乃東枯
13歳
鬼殺隊に入って1年が経った
夏目前のこのタイミングで私は風柱の不死川さんの下へ来ている
以前任務の際に風柱の不死川さんと共に鬼を狩ったのだが、その際に不死川さんの発生させる暴風を邪魔しないように立ち回ったことで名を覚えられていたらしい
「オラオラァ!!こんなもんじゃねェだろ!!!」
「(ひぃぃ!!!怖いいいい!!!)」
ガツガツ打ち込んでくる不死川さんの攻撃を受け流しひたすら逃げ回る
木刀なので当たっても致命傷にはならないけど絶対に痛い
不死川さんといえば先生からも聞いていた超武闘派の剣士、下手すれば数ヶ月まともに動けなくなるかもしれない
「逃げてばかりじゃ強くなれねェぞ!!」
「っ!」
そうだ、不死川さんのところに来たのは強くなるためだった
1年経って階級は丙まで上がった、ただ以前に比べてどうしても鍛錬の成果が見えづらいので自分では気がついていない癖などを指導してもらおうとここへ来たんだ
「はあああ!!!」
しっかり踏み込み不死川さんへ斬りかかる
攻撃は最大の防御、風の呼吸の使い手は相手に反撃させない荒々しさが必要となる
突っ込んできた私を見て不死川さんは不敵に笑った
−−−−−−−−
−−−−
「やりすぎですよ、風柱様」
不死川さんのところの隠の方から治療を受ける私の頭に巻かれた包帯を見てバツが悪そうに目線を逸らす不死川さん
対する私はへらへらしながら「いえいえ大丈夫ですよ」とお茶をいただいた
「そもそも私がお願いしたんですから」
「ですが…」
「女だから、子供だからと手加減されるよりずっといいです」
13歳の女ということでやはり周りから舐められることも多い
それを1人の隊士として扱ってくれるのは嬉しいものだったりする
隠の方が下がってから不死川さんと2人でお茶をいただく
「正直断られると思ってました」
「あ?」
「この稽古ですよ、不死川さんに断られる覚悟で来たんです」
不死川さんとは一度任務で会ったのみで相手は柱、私はただの隊士だ
無一郎の時はほぼ無理に押し切ったが不死川さん相手にそれが通用するとは思わなかったので少し驚いたところはある
「別に…あの婆さんからお前のことは聞いてた、力になってやってくれっつーからそうしただけだ」
「扇町さんと知り合いなんですか?」
「まあな、昔何度か世話になった」
「へえ…!」
知り合いの名前が出たことで嬉しくなった私に反して不死川さんは苦そうな顔をしていた
きっと先生にかなりしごかれたんだろうと思うと同情してしまう
「菜花、お前時透のとこに住み着いてんだろ」
「人を虫のように言うのやめてください」
「だが事実だろうが」
「まあそうですね」
ズズッとお茶をいただくと不死川さんが遠くを眺める
この人は見た目に反して穏やかに話すこともできるらしい
というか基本的に優しい人なんだと思う、彼を取り巻く風はとても穏やかだ
「あいつは記憶がないらしい、それに新しいことも覚えられねェ…お前はあいつの過去を知ってるんだろ」
「…さあ?どうでしょうか」
不死川さんが先生から何か聞いているとは思えない
だから私も本当のことは言わず誤魔化した
私の回答に「チッ」と舌打ちした不死川さんに微笑む
「不死川さんって優しいんですね」
「その目は節穴か、アァ?」
「とか言いながら今も無一郎のことを気遣ってくれてますよね」
「…」
黙り込んだ不死川さんはしばらくしてから「婆さんに似てんなお前」と引き攣った顔で言った
先生と私が似ているなんて思ったことはないけど、あの飄々とした人に近づいてると思うと悪い気はしない
「1年で丙…まあ悪くねェ、婆さんに頼まれた手前放っておくわけにもいかねェ…俺が暇な時ならいつでも稽古をつけてやる」
「えっ、いいんですか?!」
「その代わり結果を出せ、無駄な時間を過ごさせたら許さねェぞ」
「はい!ありがとうございます!」
元気よくそう言えば、不死川さんは呆れたように息を吐いてから私の頭を撫でた
多分無意識だったんだろう、私を撫でている不死川さんは誰かと重ねてるような顔をしている
しばらく撫でた後でハッとした顔に戻った彼はまたバツが悪そうに目を逸らした
「悪ィ…妹と重ねた」
「妹さんいるんですね」
「…いや、”いた”だ」
その言葉に不死川さんの過去がいいものではないことを察した
この人もまた鬼に強い恨みを持っているのかもしれない
自分の話を誤魔化したというのにこの人は私を信用して話してくれたんだろう
「(やっぱり優しい人だなあ)」
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