鷹乃学習




「祈里、おはよう」

「どこに行くの祈里」

「祈里、これ一緒に食べよう」


おかしい、無一郎の様子が明らかにおかしい
この前風邪を引いて寝込んだ後から急に無一郎がこんな感じになってしまった
昔の無一郎みたいに笑顔だとかそういうわけじゃないけれど、明らかに前よりも声のトーンが上がっている

それに何と言うか、かなり過保護だ


「祈里、どこに」

「に、任務だよ!」

「そっか…」


しょんぼりしたように見える無一郎に罪悪感が凄まじい
でも任務は絶対なのでサボるわけにもいかないため心を鬼にしてお屋敷を後にする
その後1日ほどで到着した任務先には丙の階級を持つ隊士がいた


「初めまして、菜花さんのことはよく聞いています!」

「えっと…それはどうも…?」


なんだか変な人だなと思いつつも任務をこなし、颯に報告を依頼する
隠の人にも情報共有しこれにて任務完了
出立の時の無一郎を思い出して帰ろうと思った時、その隊士の人から告白された
あまりにも突然すぎたのと、隠の人も周りにいる状況だったので口をぱくぱくさせていると勘違いされたのかOKだと捉えられたらしい


「じゃあまた手紙を送りますんで!」

「え、ちょ!」


誤解を解く前に立ち去ってしまったその人に青ざめる
名前も知らないのに告白された…と




−−−−−−−−
−−−−




無一郎のお屋敷に帰ってきてからもその悩みは解決しそうになかった
なんせ名前も知らない隊士なので誤解の解きようがないのだ


「どうしたの祈里、何か考え事?」


私の顔を覗き込む無一郎にハッとする
そうだ、今は無一郎と稽古中だった


「ご、ごめんね!集中途切れてた…!」

「ううん、疲れた?休憩する?」

「大丈夫だよ」


前までの無一郎なら「集中してないならもうやめなよ」とか言ってもおかしくないのに随分優しい回答に調子が狂う

そもそもどうして無一郎はこんなに豹変したんだろう
思い当たる節がなくて守屋さんや向田さんに問うてみたけど、2人ともにっこりと微笑んで「知りません」と告げるのみ


「ねえ無一郎、なんだか最近変じゃない?」

「変?僕が?」

「うん」


無一郎はうーんと考えるような素振りを見せる

と、その時颯じゃない鴉が舞い降りてきた
どこの子だろうと不思議に思うも、その足についている手紙を読んで全てを理解した
この前の任務で出会ったあの隊士の鎹鴉だ


「何これ」


横から手紙を読んだ無一郎が低い声を発した
初めて会った時のような冷たい声に思わず背筋が伸びる


「恋文?祈里宛に?誰から?」

「あ、それは、その…」

「答えなよ祈里、誰からなの?」


直感した、これはまずいと
勢いよく駆け出した私を無一郎は追いかける


「守屋さん!筆を!」

「はっ!」


スッと現れた守屋さんの手にある筆を取って先ほどの手紙に「お断りします」と書く
そのまま無一郎に見つからないよう屋根に登って先ほどの鎹鴉の足にくくりつける


「キミのご主人にごめんなさいって伝えてくれる?」


空高く飛び立つ鎹鴉
それを見送ると同時に背後に無一郎が降り立った


「話は終わってないよ祈里」


冷たい表情で見下ろす無一郎を振り返る
どうしてこんなに過保護になったのか、それに先ほどの行動も含め考えてみると1つの仮説に行き着いた


「ねえ無一郎」

「何?」

「もしかして…嫉妬?」


そう尋ねると無一郎はぽかんとした後で真顔になる
その様子を冷や汗だらだらで見守っていると、無一郎はしゃがんで私と目線を合わせた


「祈里は僕の友達なんでしょ、だったら僕の傍にいなよ」

「え」

「ね、祈里の一番大切な人は誰?」


答えは分かっていると言いたげな顔で首を傾げたその表情は本当に記憶を失っているのか不思議なほどに懐かしさがあった


「そんなの決まってる…無一郎だよ」


私はあなたを生かすためにここにいる、残りの人生をかけて罪を償うために
そしていつか無一郎が記憶を取り戻した時に彼が私の断罪を望むのなら、それを受け入れる覚悟もある

私の答えを聞いて無一郎は頬を緩ませた






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