桐始結花




14歳

春に開催された柱合会議
そこで鬼殺隊士でありながら鬼の妹を連れる少年の裁判があったそうだ
結局お館様が許したため今は蝶屋敷にいるらしい

そんなとんでもない話を夕飯を食べている時に告げた無一郎は興味がなさそうだ


「え、鬼…お館様が許した…?」

「うん」


もぐもぐと焼き魚を食べる無一郎
対して私はあまりの内容に食欲がなくなる

自分にとって鬼は何が何でも相容れない存在だ
お父さんのように平等なんて思えないし、鬼を見ると心が冷えていく
鬼殺隊は鬼を狩るはずなのにどうしてそんな特例を許したんだろうか
お館様に会えるのは柱のみなので私にはその真意は知り得ない

無一郎が興味をなくしたようにしているのもお館様が許したからだろう
それほどまでにお館様は柱から忠誠を誓われている


「無一郎、明日から長期任務だっけ」

「そうだよ、しばらく帰ってこないけど…祈里もついてくる?」

「ううん、私も任務あるし…ふろふき大根を作って待ってるから帰ってくる時は連絡してね」

「うん」


翌朝、無一郎が任務に出かけた私も毎朝の稽古を行ってから守屋さんに蝶屋敷に行くことを告げお屋敷を出た
鬼連れの隊士がどんな人なのか、そして特例をもらった鬼がどんな子なのか自分の目で確かめないと納得できない




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「駄目ですよ、炭治郎くんはまだ治療中なので」


蝶屋敷に来た私にしのぶさんがにっこり微笑む
それに負けじと私も笑顔を浮かべた


「会うだけでいいんで」

「なら刀を置いてきてほしかったですね」


しのぶさんは私が例の鬼となった妹さんに斬りかかると思ってるんだろう
どうやら今日は会えそうにないので大人しく帰ることにした

そして2週間後、炭治郎…例の隊士が機能回復訓練に入ったと聞き蝶屋敷にやってきた
稽古場へ向かうと、なにやら中庭の方が騒がしい
そちらを覗くとちょうど金髪の男の子が猪の被り物をした男の子を殴った場面だった
かなりいい一撃が入ったように見える


「伊之助!!!なんてことするんだ善逸!伊之助に謝れ!!」

「ううう…!」


殴られた猪頭の男の子はかなり怒っているらしい、今にも反撃しそうな勢いだ
そして仲裁に入っている男の子、あの子が一番まともそうに見える


「ああ?!お前が謝れ!お前らが詫びれ!天国にいたのに地獄にいたような顔してんじゃねぇーー!!!
女の子と毎日キャッキャキャッキャしてただけのくせになにをやつれた顔してみせたんだよ土下座して謝れよ!!切腹しろーーー!!!」

「なんてこと言うんだ!!」

「黙れ!この堅物デコ真面目が!!黙って聞けよいいかー!!
女の子に触れるんだぞ?体もんでもらえて湯飲みで遊んでるときは手を!鬼ごっこしてるときは体触れるだろうがー!!!
女の子1人につきおっぱい2つ、お尻2つ、太もも2つ付いてんだよ!すれ違えばいい匂いもするし、見てるだけでも楽しいじゃろがーい!!
うぎゃーーー!!!幸せ!!!うわっ幸せーーー!!!」


金髪の子はとんでもなく煩悩の塊だなと呆れてしまう
どうか無一郎にはああはならないでほしい


「訳わかんねえこと言ってんじゃねえよ!自分より体小せえ奴に負けると心折れるんだ!!」

「やだ可哀想!伊之助女の子と仲良くしたことないんだろ、山育ちだもんね、遅れてるはずだわ!ああー可哀想ー!!!」


金髪の子のその言葉にふふっと声が漏れる
3人の視線がこちらを向いた


「山育ちが遅れてる、か…うんそれは一理あるかも」


3人に向かってにっこりと微笑むとすかさず金髪の子が近寄って来たので触れる前に足払いして地面に薙ぎ倒した
少し手荒だけど防衛本能が働いてしまったので許して欲しい
そしてその金髪の子を見下ろして首を傾げる


「キミが炭治郎くん?」

「え」


ピシッと固まった金髪の子
この反応からして違うらしい


「あっ、俺です」


名乗り出たのは仲裁していたまともそうな子
鬼を連れているなんて言ってたからどんな子かと思えば意外だ

炭治郎くんに近づこうと歩みを進めると猪頭の子がぐわっと詰め寄ってくる


「おいお前!山育ちバカにしてんじゃねーぞ!!」

「バカにしてないよ、私も山育ちだから
山菜って本当に美味しいよね、今度時間あったら取りに行こうかなぁ」


そう告げると猪頭の子は急に大人しくなる
あれ、この子も意外と物分かりがいいのかもしれない、その被り物は謎だけど


「あの…俺に何か用ですか?」

「うん、私は菜花祈里」

「祈里…さん」


炭治郎が目をぱちぱちとさせた
彼の目は時透のおじさんに似ていて赤い


「敬語じゃなくていいよ、私の方が年下だろうから」

「えっ、いくつなの?」

「14歳」

「禰󠄀豆子と同じだ…!」


禰󠄀豆子、そう告げた炭治郎をまっすぐ見つめる
彼からは悪い風の気配はしない、何かを企んでいる様子ではない
もう少し探るかと思った時、扉がスパーンッと開く


「祈里!今は訓練中なので後にしてもらえる!?」

「ああアオイ、こんにちは
しのぶさんから炭治郎くんが機能回復訓練に入ったって聞いてつい」


よいしょと立ち上がってから炭治郎に微笑む
アオイの機嫌も悪そうだしあまり邪魔する訳にも行かないのでひとまず退散しよう


「訓練が終わったら少し話せるかな?」


金髪の男の子がキーッ!と発狂していたけれど炭治郎君は私の圧に押されたのか緊張した面持ちで頷く
訓練が終わるまでしのぶさんのところにでも行こうかと踵を返した私の背を眺めていた炭治郎たちが不思議そうにしているのでアオイは口を開く


「あの子は祈里、上から2番目の階級乙の隊士よ」






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