、まだまだ研磨の技術が足りとらんだけじゃよ
だからあのアホンダラのせい、お嬢さんが謝ることじゃない」


仮面の下はわからないけれど鋳型さんに対する怒りのようなものを感じ顔が引き攣る
職人さんは怖いと聞いたことがあるけど、こういうことかと納得した

鋳型さんは最終選別の後で先生のお屋敷に戻った私に刀を届けてくれた際に会っている
あれ依頼一度も刀が折れたことはなかったけれど、何度か研ぎ直してもらってるので数回はお会いしている
仮面をつけていたので声しか知らないけれど、比較的若いお兄さんだった気がする


「研磨の家なら明日案内させよう」

「ありがとうございます」

「して、霞柱殿は何故この里に?」


鉄珍様が無一郎を見る
彼の刀は折れたわけでもないので不思議なのだろう


「この里に強くなる秘訣があると聞いて…何か知りませんか?」

「ふむ…知っておるか?」

「いえ」


鉄珍様がお付きの人に尋ねると2人とも首を横に振る
無一郎がこの里に来た理由を初めて聞いたけれど、彼はまだ強くなるつもりらしい


「力になれんですまんのう…気が済むまでゆっくりしてってや」


鉄珍様は私たちに長期滞在の許可を下さった
無一郎の目的のものがどこにあるのかはわからないけれど、この滞在期間に見つかるといいな

案内されたのは里にある温泉
様々な痛みに効果があろうそうで、私もゆっくりと浸からせてもらう


「はー…極楽極楽」

「それ年寄りみたいだよ」

「失礼な、私はまだ14ですよー」


いつものように無一郎の声が聞こえたので自然な流れで返したけれど、待ってくれ
ここは温泉、一応手拭いを巻いているとはいえほぼ裸
当たり前のようにちゃぷんと温泉に浸かった無一郎は長い髪を団子上に一纏めにしており可愛らしいがちょっと待ってくれ


「む、むむむ、無一郎!?」

「そんなに驚くこと?」

「驚くよ!ここ女湯だよ!?」

「いや、この温泉混浴だけど」


ヒェと情けない声が出た
確かに言われてみれば先ほどの案内役の方も「客人が使用されていると人払いしております故」とか何とか言ってたような気がする

1人分くらいの間を空けて同じ温泉に浸かっているこの状況に緊張してしまうが、無一郎はぽけーっとしているので何とも複雑だ


「これから温泉に入る時は必ず僕と一緒ね」

「え」

「他の男と入るなんて許さないから」


不敵に微笑む無一郎は温泉のせいかとても色気があって目に毒だ
背を向けた私の耳が赤いのを見た無一郎は満足そうに瞼を閉じた






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